音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

『美女と野獣』考

2009-10-25 13:43:46 | 映画・ドラマ・音楽
大人も仮装が許されるというディズニー・ハロウィーンに一家で参加することは、かなり前から決まっていたのですが、その日がだんだん迫ってきました。妻はロックミシンと普通のミシンの2台をフル回転させて衣装づくりのラストスパートに入っています。どうせその日だけコスプレに付き合えばいいんだろうとタカをくくっていた私でしたが、どうも道行くゲストたちに声をかけられたら、扮しているキャラクター相応のリアクションを返さねばならないらしく、DVDを渡されディズニー映画の予習を課せられることになったのです(´∀`;)

『美女と野獣』はたしか92年の日本公開時にガールフレンドに連れられ、新宿のコマ劇近くの映画館で観た記憶があるものの、退屈で寝てしまっていたためか内容を覚えていません( ̄□ ̄|||)

そういえば「美女と野獣」というフレーズは未だによく使われるのは何故でしょう。芸能ニュースでは美人女優とお笑い芸人のカップルを評して、必ずといっていいほどこの常套句が出てきます。こういう場合の「野獣」にはバーバリックとかアッチの方が強いというニュアンスは殆どなく、もっぱら男性がイケメンでない個性的な風貌をしているという意味で使われます。これほど人口に膾炙しているのは、世の中において「美女と野獣」の組み合わせがポピュラーである証左なのでしょう。

20年近くにわたってエンドユーザー向けの高額商品のセールスに従事している友人にいわせると、「美男美女」の組み合わせというのは滅多にないんだそうです。彼の接客する対象が、表参道や銀座を歩くカップルではなく法律上の夫婦というのもポイントです。綺麗な奥さんの横にいる男性は、たいてい格好よくないんだけど、お客様アンケートに目を移すと、年収欄が凄かったり、職業欄には医師や弁護士などの高度専門職や、給与が高いことで有名な企業の名前が書かれていることが多いとか。当然のように駐車場には外車が停まっていたりするという。でも、これじゃ「いいクルマの助手席には、顔のいい女が座っている」というホイチョイプロダクション的な結論で身も蓋もないので、「それでは、二枚目の旦那の奥さんはどういう人なのよ?」と訊いてみました。

すると、彼曰く「サザエさんみたいな人」ということです。見てくれがサザエさんというのではなくて、いわゆる美人ではないけれど、チャキチャキ・サバサバしていて頭の回転が速い(質問も的を射てシャープ)人が多いということらしい。二枚目というのはたいてい受身的ですから、奥さんが寄り倒したんだろうなあと容易に想像させる組み合わせなんだとか。

話をディズニー映画に戻すと、このたび『美女と野獣』を鑑賞して改めて感じたのは、この映画は女の子の好きな要素が満載だということです。100回以上観た人もいるようですが、根強い人気を誇るのもわかるような気がします。

ヒロインのベルに執拗な求婚をするマッチョ男のガストンは男社会のメタファーです。彼はベルが無類の本好きであることを認めず、「女は本なんて読まなくていい」と言い放つ御仁なんですが、ここでいう「本」というのは、上級学校への進学やフルタイムでの仕事など女性の社会進出を暗示するものです。後は、たとえルックスで選んだとしても「私は彼の人柄に惹かれた」と思いたい女性心理、ファザコンというテーマなども、特に女性陣の琴線に触れてくるのでしょう。(たぶん)

それ以外にも、色んな見方ができるテキストなので、思いついたことをつらつらと。

●底値買いの妙
女性が配偶者を選ぶときに、その男性の将来性という観点を全く考慮しないという人は少数派なんだと思います。将来性といっても、末は大臣か社長かというほどでなくても、長期的にコツコツと一つの仕事を全うするとか、心身ともに健康で生活者として安定感があるというのも立派な将来性でしょう。

ベルは村のミーハー女たちがキャーキャー騒いでいるハンサムな狩人ガストンを袖にして、誰もが敬遠する醜い野獣に心を寄せます。しかし、ビーストが王子に戻ったときは晴れて妃殿下になるわけですから、不人気銘柄を買って大きなリターンを得たことになります。ベルはそんなことを企図したわけじゃないと思いますが・・・。それにガストンは、今は人気者でも職業が狩人だから怪我でもしたらアウトです。その知性のなさと傲慢な性格に将来性なしと判断したのかもしれません。


