団塊亭日常

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日本の通信事業とグローバリズム10 米国1996年通信法の影響

2017-01-30 14:11:26 | 回想のNTTデータ

1996年2月に発効された米国1996年通信法が米国発日本着のグローバリズムにどのように影響したか。そしてなぜ日本で通信業界のグローバリズムがうまくいかなかったのか。その全体像を描くことは大変だが片鱗を実例で垣間見ることはできる。

1995年8月4日に1934年通信法を大改正し放送通信自由化を促進する法案が起案される。通信とCATV網の相互接続を認可する内容を含むもので、この法案が成立するとCATV会社の通信事業への参入が一層加速されることが期待された。1996年2月8日に1996年通信法が成立した。

マイクロソフトが1996年通信法成立後、1997年以降にケ-ブルテレビに参入することで通信業界に買収が活発化する。マイクロソフトのケ-ブル会社買収活動はその後日本にもおよぶ。2000年頃、マイクロソフト本社のスタッフがタイタス・コミュニケ-ションズに1人で来社して数十億円の資本参加をさっさと決めて米国に帰って行った。マイクロソフトともなるとこの程度の出資などいとも簡単に行うのだと感心したことがある。

当時マイクロソフトは米国でゲ-ム業界に乗り出そうとしておりXboxの販売にテコ入れを行っていた。そのためにブロ-ドバンドの普及が必須課題であった。米国のみならず日本でも足ががりとしてタイタス・コミュニケ-ションズに資本参加を決めたものと推測される。この出資が2000年9月にはジュピタ-・テレコムによるタイタス・コミュニケ-ションズ買収にまでつながっていくことになる。

1996年2月から米国で目まぐるしい合併劇が

1996年2月27日 USウェストがCATV第三位のコンチネンタルケ-ブルビジョンの買収計画を発表。これは1996年法成立を受けて通信とCATV相互参入を狙った初の大型買収であり買収総額は8億ドル。USウェストは日本のMSOタイタス・コミュニケ-ションズにもこのコンチネンタルケ-ブルビジョンに先行して1995年1月17日に資本参加と経営参加をしており、日米両国でケ-ブルテレビへ積極的に進出しようとしていることがわかる。以降、米国で目まぐるしい合併劇が繰り広げられることになる。

1996年6月4日 ベルサウスとタイムワーナー・コミュニケ-ションズが相互接続協定を2年間締結。

1997年6月9日 マイクロソフトがCATV4位のコムキャスト株15%を取得。10億ドル相当。

1998年6月24日 AT&TがTCIを総額480億ドルで買収合意。12月30日 司法省が承認 1999年3月9日 買収完了。

1998年12月14日 マイクロソフトがクエストコミュニケ-ションズに資本参加。

1999年3月 CATV三位のコムキャストがメディアワン買収で合意。4月22日 AT&Tが625億ドルを提示してAT&Tとコムキャストが5月6日買収合意。

1999年5月6日 マイクロソフトがAT&Tへ50億ドルの出資。3%に相当。CATV利用の高速通信分野での提携を発表。

1996年11月19日、日米包括経済協議作業部会でNTT(20%未満)、KDD(20%未満)、CATV(三分の一)の外資規制撤廃を要求。これを受けて1997年1月27日に郵政省はCATVの外資規制を撤廃した。

1997年6月日本初のケーブル電話サービスを開始

1997年6月になると、ケ-ブルテレビの映像を送るために架設された光ファイバと同軸ケ-ブルのハイブリッド回線、つまりHFC回線を使って電話サービスが開始された。1月から試行的に、つまり限りなく実際のサービスに近い実験サービスとして3ヶ月間提供してきたが、大きな課題をすべて解決して本格サービスを開始することになった。通信設備は順調に稼動したが警察への通報110番、消防署への119番に問題があった。

タイタス・コミュニケ-ションズ電話の加入者が警察や消防に緊急通報したいときに問題なく着信できるようにするため、警察や消防にタイタス・コミュニケ-ションズから専用線を引き、消防署構内にタイタス・コミュニケ-ションズ専用の着信装置を置いてもらわねばならない。NTTのロ-カル交換機に接続するだけでは110番、119番に接続してくれないのだ。NTTの交換機は、NTTの加入者のみ110番、119番につなぐことが可能で、タイタス・コミュニケ-ションズのような他事業者の加入者から110番、119番への接続機能が無いという。 これは110番119番接続がNTTのみという前提で特有の機能が開発されており他事業者経由ではその特殊機能が使えないシステムになっているためだ。発信者が必要な情報を通知しない間に電話を切ってしまった場合にその回線を保留し続ける機能や救急車派遣のための住所地図情報提供機能などを持つことが一般回線とは異なる。

警察は専用回線を引いて終端装置を設置することでクリアできたが消防署は終端装置を置くスペ-スがないとの理由でなかなかうんといってくれない。消防署にしてみれば、今までNTTとのみ接続しておればなんの問題もなかった。それがタイタス・コミュニケ-ションズなどという聞いたことも無い会社が構内にスペ-スを設けて、接続装置を置けと言う。ほんの一握りのケーブル加入者のために余計な仕事をかかえこみたくないというのが本音であったのだろう。

それに、NTTが全国の主要消防署に提供している位置表示システムもなかった。これは119番がかかってくると、ディスプレイに発信者の住所地図を表示するもので、電電公社時代に開発し提供していたものだ。これと同じものを要求されてもコスト的に無理だ。

