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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

狂咲き万歳!鶴屋南北の世界15 歌舞伎「盟三五大切」(新橋演舞場)

2009-11-19 | 鶴屋南北

■日時:2009年11月15日(日)、11:00~
■劇場:新橋演舞場
■作:鶴屋南北
■出演:市川染五郎、市川亀治郎、尾上菊之助、他

新橋演舞場で、ボクが劇作家としては今もっとも注目したいと感じている江戸時代に活躍した鶴屋南北の「盟三五大切」を見ました。この作品はボクにとっては
片岡仁左衛門が出演したものをテレビで見て、なんか鶴屋南北って凄くないか?と気づくきっかけとなった作品です。その後、花組芝居によるものや、映画になったもの(「修羅」)なども見る機会がありボクにとっては馴染み深い作品となりました。今回は本ちゃんの歌舞伎の舞台に加え、さらには花道の真横の席で見る「盟三五大切」なので非常に楽しみにして出かけました。

配役は、女に裏切られ凶暴な殺人鬼と化してしまう薩摩源五郎に市川染五郎、その源五郎を騙して無惨にも生首を切り取られてしまう小万に市川亀治郎、その小万の腕に三五大切を彫らせたある意味悲劇の人となる笹野三五郎に尾上菊之助と、若手の人気俳優が顔を揃えています。ちなみにこの「盟三五大切」は裏・忠臣蔵となっているのですが、目と鼻の先の歌舞伎座では「仮名手本忠臣蔵」が上演中という松竹のお茶目なはからいもあったりします。ただ、以前も書きましたがボク自身は「忠臣蔵」のストーリーをよく知らないのですが。

まず、目を引いたのが亀治郎の演技です。女形としての所作がすごく綺麗です。全身に注意を行き渡らせていて、すきがありません。さり気ない仕草も完璧であったように感じました。最後に源五郎に惨殺されるところでは、エビのようにのぞけりながら死んでいくのですが、そのエビぞりの度合いが円を描き弓なりにしなっていました。それを見て客席からはため息が出ていました。亀治郎は体が柔らかいのですね。(亀治郎の得意技なんだろうね、きっと)以前、
大阪で見た「女殺油地獄」で彼は、同じようにエビぞりながら死んでいったのですが、その時は役所と亀治郎がかみ合っておらず、せっかくのその効果も半減していたような記憶があるのですが、今回の「盟三五大切」では見事に小万という役所を演じており、いたるところで彼の上手さが非常に目立った舞台となっていたと思い出しました。

一方、の源五郎を演じた染五郎は、先月は国立劇場では、アクロバティックな宙乗りも見せた“人間豹”を演じて見せ、今月は南北の殺人鬼?と連続して興味ある役を演じています。今乗りに乗っているというオーラが出ていますね。今回2役を演じ分けたのですが、それもこのお芝居の初演に準じたそうですが、演技からは自信に満ちていたように見えたのは錯覚だったのでしょうか。対する菊之助は、親の勘当を溶かんと討ち入りの御用金を調達するため源五郎をけっこう酷いやり方で騙す三五郎を演じるのですが、その騙している時の小悪党ぶりが非常に様になっており似合っていました。最後はザンバラ髪となり出刃包丁で腹をかっさばくのですが、そうした無惨な最期も悲壮感が漂いそうした役が合っているんじゃないのかなあと思いました。

この「盟三五大切」は、非常に残酷な要素を持っていて見方によればホラー的要素を色濃く持っている作品です。主人公の源五郎は忠臣蔵の義士でありながら、そのタイミングを待つ間に芸者に入れ込み一文なしとなります。挙げ句の果ては叔父から譲られた仇討ちという大志を実行するための資金100両を騙し取られてしまう意志の弱い情けない武士であります。その騙された怒りの矛先が偶然とはいえ5人もの人を殺したり、嫌がる女に無理やり赤ん坊殺しに手を加えさせる極悪非道ぶり、挙げ句は自分を騙した女の首を切断しその生首とともに食事をするという、通常では考えづらい尋常ではない狂気の殺人鬼となってしまいます。しかし、そうしたとんでもない男でも主人と崇める家来がいて、最期は討ち入りの義士として声がかかりその部隊に加わっていくところで劇は終ります。

これは一体何を意味しているのでしょうか?思うに、南北は人の犠牲の上に立ちその地位を守り、おまけに人殺しまで犯しても最終的には“忠義”の名のもとに赦されてしまう“武士”という存在をチャンチャラ可笑しいと笑い飛ばしているのではないでしょうか?一説によると南北はの出であると言われており、たとえば同じ南北の作である有名な「東海道四谷怪談」では、武士の家が没落しにまで身を落とし挙げ句は殺されてしまうというようなことを描いていたりします。この「盟三五大切」は、お岩稲荷の勧進が出てきたりと、人気を博した「東海道四谷怪談」の後に書かれた後日譚でもあるわけだから、やっぱり武士なんてなんぼのもんじゃいといった表面には出てこない裏の意気込みを隙間見ることができるんじゃないかと思うのです。ストーリー的にはハチャメチャでアナーキーな色が濃くエロティックな要素も多分に持ったエロ・グロ・ナンセンス!あの江戸川乱歩も真っ青になりかねない江戸の劇作家・鶴屋南北。かつての日本にはすごい作家がいたもんだと思いますね、強烈に・・・


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (HDAMARI)
2009-11-21 19:49:25
TB反映させていただきました。ありがとうございます。
コメントいただき (飾釦)
2009-11-21 22:41:57
ありがとうございます。

HDAMARIさまのブログに書いている

「それにしても“百両”を巡っての因果の回り具合とか忠臣蔵とか四谷怪談を絡めまくってという南北ワールドには、いつもいつも驚かされる。なんという想像力の飛翔というか……。」

にはとても共感をおぼえます。

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