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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

都会の風よ!ジョン・カサヴェテスの映画#9・・・「グロリア」

2012-12-25 | Weblog

■製作年:1980年

■監督:ジョン・カサヴェテス

■出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・アダムス、バック・ヘンリー、ジュリー・カーメン、他

ジョン・カサベテス監督の「グロリア」は私が見てきた映画の中でも指折りの傑作と言いたい作品です。いきなりの導入部がとても素晴らしいのです。哀愁漂うフラメンコ・ギターとともに都市を描いた抽象的な絵、そしてサックスによるJAZZYなのメロディにのって都市の絵は夜景のニューヨークにオーバーラップし、それを俯瞰で捉えた流れるような映像、この映像だけで実は「グロリア」をすべて語っているんじゃないのかオーバーに言いたくなってしまう。そして暗闇にホッカリと浮かぶヤンキース・スタジアムが見え、やがてカメラは昼間のそのスタジアムを捉え、遠方にバスが走行しているのを見ることができる。一人の女性が乱暴にそのバスから降りてくる。自分の荷物を足蹴にするのが心に残る。たったこれだけの映像で私は熱病のように痺れてしまっているのがわかる。こんな素敵な導入映像を私は見たことがありません。

 

そしてグロリアが初めてスクリーンに映る場面もこれに劣らずいいのです。マフィアの会計が資金をネコババしFBIに垂れ込んだため組織に狙われ家族の命が危なくなってその家族がパニックになっている時、同じアパートに住むグロリアがその家族を訪ねて来るところだ。危険に怯える家族がドアについている覗き穴を見るとグロリアがくわえタバコで立っている。その数秒の映像、なんといかした彼女の登場場面!演じるはカサヴェテスの妻であり彼の映画に幾度となく出演し、個性的な女性を見せてきたジーナ・ローランズ。しかし私にとって、いろいろな役を演じていようともジーナ・ローランズ=グロリアくらいイメージが強い、そのくらい印象的な女性を彼女は演じたと思うのです。

 

やがてグロリアは事件に巻き込まれ、組織を裏切った会計だった家族は無残に殺されてしまい一人残り孤児となった英語もままならないプエルトリコの少年は、なんの因果か、かつて組織のドンである男の情婦であったグロリアとの逃避行、道行が始まることになるのです。家族が殺されたことを認めたくない少年は突っ張り大人のまね事のような生意気な会話をグロリアにします(これがまたいい感じなのです)。一方、グロリアはやさぐれ女として恐らく修羅場を生きてきたのだろう、力強さは天下一品なのです。それでなのか、一人の中年女性としては片手落ち?で、まともに料理さえ作れません。少年に食べさせるための目玉焼きがうまくできずフライパンごとごみ箱へ捨ててしまう始末だ。それだけで彼女がどう生きてきたがわかろうというもの。組織に追われれば、これがその道のプロ(つまり暗黒街に生きる男達)顔負けの勇気に度胸、ピストルさばきと頭のよさで、見事危機を幾度も切り抜けていくという凄すぎる女性。ピストルを構えやくざな男達にタンカを切る姿はかっこよすぎるのだ。この映画の展開には全く無駄がない、隙がない、ひたすら見せる、感じさせる、共鳴させるのです。

 

とにかく私にとって「グロリア」という映画は全てがカッコよすぎるのです。ラストのグロリアと少年との出会い!ブライアン・デ・パルマ風のスローモーションで家族の惨殺から二人の道行の短い時間、そしてそれからの関係という未来を予見しているかのようなスローモーション映像。少年をぐっと抱きしめてそれまで見せていなかった母性的な笑みを浮かべるグロリア。リュック・ベンソン監督の「レオン」がこの逆パターンの話で影響を受けているとか、シャロン・ストーンで「グロリア」をリメイクしたとか、そんなエピソードがあるのは、こんな映画を一度は撮ってみたいと映画人を刺激するのではないのだろうか?しかし、どこまでもカサヴェテスが監督し、ジーナ・ローランズが演じた「グロリア」は変わることなくその切れるような感性をとどめているのだと思うのです。

グロリア [DVD]
ジーナ・ローランズ,バック・ヘンリー,ジュリー・カーメン,ジョン・アダムズ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

 

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1 コメント

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フラメンコギター (やっぱり堪らない)
2018-02-14 02:57:47
今、NHKの雪の魔法という映像番組で哀愁漂うフラメンコギターのメロディーがかぶさります。ここで使ってくれ、感じる人はちゃんと感じてたんだ。改めて当時、その導入部だけで恍惚を覚えたのを鮮烈に思い出しました。

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