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永遠の妖女#51・・・「オスカー・ワイルド」メリッサ・ノックス著・玉井訳(青土社)

2008-04-21 | サロメ
「オスカー・ワイルド」
メリッサ・ノックス著・玉井訳(青土社)


ずっとここまでテーマとして書いてきているサロメ。そのサロメをなんといってもここまで著名なものに仕立てたのは、イギリスのデカダンディーとして名高い作家、オスカー・ワイルドの功績が大きいのではないでしょうか?ビアズレーの挿絵とともにその退廃的な雰囲気は独特な魅力を放っています。岩波文庫の「サロメ」はビアズレーの挿絵も載っており、10代の時でしょうか?書店でそれを見つけ、手にとってみる。そこには何かいけないものを開いてゆくような、大人の秘密について書かれてある、そんなドキドキ感があったことを憶えています。

いまここにメリッサ・ノックスという女性英文学者によるオスカー・ワイルドについて精神分析的なアプローチを試みた分厚い本があります。大胆かつ斬新にオスカー・ワイルドについ分析しています。それによるとワイルドの作品「サロメ」は、“重要な意味ののこめられた願望と葛藤解決を図るいろんな試みが一杯なかに詰まった掘出し物の宝庫と言うべき作品”であるとしています。では一体そこに何が詰められているのかというとワイルド自身の“幼児期の隠蔽記憶(スクリーン・メモリ)”であったり、サロメを書いている時のリアルな精神状況がそこに反映されているとしているのです。

ワイルドにとって作品に影響を与えている幼児期の記憶とは、両親との関係は言わずもがな、幼くして亡くなった妹アイソラの存在が非常に大きいと。(ワイルドが12歳の時アイソラは9歳で死去した)彼は妹に対して近親相姦的な感情を抱いており、彼女の死はその後の“人生と芸術における進路を決定し”、ワイルのの作品のそこかしこにその想いが見て取ることができるそうだ。そしてサロメは妹アイソラであるとするのです。

サロメが見せる“思春期の女の好色な視線、七枚のヴェールのダンスで見せる彼女の露出趣味、ヨカナーンに対して自分を観るようにと切望する彼女の態度、ヨカナーンの切られた首に対してほとんどカニバリズム的ともいえる彼女の偏愛”こうした倒錯的な欲望が奇怪に見えの解釈が世の批評家たちを悩ましてきた。それについてはノックスは、サロメの動機は“一時の気分にすぎない”、“幼児的不満から”で“子供の遊戯”に似たようなものとしてそこにアイソラの影を指摘します。また、サロメの“性的傾向のすべてを、子供の口唇的行動を通して表現している”とも。サロメがヨカナーンに接吻し唇を噛みたいというのは、“ヨカナーンに対する子供の愛が自然に高まったもの”なのであります。

また、一方でワイルドは「サロメ」を書き上げている時、自身の破滅を誘引するきっかけとなったボジー(アルフレッド・ダグラス卿/「サロメ」の英訳を担当した)と知り合った直後であった。つまり同性愛者として二人は愛し合っている最中で、「サロメ」はワイルドのボジーへの無意識なメッセージと見なすことができるとしているのです。ボジーの自己中心的で自己顕示性の強い子供っぽい性格(特に抑制ができず怒りを爆発させるが、そのあとで卑屈な悔悛を示す)はサロメと匹敵するのである。つまり、”ワイルドが、サロメとボジーを同等と身、さらにこの両者とアイソラを同等と見ている事実”なのであり、ボジーと“アイソラとの幼いころの関係を幻想の中で再創造”しているのである。同性愛の対象であるボジーに対する感情は妹アイソラの復活であったのだ。

それによって、サロメ=アイソラ=ボジーの構図ができあがり、ワイルド自身は“ヨカナーンを通して自分自身のアイデンティティ”を探っている。ワイルドは「サロメ」の中でヨカナーンを殉教者に仕立て上げたのだが、それはキリスト教ではなく、“同性愛者として女性を嫌悪したゆえに死んだ”のであり、殉教した所以は同性愛であったのだとする大胆な説を展開します。

メリッサ・ノックスはこう書いています。“ワイルドの同性愛とアイソラに対する彼の子供時代の愛は、ともに、彼の芸術家としての生涯において、他のさまざまな重要な芸術的発展を育む温床となった。”はたして、これらの考え方が実際にどう有効なのかはなんとも言えません。わかるのは確かにサロメの行動のモチベーションは理解づらいこと。

難解な作品に、難解な解釈を持ってしたサロメでありました。


本当に「あの人」でいいの?




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