新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

小泉さん、木質バイオマス燃料もあります

2013-11-17 11:22:23 | コラム
エネルギー源論:

目下小泉元総理の「即刻原発ゼロ」で方々で議論が沸騰しているかの如き現状だ。一昨日だったかの古館の報道ステーションにコメンテーターで登場した藻谷圭介(こういう字だったか)という論客が「木質バイオ燃料にすればCO2が化石燃料より削減できるし、我が国には木材が豊富だ」と推薦していた。一聴、尤もだが、実現の可能性は低いかと危惧する。

1975年、当時でもアメリカというか世界でも最大級の木材会社だったW社のワシントン州南部の工場で「木は全てを無駄にすることなく有効活用できる」と教えられた。南部とは言ったがこの地域は寒いので、工場の事務棟はスティームで暖房されていた。その熱源は工場の発電所で余った蒸気を使っている。そこの燃料は自社林の間伐材、風倒木、虫に食われた木、払った下枝、製材工程で剥がした樹皮、鉋屑等々である。更に、余った電力はこの地区の電力会社(配電網)に販売している」と聞かされた。当時の私には驚きのシステムだった。因みに、W社が保有する森林の面積は約600万エーカーで、四国より広い。

アメリカの林業はドイツ系であるものが多いと聞いた。どういうものかと言えば、大型のトラック(logging truck)が通れる林道(logging road)を広大な山中に設けて、そこまで伐採した巨木をワイヤーに吊して運べるような塔を建てて、平地の製材所まで輸送するのだ。伐採した後には自社の大規模な種苗園(nursery)で育成した苗を植えて育てて再植林していく。こういう山林は余り急斜面にはない。因みに、植林もその後の管理も人手でないと出来ないほど細かい作業だ。

即ち、種を蒔いて苗を育てて人力で植林し、管理し、伐採し、輸送し、樹皮を剥ぎ、製材し、製材できない滓をチップをパルプと紙の原料に使用し、その過程で発生した全ての残渣をエネルギー源とするのが、アメリカ式の紙パルプ・林産物企業の形態である。

ところで、「我が国はアメリカと比べれば10%にも満たない国土の面積で、その70%近くが居住に適さない、樹木に覆われた森林か山か丘陵地帯である。その豊富な木材に覆われた地域は概ね傾斜が厳しく、アメリカのように簡単に林道を設けて木材を輸送するには不向きだという悪条件がある」と、私は聞かされている。しかも、林業は不振だった上に輸入品に依存しているので、益々衰退したとも聞かされた。

その森林地帯ににこれから新たに林業のシステムを導入して、木質バイオマス燃料を生産していこうという計画は非常に結構だとは思う。だが、これからインフラを整備して、流通機構まで確立するコストは如何になるかと考える時、現実的な妥当性があるのか考え込んでしまう。山林には全く素人の私が見ても、多くの広葉樹林は最早全く管理されていないようで、そこを開発していくのは容易ではないと見える。

しかし、電力のコストを高め、CO2の発生量を抑止できない石油系の燃料依存は回避せねばなるまい。木質バイオマス燃料は有力な代替熱源の候補だろうが、そこまでに持って行くには課題が多すぎると思う。藻谷氏は国内の山林を伐れば材木が無くなると言っていたが、それは再植林で補っているのがアメリカの森林経営である。W社では"Managed forest"と称していた。それが上記の種からの一貫態勢である。

私は木質バイオマス燃料が現在の石油等を消費する発電所でそのまま使えるものか否かも知らない。小泉元総理はこういうことまでお考えてであれこれ言っておられるのだろうか。アメリカにも行って林業をご覧になってみればどうだろうか。