まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.教えていて自分に何かよい影響を受けましたか?

2009-10-05 19:19:23 | 哲学・倫理学ファック
先週先送りにした
「Q.倫理学の教員になってよかったと思うことと、大変だと思うことは何ですか?
の前半部分も同様の質問でしたね。
この手の質問を今年は何人かの方から頂戴しましたが、
去年まではこういう質問を受けたことがなかったように思います。
この質問自体が私にとっては、新たな発見を促すとてもよい刺激になりました。
こんなふうに答えてもいいくらいです。

A.学生からの質問によって新しいものの見方が切り開かれたのがよい影響です。

「問いの力」 についてはそのうちまた別のカテゴリーで書くつもりですが、
今回の問いは、私に自分の人生を見直させるくらいの力をもっていました。
前に、大学の教員で最初から教員になりたかった人はだれもおらず、
ただ研究者になりたかっただけなのに、大学教員にならないと研究を続けられないので、
しかたなく大学教員になったんだ (もちろん超ラッキーではあったけれど)、
という話をしました。
実際私も教員になりたての頃は、授業をするのがイヤでイヤでしょうがなかったですし、
今でも4月と10月になるとブルーになります。
そういう話ばかりしていると、だんだんと自分の脳に、
「教えるのがイヤだぁ」 というモードがすり込まれていってしまうのですが、
今回のような質問をいただくと、別の視点で 「教えること」 を捉え直すことができます。
教員になってよかったことは何だったんでしょうか?
先のお答えとは別にこんなふうにお答えしておきましょう。

A.自分の強みを活かせる仕事に就けて、生き生きと働き、楽しく生きることができています。

最初のうちはイヤでイヤでしかたなかった授業ですが、
最近ではけっこう楽しみながらやれるようになっています。
それはなぜかと考えると、2つの要因を挙げられるような気がします。
まず1つは、説明する楽しさに目覚めたということ。
もともと人前で話したりするのは得意ではありませんでした。
だから、大学の講義のことを、話をすることによって学生に何かを伝える場と考えると、
私にとってはとても苦痛な感じがしてきてしまいます。
しかし、考えたり書いたりすることは好きでしたので、
どうやったらわかりやすく説明できるだろうかと、
問題を分節化 (分けてみる) してみたり、実例を考えてみたりするのは、
けっこう楽しいし、そこそこ得意なのかもしれません。
何年か講義をやってきて、だんだんと人前で話をするのにも慣れてきたところで、
うまく説明できて、みんなにちゃんと伝わったなあと感じられる瞬間が、
少しずつ積み重なってきてみると、説明する快感を覚えるようになってきました。

授業をするときはもちろん入念な準備をしていきますが、
しかし、昔の哲学者のように、完全原稿を準備して、
それを学生の前で読み上げていったりするわけではありません。
授業はライブですから、お客さんの反応を見ながら、
アドリブやらインプロビゼーションを利かせて説明をしていくわけです。
そのとき、今説明しようとしている事柄にピッタリ当てはまり、
しかも学生の皆さん誰もが知っているタイムリーな例とかを上手く思いつけたときは、
「ヤッター!」 と小さくガッツポーズ したくなります。
ゼミなんかの場合には、もう恥も外聞もなくゼミ生たちに、
「ねぇねぇ、今の例すごいわかりやすかったでしょ。ぼくって天才?」
などとあからさまに自慢したりもします。
自分が楽しいことをしてお金がもらえるというのは、
生きるうえでこの上ない贅沢と言えるでしょう。

第2に、自分の強みの1つである 「着想」 を活かせるということ。
これも別の機会にお話しするつもりですが、
強みを活かして生きるというのは大事なことで、調べてみたところ、
私の一番の強みは、アイディアを思いつく力だということがわかりました。
今まで40年以上そんなことを思ったことはなかったのですが、
言われてみて振り返ってみると、なるほどたしかにそれが自分の強みだという気がします。

ところで学校の授業というのは、アイディアをストレートに表現できる場です。
研究していてアイディアを思いつくことはいろいろあるのですが、
研究の場合は、アイディアだけではダメで、
ひとつひとつ調べものをしたりして、それをきっちりと論証していかなくてはなりません。
だからアイディアをものにするのに、けっこう時間がかかってしまったりするわけです。
会社でなにか新しいアイディアを思いついたとしても、それを実現するためには、
やはりそれを傍証するデータを集めたり、上司を説得したり、
社内政治でうまく立ち回る必要があるでしょう。
そういうことが苦手な人は、せっかくのアイディアも実行に移すことはできないのです。
ところが学校の授業では、自分が一人社長ですから、
だれかを説得したり、きっちり論証したりすることなく、
思いついたアイディアをその場で実践してみることができるのです。
アイディアを思いつくのが好きな人にとっては理想的な職場と言えるでしょう。

という2つのことを、今回の質問をいただいて、初めて考えました。
今までは、自分の職業のことをそんなふうに捉えたことはありませんでした。
授業の最初に 「哲学とは何か」 とか 「倫理学とは何か」 を一方的に話すのではなく、
学生さんから質問を出してもらってそれに答える形で授業をやってみよう、
というアイディアを思いついたので、すぐにそれをやってみることができました。
今回の質問のように、「倫理学とは何か」 に
直接関わるわけではない質問も出てきてしまうのですが、
しかしそれは私を深い内省に誘 (いざな) ってくれて、
実は自分がサイコーに自分に合った職に就いていたんだ、ということにも気づけたりします。
これらのことはまさに、教員になってよかったことであり、
教えていて受けたよい影響だろうと思います。
いい質問をしてくれて、本当にありがとうございました。

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