まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

欠席届に対するダメ出し

2016-05-17 14:35:15 | お仕事のオキテ
本日、大学に来てみたら学生さんからメールが届いていました。

こんな文面。

「小野原雅夫先生
 人間発達文化学類 学籍番号 ********* の ●●●● です。
 いつもお世話になっております。
 本日5月17日の4限目の倫理学概説の授業ですが、
 私情により欠席しますので
 よろしくお願いします。」

とても丁寧な方ですね。

公欠とか大会出場とかいうのでないかぎり、

連絡してこようがこまいが出席点への配慮はありませんので、

大学の講義科目の場合はいちいちこんな欠席届を提出する必要はないのですし、

実際、たいていの学生さんはこんなものなしに勝手に休んでしまいます。

ゼミ (演習科目) の場合はまた別で、

卒論生にはゼミを休む場合には必ず連絡するようにと指導していますが、

意外とゼミであっても無断欠席というのはありますし、

ひどい場合には自分が発表当番に当たっているのにもかかわらず何の連絡もなく来なかったりして、

今どきの学生はどうなってるんだと頭に来ることもあります。

それに比べると講義の授業にもこうやってきちんと連絡してきてくれるというのは、

今日日とても珍しい礼儀正しい学生さんです。

教員に対して 「先生」 という敬称を正しく用いている点、

きちんと名乗り、「いつもお世話になっております」 みたいな一言を入れている点も評価できます。

なんですけれども、この欠席届に対しては2つダメ出しをさせていただきたいと思います。

非難しているというわけではなく、将来のための指導だと思ってお聞きください。


まず引っかかったのは 「私情により欠席します」 という言葉遣いです。

これは日本語として間違っています。

ウェブで 「私情とは」 で検索してみたところ、例えばこんなのが出てきました。

「デジタル大辞泉の解説
 し‐じょう〔‐ジヤウ〕【私情】
 1 個人的な感情。私意。「私情にとらわれる」「私情を交える」「私情を捨てる」
 2 利己的な心。私心。
 「先方の利益を思うよりもわが―を満足さすばかりの」〈蘆花・思出の記〉 」

「大辞林 第三版の解説
 しじょう【私情】
 (1)個人的な感情。 「 -をさしはさむ」
 (2)利己的な心。」

私の手元の 『新明解国語辞典』 を見てみても同様でした。

したがって 「私情により欠席します」 と書くと、

「個人的に授業なんか行きたくない気分だから休みます」 とか、

「利己的な理由により欠席します」 という意味になってしまうのです。

これでは、せっかく丁寧に欠席届を出したのに、教員に対してケンカ売ってることになりますよね。

たぶんこの方はそういう意味で 「私情により欠席します」 と書いたのではないでしょう。

おそらく 「私的な事情により欠席します」 ということを伝えたかったのでしょう。

その場合は 「所用のため」 とか 「個人的な事情により」 と言わなければなりません。

おそらくどこかで日本語を間違えて覚えてしまったのでしょうね。

この機会にぜひ正しく覚えていただきたいと思います。

実は先ほど 「とは検索」 をしてみたら、ものすごいことに気がついてしまいました。

gooでの検索結果の2番目にこんなものが出てくるのです。

「私情によりの同義語 - 類語辞典(シソーラス) - Weblio辞書」

「Weblio類語辞書
 私情により
 意義素:私生活の事情に起因しているさま
 類語: 私事により ・ 私情により ・ 私用で ・ 個人的な事情により ・ プライベートな事情により」

うわあっ、ウェブ上の辞書に間違った意味が堂々と載っちゃってるじゃないですか!

ひょっとすると今回の学生さんはわざわざこういうのを調べた上で書いてくれたんでしょうか?

声を大にして申し上げます。

この辞書は間違っています。

先週の授業で、ウィキペディアの 「生存権」 の項目が間違っているという話をしましたね。

ウェブ上には怪しい情報もいっぱい載っていますので鵜呑みにせず、

ウェブ上の情報はほんの入口くらいに思っておいて、

最終的には紙媒体にあたるよう心がけてください。


さて、「私情により欠席します」 は日本語として間違っていて、

正しくは 「所用により欠席します」 と書かなければならないということを確認しておいた上で、

2番目のダメ出しに移りたいと思います。

「所用 (個人的な事情) により欠席します」 というのは日本語としては正しくなりましたが、

欠席届としてはまったく無内容なので、私はこういう欠席届は認めません。

ゼミの学生がこういう欠席届のメールを送ってきたら私は受理せず、次のように突っ返します。

「所用 (個人的な事情) とは何ですか?

 公欠や急病というのでないかぎり、大学の授業を休む理由にはならないはずです。」

所用とか個人的な事情と言ってしまうと、バイトとか飲み会とか眠いとかパズドラで忙しいなど、

どんな理由でも含まれてしまいます。

教員としてはそんな理由で休むことを認めることはできません。

したがってわざわざ欠席届を提出して、休むことを認めてもらいたいのであれば、

それがどういう所用 (個人的事情) であるのかを明記する必要があります。

例えば、公欠や病欠ではないけれども、実家の祖父の入院を手伝うために急に帰省するであるとか、

下宿先のアパートの水道管が破裂してしまって工事に立ち会わなければならない、

などの理由を書いてきてくれた人がいて、それは仕方ないよなあと納得したことがありました。

そういう具体的理由が書かれておらず、ただ 「所用により欠席します」 だけであれば、

こちらとしては無断欠席されるのと大差ないわけです。

学校や仕事 (=強制参加) の欠席ではなく、

飲み会や遊び (=自由参加) のお誘いをお断りする場合であれば、

特に個人的事情を告げずに 「今回は所用により参加できません」 だけで十分ですが、

欠席届の場合はどんな事情であるかを開示する必要があるのです。


というわけで、御丁寧に欠席届を送ってきてくれた人にダメ出しするのは心苦しいのですが、

今後、せっかくの気遣いが無駄になったり逆に仇になったりすることのないように、

正しい日本語を使うこと、欠席理由を明記することの2点を覚えておくようにしてください。


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