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たぶんO型(5)

2017-01-24 07:52:05 | 小説
「親父、香川さんと何話してたの」「まぁ色々とな」また、煙草の煙を吐きながら続ける「いい子じゃないか、ちょっとうざいくらいだが、色々聞かれたよ」相変わらず外弁慶で、さっきとは逆に不愛想な顔でそう言う。「親父のノリに合わせただけだろ、迷惑そうじゃなかったか」「全然」親父は、何の疑いもない顔をしていた。「そう、そりゃいい子だったんだろうな」僕は親父に情けをかけ際、部屋に戻ろうとして踵を返す。「そういえば、また漫画描くことにしたよ」「そうか」顔をこちらに向ける素振りもせず、不愛想な顔のままだ。「あんまり嬉しくない?」「、そんな不安定な仕事を目指してる子どもには親は喜ばん」親父はあくまで強がって見せたが、それがむしろ墓穴を掘っているようにも見えて、僕は口答えしたくなった。「俺が建築家にならなかったのが、そんなに気に入らない?」口調がキツくなったような気がして、少し付け加える。「別にいいじゃん、建築家も漫画家もアーティストには違いないんでしょ?」僕の言葉も、あまり言いたいことがよく分からなかったかもしれないが、親父は煙草を吹かし頑固な親父を演じていたが、内心考えがまとまっていないのだろう、彼は今、子供に対してどんな言葉を投げかけるのか適切なのかを必死に探しているに違いない、そうして結局何も言えずに終わる。うちの親父はそういう人だ。親父は僕と違って大学まで出ているくせして、情けないなと、思っていた。「まぁいいか」と部屋に戻ろうとすると、「まぁ頑張れよ」と言葉を投げかけた、その言葉はあまりに薄情だった、軽率で、無意味で、そして情けなかった、20年子育てをしてきて、それだけしか出ないのかと、それでよくかっこつけられるなと。怒りを投げかけたいほどだったが、僕は「はい、」と返事をして部屋に戻った。

僕と廣津さんは何日かかけて、漫画を制作していった、ネームは僕が描き、廣津さんが原稿を描くということに落ち着き、同時進行で順調に進んだ。その中でも、「僕アルバイト一旦やめるよ」「うん、そうしてくれると助かる」とか、「目指すは芥川賞だね」「それは小説でしょ」とか、話し合って、丁度いい具合になごやかなムードが終始続いた。漫画の制作を再開して、家内外でもネタ集めがまた日常化して充実した日々を送っていた。
そんなこんなで1ヶ月くらい過ぎた頃、それは冬のごく寒い、雪の予報でも出たんじゃないかという日のいつっもの僕の部屋で。「ねえ廣津さん」「はい?」「もし僕が今スランプに陥ったって言ったらどうする?」2人のペンが止まり、雪も降ってないのに、しんしんという音さえ聞こえてきそうなくらい静まり返った。ゆっくりと、廣津さんの口が開いた。「スランプになるほど技術もないくせにって言うね私なら、言ってないで描いちゃいなさいって」僕もまた冗談混じりで返す。「すいません頑張りまーす」
その後も制作は順調に、本当に順調に、何事もなく進んだ、びっくりするくらいスムーズなので、違和感を感じるほどだったが、平和な、夢みたいな時が続いた。疲れれば休んで、お茶を飲んだり談話したり、2人で音楽を聴いたりした。時折には香川さんも遊びに来ては親父と話し込む日もあれば3人で漫画について話し合った。会っては進捗状況を話し、ネームと原稿をそれぞれ見てもらうと完全な客観目線である香川さんは的確で冷静なアドバイスをくれる、そのアドバイスによっては完成原稿を1から直すこともあった。「それにしても変わったお題だね、”引きこもりの僧侶がキリスト教に傾倒していく話”・・・か、何度読んでも新鮮さがある、安藤くんの真骨頂ってここだたんだね、そのセンス分けて欲しいくらい」と香川さんは感心する。「少年誌向けではないけどね、作品を見て貰うってことが大前提だから描いてるけど」「2人とも少年誌希望だから、今後担当さんと話し合ってやってくつもり、それもまず作品を評価してもらわないと始まらないからね」ネームを囲んでこうして3人で雑談しているのを、ふと冷静に考えると、すこぶる不思議な感覚に襲われる、専門学校を卒業して3年たって、クラスメイトの事なんかすっかり忘れてしまったと思ったが、こうして集まっている、もはやこの3年が僕の錯覚でもあるかのように、今の状況が当たり前になってしまったのだ。あの時のクラスメイトや先生は今は元気でやっているだろうか、プロの漫画家になった者は、一体どれだけいるのかな。「石田さんもあれで大変らしいよ、毎週追われるようにして描いてるって言ってたし」香川さんが腕を組みながら神妙な顔で言う。「あの石田さんでも、でもは言い過ぎかな、まぁでもあの石田さんがプロとはね、」僕は会話を聞きながら、実は一人狐につままれたような心持がしていた。「石田さんってプロになったの?」すると香川さんは、「あれ、聞いてないの?」と言った。聞いているはずがない、僕は確かに石田さんとは少なからず仲はあったのだが、石田さんも含めて僕はクラスメイトと連絡先を交換していないので知る由がない。石田さんと言えば、元自衛隊という異色の経歴で学校に入ってきた過激なセンスを持った男子。
「そう、元自衛隊っていう経歴を生かして実録漫画みたいなのを描いてるらしいよ」香川さんはどことなく得意げに教えてくれた。僕は正直、驚きを隠せなかった、というのも、石田さんというのはセンスや勢いこそ凄みはあったが、画力が圧倒的に低かったのだ、何せ最初に石田さんの絵を見た時は、利き手と反対の手でで描いているのかと思うほど下手くそで、この人は何でここにいるのだろうとさえ思ったくらいで、あろうことかあの画力でプロになるとも思いも出来なかった。つまるところ、漫画家になるのに必要なのは画力ではなく、一つ伝えたいものがあるという石で会ったり熱意、努力を続けられる才能、要するにプロになるという意識あるいはは現実感、それらは己の才能とか、境遇もかかわってくるけれど、少なくとも石田さんに関しては、そのあたりの要素が上手くかみ合ったという事なのだろう。「私もまさか石田さんに追い抜かれるのは思わなかったな」「私も、まさにハトに豆鉄砲みたいな」
「ところで君たち、締め切りはちゃんと決めてるの?趣味であってもそうだけど、ちゃんと締め切りを決めておかないとだらだらやってしまうことになっちゃうんだよなぁ」それには、廣津さんが応じた。「それには及ばないよ、まぁ確かに、学生時代はだらだら遊びながらやってたけどね」
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