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飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

耽美の海∞谷崎潤一郎NO.22・・・「人面疽」を読む

2011-12-26 | 谷崎潤一郎

谷崎潤一郎の怪異小説「人面疽」の話は、歌川百合枝という女優が海外で撮った自分が主演している映画が本人の知らぬところで密かにあちこちの映画館で上映されているというとことから始まる。英語の原題は「人間の顔を持った腫物」というもの。その内容は、華魁の菖蒲大夫に恋い焦がれる醜顔の乞食が、彼女に騙されたことに恨みを持って自殺してしまう。彼女は白人の男性と恋愛関係にあった。やがで彼女の膝には人の顔のような腫物ができる。その顔は死んだ乞食のものだった。自分を蔑ろにした怨念が腫物となって女に取り憑き復讐を果たすというもの。しかし、映画会社の関係者は、誰も乞食を演じた俳優を知らないという。歌川百合絵もその映画を撮影したことはないという。謎のこの映画はまた不思議な現象を引き起こし、さしずめ呪いのフィルムといった風で、ジャパニーズ・ホラーで一斉を風靡した「リング」を思い起こさせる、そんな話である。

 

私はまず本を読んだ後、その谷崎の小説を朗読したCD(吉行淳之介監修「怪談傑作集」)を聴いた。朗読は森山周一郎。ホラーというより刑事ものを想起させる声のトーンである。私がわざわざ朗読されたものを聴くというのは以前も書いたことがあるが、紙の文字を眼で追っているのとは違った趣があり、その作品に対して新しい発見もあるということからだ。今回、朗読されたものを聴いて思ったことは、谷崎のこの作品は大正時代に書かれたものとしては現代に通じるモダンな要素を持っているということ。先に映画「リング」に通じるようなと書いたのだが、「リング」の発想の原点はこの小説ではないかというくらいのメディア怪談となっている。原因は明らかにされていないものの、複製が可能なメディアに怨念なるのもが転写されているというものだ。この一見荒唐無稽な発想は大正の時代からあったということが驚きだ。

 

ただ、朗読されたものを聴いてもハッキリしなかったのは、谷崎がどこに焦点を持っていこうとしていたのかということだ。この小説における恐怖の念を起こさせるのは、映画のなかにおける菖蒲大夫の膝頭にできた人面疽の呪い、その人面疽が本当に役者が演じたものなのか?実は本当にできたものを撮影したものではないか?ということ。私には撮影の記憶がないし恨みもかったことがないという歌川百合絵の発言は本当なのか?ということ。そしてその人面疽の影響が全く関係のない第三者にまで及んでいるということとそれがメディアの力の大きさというものを暗示していることを作者が判らせようとしているのか?ということ。そもそもこの怪異はアメリカの映画会社の陰謀なのか?ということ等など、最終的な落とし所が曖昧なまま終わっているということだ。その点は不完全燃焼に近い作品であるのではなかったか?

 

この醜顔の乞食の呪いも華魁に騙された恨みという所から発しているのだが、その根本は「たった一と晩だけでも、どうぞ体を私の自由にさせてください。後生一生のお願いでございます」という乞食の華魁に対する肉欲にあったということなのだ。華やかで着飾った華魁の体を自由にしたいという男の欲望、それはたとえばある男が高嶺の花のアイドルに思いを寄せて自分のものにしたい、それが叶わぬと逆恨みするということに近いことではないのか?そこには相手の気持ちは反映されていない。勿論、気持ちが悪いの一心で、その気はないのに相手の気持ちを利用だけ利用した華魁の方にも問題はあるのだろうが、ベースに一方的な男の肉欲があることは間違いないし、それはある意味で男であれば、きれいごとで吹っ切れない男なら誰でも持っている本能ではあるのだから。意外と怪談なるものは、そうしたことから始まるのだろう……。

 

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清水 良典
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怪談傑作集(3)件/人面疽
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2 コメント

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はじめまして。 (aj)
2011-12-27 15:33:07
はじめまして!
記事に関係のないコメントで恐縮です。
もし宜しければ相互リンクして頂けますと幸いです。

突然の申請で申し訳ございませんが、是非ご検討下さい。
当方、主に映画やアニメブログになります。

タイトル
【ジャンル別映画・時々深夜アニメ】30歳A型独男の「今日はな~に観よっかなぁ~」

URL
http://ajfour.blog.fc2.com/

宜しくお願い申し上げます。
喜んで! (飾釦)
2011-12-27 22:07:27
ai様、喜んで相互リンクさせていただきます。
私はリンク完了しました。
よろしくお願いします。

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