飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

鏡花幻想譚への接近#13・・・「高野聖」

2008-08-04 | 泉鏡花
「高野聖」

“なるほど見たところ、衣服を着た時の姿とは違う肉つきの豊な、ふっくらとした膚。”とは泉鏡花の小説「高野聖」における修行僧が、誘惑してくる女の裸を見た時の心の中の言葉である。それはこの小説の中で展開されるところのエロティックな場面の一文だ。

そのくだりは、飛騨の山奥の孤家に棲む妖しの女が、僧侶・宗朝と疲れた体を癒すため蘇生する力を持った泉で入浴をするところ。僧は旅の疲れをそこで癒せと女に勧められ、泉に浸かる。すると女も裸になり同じ泉に入り、僧の背後からそっと抱きつく。「誰も見てはおりはしませんよ」女は言う。修行の身である僧は慌てるも、何ともいえぬ甘美さに酔いしれてしまう。読み進める文字とともに抑制されたエロティシズムが流れるこの小説の官能的なひとコマでとても重要な部分である。

そこは先日歌舞伎座で観た玉三郎と海老蔵によって上演された「高野聖」でも話題となった場面である。ボクは玉三郎のそそとしながらも積極的な誘惑の演技によって、いつもとは違った緊張感で舞台を観ることになった。そして玉三郎の並みではない存在感に打ちのめされたのでありました。

こうした狂おしい状況下におかれると通常の男ならば、その女の色香に負けてしまうところだが、そこは後に高僧と呼ばれるようになる逸材、女の甘い薫に酔いしれながらも、その毒牙を乗り越えることができた。つまり、獣に変えられてしまうことを免れたのである。

それは精神が欲望に打ち勝ったとも見える部分なのであるが、ところがどっこいそうではない。その後魑魅魍魎と女の色香にせめさいなまれながらも、宗朝は家を去り山を降りようとするが、女の甘い残像が頭から離れないのである。今すぐ引き返そうと葛藤が始まる。それはオブラートに包まれた表現をしているものの、エロス的な誘惑以外の何物でもないだろう。以下の宗朝の心を描いた部分から素直にそれを読み取ることができる。

“それから谷川で二人して、その時の婦人が裸体になって私が背中へ通って、微妙な薫の花びらに暖に包まれたら、そのまま命が失せても可い!”

“男滝の方はうらはらで、石を砕き、地を貫く勢、堂々たる有様じゃ、これが件の巌に当って左右に別れて二筋となって落ちるのが身に浸みて、女滝の心を砕く姿は、男の膝に取ついて美女が泣いて身を震わすようで、岸に居てさえ体がわななく、肉が跳る。況してこの水上は、昨日の孤家の婦人と水を浴びた処と思うと、気の所為かその女滝の中の絵のようなかの婦人の姿が歴々、と浮いて出ると巻込まれて、沈んだと思うと又浮いて、千筋に乱るる水とともにその膚が粉に砕けて、花片が散込むような。あなやと思うと更に、もとの顔も、胸も、乳も、手足も全き姿となって、浮いつ沈みつ、ぱッと刻まれ、あッと見る間に又あらわれる。私は耐らず真逆に滝の中へ飛び込んで、女滝を確と抱いたとまで思った。気がつくと男滝の方はどうどうと地響打たせて、山彦を呼んで轟いて流れている。ああその力を以て何故救わぬ、儘よ!”

そこには僧侶とはいえ若い男の性的エネルギーによる悶々した妄想が隙間見れるのだ。ボクのような凡人であれば、その迷いこそ共感できる部分。先の歌舞伎座で上演された「高野聖」の記事でも書いたが、宗朝は女が裸で泉に入ってきたとき勃起していなくてはだめだからだ。(きっと宗朝は、顔は冷静さを装っていても下半身に血流が集中している。僧になるくらいがから性格は内面的でおとなしいということと、おそらく童貞で即座の行動に移す勇気もなかった。そうであればこそ、この小説はイニシエーションの物語として活きてくると思う)


しかし、性的な妄想で支配された宗朝の頭に冷静さを取り戻すことができたのは、まさに引き返そうとする時、現実世界と女が棲む孤家(=異界)を出入りしている不思議な存在感である親仁と出会うことによって女の真実の姿の話を聞くことができたからだ。この親仁は生きていくため異界に半分足を突っ込んでいるものの、やはり現実世界の方に想いはあるわけだ。もしかしたら、親仁も時々は女の慈愛を受けているのかもしれないが…。

親仁は言う、“然もうまれつきの色好み、殊に又若いのが好じゃで、何か御坊にいうたであろうが、それを実としたところで、やがて飽かれると尾が出来る、耳が動く、足がのびる、忽ち形が変ずるばかりじゃ”と。

※“”部分、泉鏡花「高野聖」(新潮文庫)より引用


下は先日歌舞伎座で上演された玉三郎&海老蔵による「高野聖」。
写真をクリックするとボクが書いた感想へ飛びます。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
義経千本桜と泉鏡花 (とみ)
2008-08-09 13:57:29
>飾釦さま
続き書きました。よろしかったらごらんくださいませ。
記事拝読しました! (飾釦)
2008-08-09 15:36:08
とみ様の記事は深いです。とてもとても私など読みきれない部分を感じていらっしゃいます。びっくりしました。

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