飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

映画「レバノン」(監督:サミュエル・マオス)を見た

2011-01-06 | Weblog

■監督:サミュエル・マオス
■出演:ヨアフ・ドナ、イタイ・タイラン、オシュリ・コーエン、マイケル・モショノフ、ゾハー・ストラウス、レイモンド・アムセレム、アシュラフ・バーホム、他

2009年のベネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞している映画「レバノン」を見ました。1982年のイスラエルのレバノン侵攻における初日の様子を描いた作品です。戦争の悲惨さを骨太に一時の70年代のATG映画を想起させるような実験的な映画でした。 

冒頭はゴッホがキャンバスに向かって描いていたかのような、あるいはイタリアのデ・シーカの名作を思い出させるような、遥か彼方まで拡がる向日葵畠の映像が写しだされます。しかしよく見るとその向日葵はうなだれていて太陽には向かっていません。それが何を意味しているのか?

 

冒頭の映像以降90分間、ラストシーンの一瞬を除きカメラは戦車の中の様子を捉えそこから出ることなく戦争に参加した兵士の様子をこれでもかとばかり見せていきます。どことなく優柔不断な指揮官、優しい戦場初体験の砲撃手、組織を無視する我が儘な砲弾をつめる男、気弱な操縦士、この4人がその戦車の乗組員です。

 

戦車の中から見る外の世界は、銃弾が飛び交い民間人の犠牲者の死体が転がっている地獄絵図。無惨な様子を見た人の命を奪いたくないと砲弾手は、砲弾に際してすくんでしまいます。しかし無理くりなパニック状態で撃った弾は鶏を運搬する農家の老人トラックで、悲惨にもその老人の手足を奪ってしまいます。あるいはテロリストが親子を人質に立て篭もったとして繰り広げられる銃撃戦では、結果人質の娘の命を奪ってしまい、娘を殺された母親が娘を返してと叫びますが、彼女の服に火が燃え移り裸になってしまいます。阿鼻叫喚の地獄が戦車の外にはありました。

 

しかし、地獄は戦車の中にも存在していました。戦車に乗り込んだ兵士らは一部の情報しか入ってこなく戦況がよくわかならい密室の中でそれらを目撃することになります。それはある種のパニックを引き起こします。また、戦車の中は想像以上の劣悪な空間で、糞尿はボックスのようなものにすませたり、味方の血まみれの遺骸を運ぶためにそれに乗せたりします。戦車への砲撃により損傷した鋼の箱はドス黒い油を滴らせます。不気味な機械音を響かせ振動しながら進む戦車の中は、吐き気を催すような閉塞された劣悪空間だったのです。

 

映画はそうした特殊な密室をどんよりと暗くなってくる感覚で見せていきます。兵士の顔は油まみれ、髭も伸び放題。体臭と糞尿と遺骸の腐臭が立ち込める異常な密室。情報は限られたものしか入ってこない。迫りくる死の危険。この異常なまでの戦車の中という空間は、それまでほとんどスポットを浴びることがなかったように思います。実際に戦車に乗っていたという監督は、体験ゆえに描くことができたこの空間をリアルに感じさせることに成功しています。戦争における閉塞空間は、「地下水道」や「Uボード」を思い出させ、それらに連なっていく戦争映画に仕上がっていました。

 

この地獄のような空間に貼ってあったのはピンナップ・ガールの写真、ヌード写真であります。会話は高校時代に父の死を聞かされた時抱きすくめてくれた女教師の胸の膨らみに勃起していたということ。それを下世話と一笑することはできません。男にとって極限状態における唯一の救いなのではないのでしょうか?先日、戦争とは対極にある?エンタテイメントの世界を描いた映画「バーレスク」の記事をアップしましたが、女性美と本能の性的欲望を求めるのは男として真っ当な証拠です。戦争の悲惨さはゴメン被りたい。戦車など乗りたくない。素直にそう思えるいい映画でした。ところでカメラが戦車の外から捉えた最後の映像、冒頭の向日葵畠の中にいる戦車は一体何を意味しているのだろうか?

 

 

◆クリック、お願いします。 ⇒
◆関連書籍DVDはこちら↓↓

 

レバノン [DVD]
ヨアフ・ドナ
ビデオメーカー
ディスカバリーチャンネル 戦火の記録:レバノン紛争 [DVD]
ドキュメンタリー
角川書店
ジャンル:
ウェブログ
コメント   トラックバック (7)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 映画「バーレスク」(主演:... | トップ | 映画「ゴダール・ソシアリス... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

7 トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
レバノン LEBANON (まてぃの徒然映画+雑記)
レバノン戦争に従軍したイスラエルの戦車兵4人を描く、09年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。画面は狭い戦車内部と、砲撃手のスコープから見た映像のみで構成される。イスラエル...
レバノン (LOVE Cinemas 調布)
2009年のヴェネチア国際映画祭金獅子賞授賞作品。1982年のイスラエルのレバノン侵攻が舞台。この戦争に実際に従軍したサミュエル・マオズ監督が自分の体験を元にして戦車の中から見た壮絶な戦場の様子を描き出した。非戦闘員であっても無残に殺されていく外の様子...
レバノン (ひでの徒然『映画』日記)
Comment: レバノン戦争、第一日目の惨状。 その年のヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したサミュエル・マオズ監督の作品です。 イスラエルのアリ・フォルマン監督が実体験を基に製作した「戦場で...
レバノン (Lebanon) (Subterranean サブタレイニアン)
監督 サミュエル・マオズ 主演 ヨアヴ・ドナット 2009年 イスラエル/フランス/レバノン/ドイツ映画 90分 戦争 採点★★★ 戦争がなんで恐ろしいのかってのを端的に言えば、人が死ぬから。殺さなきゃならないから。今ここでサブタレ書いてる私でさえ、戦争にな...
レバノン 戦車のスコープ越しの戦争体験 (国内航空券【チケットカフェ】社長のあれこれ)
1982年に起きたレバノン戦争を題材に戦争の恐怖と人間の狂気を描き、2009年ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した戦争ドラマ。自らイスラエル兵としてレバノン戦争に従軍したサミュエル・マオス監督の実体験をもとに、レバノンに侵攻したイスラエル軍の戦車に乗る4人の若...
mini review 11528「レバノン」★★★★★★★☆☆☆ (サーカスな日々)
1982年のレバノン戦争を舞台に、極限状況に置かれた4人のイスラエル軍兵士の壮絶な体験を描き、第66回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した戦争映画。同戦争に従軍したサミュエル・マオズ監督の実体験を基に、カメラが戦車内から外に出ない斬新なスタイルで、戦争の恐....
レバノン (だらだら無気力ブログ)
1982年のレバノン戦争を舞台に、極限状況に置かれた4人のイスラエル軍 兵士の壮絶な体験を描き、第66回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した 戦争映画。同戦争に従軍したサミュエル・マオズ監督の実体験を基に、 カメラが戦車内から外に出ない斬新なスタイルで、戦争...