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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

「脱ぐ絵画 日本のヌード1880ー1945」展(東京国立近代美術館)を見た

2012-01-16 | 美術&工芸とその周辺

国立近代美術館で開催されていた「脱ぐ絵画 日本のヌード1880ー1945」展(1/15で終了)を見に行きました。人気の展覧会とは裏腹に観覧者はパラパラといるだけ、しかし、企画展として内容は充実している展覧会だったと思いました。近代日本の夜明け、江戸時代が終焉し、開国・明治維新と歴史は大きく展開するなか、日本は西洋の文化を積極的に取り入れていくことになる。所謂、昔教科書で習った文明開花と呼ばれる時代だ。美術界も(そもそもそんなものがあったのかどうかも疑問なのですが)西洋絵画というジャンルを取り入れていく中、それまで女性のヌードをしっかりと描くことがなかった日本では(春画はあったが寧ろそれは男女の性交を描いたもの)、それを描き発表することにおいて大変な反響があったということなのです。

 

 

 

明治28年、日本における西洋絵画の父、黒田精輝が女性が全裸の後ろ姿で髪を直している絵を発表したときは大騒ぎでそれをカリカチャライズしたジョルジュ・ビゴーの絵があって、着物姿の鑑賞者は口を開けて描かれた女性のお尻を見ているという案配、逆に女性は恥ずかしさのあまり着物の裾をめくって顔を隠しているという様子もある。その4年後には日本近代美術史のエポックな出来事、警察の指導により裸体の女性の絵に対して腰巻きを隠して展示するという事件も発生した。芸術か?猥褻か?この「腰巻事件」は警察による最初の取締り事例となったそうです。絵の前に群がる男性客が「獣欲的欲情如何の猥褻論」を繰り広げ、ステッキの先で女性の陰部を被った腰巻きを引き下げようとし、間一髪の所までずり落ちたとか。

 

  

 

芸術か?猥褻か?を巡る論争と啓蒙の立場。当時、そうした事件を起こした黒田らのベースには、たしかに女性のヌードの絵についてはエロティックな要素がある、しかし感覚に与えられるその種の快楽の刺激を滅却しなければ真には美を味わうことができないという考え方があったそうです。無関心こそ純粋な趣味判断を可能とするというカントの芸術哲学の影響見ることができるそうなのです。黒田はそこで、寝転がった全裸の女性を描くことは性的で官能的な想像を巡らしてしまうので、垂直に立ち上がっている女性の絵を描く戦略をとったそうです。それが金地の背景に意味不明なポーズをとらせた3体の全裸の女性像を描いた有名な「智・感・情」という作品。この作品を見ることができたのはこの展覧会の大きな収穫でした。

 

 

やがて黒田の女性ヌード絵受容の啓蒙の努力は、それを超克しようとする萬鉄五郎や古賀春江、熊谷守一、梅原龍三郎らによって次の段階を向かえていくというのが、この展覧会の全体の流れとなっていると思いました。で、さらに面白いというか、ためになったなと感じたのは比較的安く販売されていた展覧会のカタログでした。この展覧会をキューレーションした蔵屋美香の骨太な解説(企画をしたのは女性の方!拍手??)とともに、従来の美術展のカタログのイメージを破るような持ち運びもしやすいコンパクトにまとまったサイズのものがとても新鮮であり、今まさに見てきた絵の記憶が残っているときに一篇の読物のように親しむことができたのは、企画した意図を感じて欲しいとする側の気持ちが素直に出ていたんじゃないでしょうか?

 

 

しかし素直に本音で思うことは、抽象的に描かれた絵やルポルタージュ的に描かれた絵などはともかくも、たとえば今回の展示作品にあった原撫松という画家の描いた裸婦像などを見ると、会場における絵の解説(美術館側が用意した解説なので美術の専門家も認めているということになる)にも美しいお尻などと言及されていたように、まず官能的な美尻に出会ったときそれをカントや黒田のいうところの純粋なる感性で眺めることは多分できないでしょう。私は、確かに絵のテーマもあるのですが、たまには画家も美しいモデルを前にして理想的なお尻をまず第一に描きたくなった、テーマはその次になってしまったのではないかと邪推しまうのです。そのような見方をしてしまうのは、もはや中年男のいやらしさと言われてしまうんでしょうね?きっと・・・。

 

裸婦―素晴らしき日本女性の美 (別冊太陽 日本のこころ 158)
平凡社
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