音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

先月読んだ本(0802)

2008-03-02 14:22:30 | 本・雑誌
先日、遂にiPod nanoを購入しまして、通勤電車の中で、オバマの演説動画や小西さんのポッドキャスティングとかを聴くようになったので、読書量は激減の見込みで、この連載も先月とこのエントリーの2回で終了してしまうかもしれませんが、とりあえずということで・・・。

自転車少年記 ~あの風の中へ(新潮文庫)竹内真
先月読んだ『風に桜の舞う道で』が爽やかで素晴らしかったので、今度は著者の代表作に手を伸ばしました。自転車に魅せられた主人公とその仲間たちの交流譚で、自分が父親になってからは、自転車が息子との強い絆となっていくというMTB大河小説ともいっていい長編です。そういえば私も以前、こんな叙情的なエントリーを書いていた時期がありました。著者は年初から新刊ラッシュのようで、今年ブレイクの予感が。


対岸の彼女(文春文庫)角田光代
小説は余程のことがない限りは文庫しか買わないので、05年の直木賞受賞作にして当時かなり話題になった同書を遅ればせながら。一言でいえば上手い作家であり、特にセリフ回しに違和感がないのがいいですね。渡辺淳一や石原慎太郎といったお爺さん作家たちは仕方ないにしても、若い作家でも「そんなしゃべり方は普通しないだろう」と興をそがれることがあるのです。著者は会話だけでなく人物造形も巧みです。主人公の「対岸にいる」女性の20年前の姿が同時進行でクロスする構成になっているのですが、現在とのキャラとのあまりの隔たりが秘密を暗示していて、途中からミステリーの様相さえ帯びてくるのです。しかし、小説というのは読者に「オレのことが書いてある!」と思わせることができたら成功だといわれますが、私にはこの物語の主人公の感覚や考えは恥ずかしくなるほどよくわかるのです。偏屈で社交的でない自分が、もし女性に生まれていたとしたら、まず間違いなく公園デビューに失敗して引きこもっていたでしょうから。


アントニオ猪木自伝(新潮文庫)猪木寛至
この本を読んだあとにも探したのですが書店で見つからずそのままになっていました。しかし昨年末に垣根涼介の『ワイルド・ソウル』という魂に触れる大傑作を読み、政府の「ブラジル棄民政策」に騙されて悲惨な“アマゾン牢人”に堕ちていった大勢の日本人たちの存在に俄然興味が湧いてきました。猪木一家は落花生が幸運にも大当たりして首都のサンパウロに家を買うまでになったのですから、結果的には大成功者の部類ですが、そこに至るまでの道のりはもちろん平坦ではなく塗炭の苦しみを味わいました。中学生の頃に電気も水もないブラジルのジャングルに放り込まれ、過酷な奴隷労働に従事したことで、強靭な体力と医師をも驚嘆させる「常人の30倍の自然治癒力」を身につけたのは、後のレスラーとしての財産になったのは間違いありません。でも私が思うに、力道山の理不尽な仕打ちや、メインストリームのG馬場との差、異種格闘技戦での想像を絶するプレッシャーなどを跳ね返した猪木のメンタルの強さが、ブラジルでの少年時代に培われたことの方が大きかったのではないかと。あ、もちろん「天才」の半生は90年代の「政治家編」も含めて理屈抜きに目茶目茶面白い。傍にいる人は大変でしょうが・・・。


自殺するなら、引きこもれ(光文社新書)本田透・堀田純一
不登校児の星は、昔エジソン今ジョブズなんだそうです。発明王やアップル創始者ほどでなくても、共著者の二人だって高校中退とはいえ、大検(現在の高認)を経て、それぞれ早稲田と上智を出てこうして自著本を出しているのですから、成功のレアケースを根拠に、自慢話やアジる本だったら嫌だなと思ったのですが、結構考えさせられるものがある好著でお薦めです、これは。「学校に行って死ぬ人はいても、学校に行かないで死ぬ人はいない!」という帯のフレーズに惹かれて買いましたが、学校に行くにはこしたことがないが、死ぬほど辛かったら行く必要なんてないという著者の体験に基づく主張は明快です。親というのは学校信仰が根強くて、学校に行かない子どもたちは、何か深刻な病理を抱えているかのように扱われてしまいがちですが、日本の学校の成り立ちを考えたら、通わないと地獄に落ちるといった「学校教」ともいえるドグマ(教義)なんてものはナンセンスであり、そこから解放される必要があると論じているのです。この本は現実の不登校児よりも、我々くらいの親世代が読んだ方が良さそうです。


獄窓記(新潮文庫)山本譲司
出所後に刑務所改革に奔走する『続・獄窓記』が書店で平積みになっていました。あまりに潔く罪に服し、志願したとはいえ障害を持つ累犯受刑者の世話係として糞尿にまみれながら、最底辺にいた人間からも「税金泥棒」と罵られるという壮絶な体験をした著者ですが、違う道で活躍中です。衆議院議員時代の著者の地盤だった東京21区(立川など)はTVにもよく登場する民主党の長島昭久のものになっているし、ほぼ同時期にこの問題で議員辞職した辻本清美女史も先週の朝まで生テレビに何事もなかったかのように出ていますから、月日の流れるのは早いものです。この本を読むまで、てっきり秘書給与を流用してカツラを買っていたという当時の週刊誌の中吊りを鵜呑みにしていましたが、全くの事実無根だそうで、いかに報道がいい加減かというのもわかります。


戦後日本経済史(新潮選書)野口悠紀雄
レビューを書きますた。本の中で教授は、戦後の日本経済がなぜこのような経路を辿らなければならなかったのかを書いていますが、それは結局、歴史的必然の法則によるもので、仮にその人がいなくても、時代に役割を担わされた他の人がやったことなのだと結論づけます。ただ、唯一といっていい例外は田中角栄かもしれないということは認めています。その政治的天才ぶりにふれた経験は、教授が大学を出て入った大蔵省の入省式。訓辞に立ったのは時の蔵相だった田中角栄その人であり、壇上から下りた角栄氏、一人一人の名を呼びながら1列に起立した新人たちに握手していったそうですが、メモを見ずに20名全員の名前を全て間違いなく呼んだことに驚倒したと、野口先生は述懐しています。ちなみにその時一緒だった同期には、次官確実といわれた大物でありながら、石油商から絵を受け取るという脇の甘さで次官になれずに現在JT会長の座にいる涌井洋治や、媚中派議員の代表格といわれる自民党代議士の野田毅などがいます。
  

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2 コメント

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本中心の方がいいですよ (マルセル)
2008-03-02 23:28:11
> 読書量は激減の見込みで

う~ン、本中心の方がいいですよ。
ボクは家ではYOUTUBE三昧でまったく本は読みませんが、移動中は基本本を読んでいます。
基本は本、混みすぎて読めないときはiPODをお奨めします。
なるほど (音次郎)
2008-03-03 00:43:13
>マルセルさん、アドバイスありがとうござます。
活字中毒の私ですから、結局行きは本で帰りはiPodになると思います。

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