やむなくタイタス・コミュニケ-ションズ加入者の住所と電話番号のリストをいつも最新にしてプリントアウトし、届けるということで、当座をしのぐことにした。しかし、署長はなかなか最終回答をくれない。困り果てた私は米国人CTOジョンをつれて手土産に日本酒の一升瓶をもって署長を訪問することにした。巨漢髯面の米国人が一升瓶をさげて、頭を低くして英語で署長にお願いする。なにやらおかしさがこみ上げる風景だが、ジョンは大真面目だ。その誠意が消防署長にも通じたのかようやく最終回答をもらうことができた。

千葉県柏市でケ-ブル電話サービスは始まった。もともと米国のUSWESTが開発した技術であり、NTTの足回り回線に頼らなくてもすみ、ケ-ブルテレビ加入者に映像と電話のマルチサービスが提供できるということで導入された。この頃各国とも電話のラストワンマイルを如何に代替できるかで知恵を絞っており、ケ-ブルの普及率が当時すでに70%を越える米国で、広域化して周波数帯の幅が広がった既存ケ-ブルの余剰の周波数を使って始まった。新しい試みということで日本でも郵政省の関心を引いたが、この電話サービスも期待通りには伸びてくれなかった。

値下げは品質が悪いと言う凡庸な外資経営者

ケ-ブルテレビの料金と同様、電話サービスの料金も他の新電電であるDDI・日本テレコム・日本高速通信と同レベルの料金で、基本料もNTT東西に比べて50円程度安い程度だ。これではNTTなり新電電から乗り換えようとのモチベ-ションが低い。当時モルガン・スタンレ-が定期的に出しているレポ-トのひとつに「これからの新電電・動向を探る」特集があり、そのなかで顧客の料金に対する詳細なアンケ-トを実施しテ-マとめた結果を掲載していた。

この当時最も分かりやすいのは市内料金と最遠距離料金の比較で、最遠距離は具体的には東京-大阪間の距離になる。このレポ-トによると市内料金はさておき、最遠距離でも15円の差がないと顧客は魅力を感じて乗り換えてくれない。つまり新会社に移ってアダプタや登録を変えるわずらわしさと、低廉な料金の魅力のトレ-ドオフなのだが、顧客の乗り換え動機には15円以上の差が必要なのだという。

販売が伸びない原因は価格設定にあると考えている人々もいて一時価格低廉化実現の兆しを見せたことがある。もっと廉価にしてうんとハ-ドルを下げないと売れないだろうと考えたのだが、実現寸前に値下げ案は却下された。値下げは品質が悪いという印象を顧客に与えるという、米国流の教科書的マ-ケティング理論をもとにした異論がエクスパットから出て、低価格戦略は結局実を結ばなかったことになる。後にソフトバンクのADSL開業で半値以下の安売り攻勢が功を奏したことを考えると彼らのマーケティングが日本では間違っていたことがわかる。

エクスパトリオットのモチベ-ションと外資経営の矛盾

モルガン・スタンレ-の意見のみではなく社内の電話チ-ムの意見も値下げで顧客を増やさないとどうしようもないという意見であったが、当時の経営チ-ムは料金を下げることを嫌った。エクスパトリオット達は出資の段階でビジネスプランを提出して、3年後に単年度黒字、5年後に累積黒字を出資会社に約束している。もっと正確に言うと企画者は別にいて、パトリオット達はその企画に従って送り込まれてきた人たちだ。そのビジネスプランどおりに計画を推進して、一年程度で目鼻が見えた段階で本国に凱旋することを期待されている。しかし、料金を下げると、黒字化計画をキ-プするためには必然的に顧客獲得数を当初の計画以上に伸ばさざるを得ず、そうなると設備増設が必須となり、資金のアップを要求することになる。出資会社はおいそれとは増資に応じない。仮に応じても長期戦になり彼らパトリオットの本国帰還は遠のくことになる。通信業界におけるグローバリズムのリアルな例として参考になるかと思う。

USWEST日本進出の動機

 それにしてもUSWESTという米国地域電話会社が25%の投資までして、タイムワーナー社と組み、なぜ日本にまで進出してきたのだろうか。

 1996年2月8日民主党クリントン政権化で米国連邦通信法が改正され、1996年電気通信法が成立した。62年ぶりの大改定といわれ、米国の通信業界はもとより、日本の通信業界や郵政省も大いに関心を示した。米国の通信業界は大きく3つのグル-プに分かれてそれぞれが相互参入することを従来の電気通信法で制限してきた。

第一のグル-プは7つの地域電話統括会社で、1984年のAT&T分割で生まれた。第2のグル-プは米国各州間の通信を扱う長距離通信会社の大手4社で、NTTの長距離部門と日本の新電電に相当する。第3のグループはケーブルテレビ運営会社大手3社だ。

第一のグル-プである地域電話統括会社はILECと呼ばれベル・アトランティック、ナイネックス、アメリテック、ベルサウス、SBC、USWEST、パシフィック・テレシスからなる。第2のグル-プである長距離通信事業者はAT&T MCI スプリント ワ-ルドコムからなる。第3のグル-プであるケ-ブルテレビ事業者はTCI、タイムワーナー、コムキャストからなる。

これらの通信事業の巨人たちが「free for all」の旗の下に相互非参入の有形無形の垣根を一斉に取り払われたのだ。これらの企業が色めきたったのは想像に難くない。企業防衛の観点から、あるいはビジネス上のチャンスを求めて新天地に乗り出していった。その中のひとつの動きとしてUSWESTとタイムワ-ナ-の日本進出があったと推測している。グローバリズムは巨大企業の要請で引き起こされ、それがさまざまな不都合を生み出すと政権の力で保護主義に向かうということがトランプ旋風によってよく理解できた。

 

 

 

 

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