音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

『ぐるりのこと。』

2008-07-06 21:11:18 | 映画・ドラマ・音楽
妻子がTDLの25周年アニバーサリーに逝ってしまったので、ワタシの方は心おきなく銀座にて映画館のはしごを致しました。先にレビューした「歩いても 歩いても」と「ぐるりのこと。」はいくつかの共通点があります。

両監督が同じ歳(1962年生まれ)

両監督とも前作がカンヌ映画祭で世界的な評価を受けた
 橋口亮輔監督・・・「ハッシュ!」
 是枝裕和監督・・・「誰も知らない」

原作なしのオリジナル脚本

制作にTV局が絡んでいない非メジャー

どちらも「喪失」が一つのテーマになっている

寺島進が出ている(笑)
 この人、公開中の「ザ・マジックアワー」にも出演していて、すごい売れっ子ですねえ。

『ぐるりのこと。』は、流産した悲しみから精神を病んでいく翔子(木村多江)と、それを優しく支えるカナオ(リリー・フランキー)の夫婦が辿る希望と再生の物語です。たしかにリリー・フランキーはいい味を出しているし、木村多江も熱演なんですが、鬱という病気に詳しくないので、今ひとつ描かれ方がわかりませんでした。橋口監督自身が鬱病を患った経験があるそうなので、本当はああいうのがリアルなのかもしれませんが・・・。

それよりも心を奪われたのは、平凡な夫婦のラブストーリーに並行するアナザーストーリーの方です。私的にはこっちだけでも良かったくらいかも。90年代初頭から21世紀への激動の10年、実際に世間を震撼させた様々な社会的事件を、リリー・フランキー演じる法廷画家が見つめるのと同時に、映画を観ている人もそれらをプレイバックできる仕立てになっているのです。この時代に行われたいくつかの大きな裁判が再現されていて、宮崎(みたいな奴)とか宅間(みたいな奴)とかが、法廷シーンに登場します。被告席に座る彼らを正面から映すカメラアングルが新鮮で、思わずドキッとさせられました。考えてみれば、実際この角度で見ることが出来るのは裁判官だけなのです。

法廷モノの映画やドラマは過去にたくさんありましたが、フィクションとわかって観ているから、さほどの感慨はありません。現実に起きた凶悪事件で、毎度私たちはうんざりするくらい大量の報道の洪水を浴びます。でも裁判は撮影禁止であり、大事件の傍聴券は一般人の入手は非常に困難です。つまり実物を見て、肉声を聴くことが出来た人というのは、いつの時代でもかなりレアなのですね。メディアに雇われた法廷画家たちも傍聴席からスケッチするので、どうしても後ろか斜め後ろのアングルが多くなります。それでも、私たちは新聞やテレビで彼らの描く法廷画を見るくらいしか、主役の姿を見る術はないのです。

宮崎勤を髣髴とさせる幼女誘拐殺人事件の被告である田中ツヨシ(加瀬亮)が、弁護士の「被害者の手首はどうしたの?」という問いに、あっけらかんと「食べた!」と答えて法廷をどよめかせるのは、史実に基づいています。たしかに宮崎も精神鑑定と法廷の両方で、人肉を自室で食べたことを証言しているのです。

宅間守を思わせる大間真治(新井浩文)も、ふてぶてしい振る舞いで顰蹙を買い、最後に傍聴席の遺族に向かって、とんでもない暴言を吐くシーンが出てきます。これは判決公判で実際にあった話で、被告人は意見陳述書などの資料から、被害者のプライバシーを知ることができてしまうのです。

他にも、新興宗教団体が引き起こした毒ガス事件で、傍聴席の信者が一斉にぶつぶつと呪文を唱え出す場面などにも惹きつけられました。また、音羽のお受験殺人を想起させる事件で、遮蔽のパーテーションに囲われた証人席に座る被害者の母親(横山めぐみ)の足元を、目ざとくカメラは捉えます。彼女の左脚には、法廷に似合わない宝石のアンクレットが光っていました。このように、限りなくノンフィクションに近いフィクションで、世相を巧みに切り取っています。他に、法廷への遺影の持込みがにおけるひと悶着(当時は不許可だった)など、司法の問題点なども劇中でさりげなく提示しています。

それにしても、橋口監督が法廷画家という職業に目をつけたのはヒットですね。司法に携わる担当者はどの事件も全て関われるわけではないし、報道記者だって異動があるでしょう。10年余りの期間、大事件の裁判を常に特等席から定点観測できる人なんて、この仕事以外では思いつきません。


司法記者クラブでの老記者(柄本明)や同業者(寺田農)との心の交流、カナオのこの仕事への懐疑と韜晦なども見どころの一つです。それにしても、リリー・フランキーの法廷でのスケッチシーンがなんともいえずにイイですね。美大を出て、イラストレーターが本職なんだから当たり前ですが、鉛筆や筆を持つ姿が自然で堂に入っています。淡々と対象をみつめる表情とまなざしがいい具合で、この役はこの人しかいないと監督がこだわったのがわかるような気がします。

あ、それから寺島進のことは前述しましたが、柄本明という俳優も出まくってますね。こうして2本続けて劇場で映画を観ると、同時に大量の予告編も見せられることになるのですが、『最後の早慶戦』とかいう野球映画にも準主役級で出演、その他にも、今年中に2本くらいの公開予定の出演作品が控えているというのですから驚きです。たしかに巧いんですがね。
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