●全員野球の勝利
この夏は鳩山代表と谷垣総裁という二大政党の党首の口から期せずして「全員野球」というフレーズが飛び出しました。皆一丸となって総力戦で頑張ろうという意味なのでしょうが、なんで「野球」なのかな? どんなチームスポーツでも同じだと思うのですが・・・。

それはさておき、そもそも王子が野獣の姿にさせられたわけは、一輪のバラと引き換えにお城に泊めてほしいと懇願した老女を、聞く耳を持たずに追い返そうとしたからです。老女は魔女に変身し、優しい心を持たない傲慢な王子と、彼をそのように育ててしまった召使いたちに魔法をかけてしまうのですね。ただ、物語には登場しないものの、当然ながらかつては先代である王様がいたはずです。いきなり「王子」は出現しませんからね。とすれば、これはジュニアの物語でもあるわけです。

苦労知らずで惻隠の情がなく、家業を傾かせた二代目経営者や落選した世襲議員に、この映画は必見だと思います。なぜならビーストも城に迷い込んできたベルの心を振り向かせるのに、家来(蝋燭や時計やポッドに姿を変えられている)たちのアドバイスを素直に聞いて実践したからです。バラの花びらが全部散るまでに「真実の愛」を見つけなければ魔法がとけないという制限時間の中で、全員野球を展開したわけです。落魄したときこそ、周囲の意見に真摯に耳を傾け復活を期せ! と教えてくれます。


●引きこもりニートよ、希望を持て!
観ていて思ったのですが、不思議なことにベルは最初から野獣をそれほど嫌がっていないんですね。姿は怖いけど根はイイ奴であることに徐々に気付いて、愛情が芽生えていくというイメージを持っていたのですが、出会いの場面で「きゃっ」と少しばかり驚いただけで、以降のベルは、異界(お城)の中でなんだかリラックスしているようにさえ見えます。

これについては名古屋大学の渡辺美樹先生の論考が秀逸なので一部引用します。


野獣に変えられた王子は荒廃した開かずの間で一人絶望に苦しむうちに、同様に孤独に悩むベルを引きつけることとなったのである。野獣の孤独は彼一人が野蛮な動物であることでも示されている。飼い犬ですら「からくり仕掛け」のオットマンの姿をしているからだ。それに対して村一番の人気者ガストンは孤独の何たるかを知らない。ベルを射止めるには孤独の苦しみを味わい尽くしたことで心の成長を遂げた野獣となるのである。
(健康文化26号/2000年2月発行)


孤独と絶望のトンネルをくぐったビーストに軍配が上がったということですね。ベルも村一番の美人だけど、周囲からは変わり者だと見られていました。毎日のように貸本屋に通う読書好きで空想癖があるということからして、不思議ちゃん的キャラなんですが、この種の人は華やかな外見から想像もできないほど、深い孤独を抱えている場合があります。それは他者から正当に理解されていない、自分をわかってもらえないという思いからです。人知れずこういう孤立感を抱えて生きる「美女」を狙え! と引きこもりニートたちに声を大にして言いたい。引きこもったままでは話になりませんが、ひとたび現実社会に踏み出し、ベルのような女性と交流する機会があったときはチャンスではないかと。彼女達は、屈託なく生きるイケメン男子や勝ち組を自称する自信満々の男性よりも、孤独の深淵を覗き、思索を突き詰めた男性に共振する可能性を秘めていると思うからです。



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2 コメント

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そのお仕事が気になる (meici)
2009-11-12 16:40:51
久しぶりにお邪魔しました。
その間に帰国し、引越し荷物を待っています。
久々の日本に、いちいち感動する接客のよさと、人付き合いの鬱陶しさを同時に感じるこのごろです。

ディズニーでのハロウィーンですか?ディズニーを深く愛するロマンチックな可愛い奥様、
で、真面目に予習している音二郎さん、愛妻家ですねー。
それでいて、つっこみを入れまくる。わかります。
「美女と野獣」を見る気には一切させないが、飽きさせない考察のほうは十分堪能しました。
で、「エンドユーザー向けの高額商品のセールス」って何なのか?が一番気になる感じです。まあ、我が家に来てもらっても商売にはならないと思いますが。
「美女と野獣」?「美男とサザエさん」?面白かったです。
お帰りなさい (音次郎)
2009-11-15 00:06:28
>meiciさん、毎度ありがとうございます。
その後久しぶりの日本はどうですか? 日米比較論などお聞かせ願いたいものです。

>って何なのか?

「住まい」に関するものです。

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