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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

戦後民主主義とは?

2016-07-16 23:53:22 | 大学公開講座
 国の行く末を巡り、その舵取りを担おうと権謀術数がうごめく政治の世界を読み解くことは、かくも難しいことなのかということを実感させられた。戦後70年とされる今、日本の民主主義はどこへ向かおうとしているのか?研究者の話を聞いた…。 

 北大全学企画公開講座「『国のかたち』を案ずる時代の知恵」第4回講座は、法学研究科の権左武志教授「戦後民主主義の思想と冷戦終焉後の変容」と題しての講義だった。
 そのタイトルからは“「国のかたち」を案ずる”という今回のシリーズの本丸ともいえる講義だったのだが、いかんせん私には難解を極めた。

          
          ※ この日も法学部の一年生が権左教授を、そして講義内容をレクチャしてくれました。

 ブログ作成でこれほど呻吟を極めたことも珍しい。何時間もパソコンの前に座ってあれこれと巡らせたが、つい匙を投げた。そこで恥かしながら、今回は権左教授が講義前に提示されたテキストを転写することでお茶を濁すことにする。少し長いですが一読していただけたらと思います。
 なお、権左教授は思想家であり、政治学者としても著名だった丸山眞男に深く傾注され、丸山眞男の著書を通して、戦後日本の民主主義を読み解かれたようです。

          
          ※ 講義をする権左武志教授です。

 昨年戦後70年を迎えた日本では、日米戦争の敗戦体験が様々に語られました。70年余り前に敗戦を経験した日本で、明治以来の近代化の歴史を振り返り、東西冷戦下に今後進むべき進路氏方向性を示そうとしたのが、丸山眞男(1914-1996)を始めとする知識人の戦後思想でした。この講義では、最初に、丸山眞男に代表される戦後民主主義の思想を振り返り、歴史的文脈の中で相対化して捉えるよう努めたいと思います。その上で、26年前の冷戦終焉が戦後思想をいかに大きく変容させたか、また冷戦終焉後の思想変容をいかに評価できるか、考えてみたいと思います。
 戦後思想は戦争体験を思想化したものだと言われています。戦後丸山の思想も、軍隊体験を踏まえ、日本国民を戦争に駆り立てた超ナショナリズムやファシズムの思想を分析し、その特質を欧州ナショナリズムやドイツ・ファシズムと対比して解明する作業から始まりました。そこで、日本の超ナショナリズムが欧州ナショナリズムと異なるのは、天皇中心の価値体系が対外膨張の推進力をなした点に求められ(「超国家主義の論理と心理」)、日本の戦争指導者が日米開戦の決定を果たした役割は、「神輿」「役人」「無法者」からなる無責任の体系と説明され(「軍国支配者の精神形態」)、日本のファシズム運動は、下からのファッショ化を抑圧して上からの国家統制を進めた「上からのファシズム」と特徴づけられます(「日本ファシズムの思想と運動」)。そして、日本ナショナリズムの発生は、西欧の衝撃に反応する外発的性格を持つ点で東アジアと共通する一方で、衝撃に対する反応の仕方から、上からの近代化に成功しつつ帝国主義と癒着した日本独自の発展が説明されます。(「日本におけるナショナリズム」)。そこには、(1)天皇制を支える前近代的神話・象徴体系がまだ解明されていない点、(2)明治ナショナリズムの健全性を評価し、ナショナリズムと民主革命の結合に期待する点、(3)フランスの内発型ナショナリズムをモデルとし、外発型ナショナリズムが敗戦体験を経てファシズムと結合する可能性を見逃している点を指摘できます。
 まもなく朝鮮戦争が始まり、東西冷戦が激化すると、丸山は、(1)東西二つの陣営が平和共存する可能性を説き、二つの世界に対する非武装中立の立場を唱えます(「三たび平和について」)。そして、(2)日本再軍備と共に始まった改憲論議では、憲法九条の平和主義を「政策決定の方向付け」を示す規定として擁護します。(「憲法九条をめぐる若干の考察」)。(3)とりわけ1960年の日米安保条約改定問題では、岸内閣による新安保条約の強行採決に対し、議会を翼賛体制化する議会制民主主義の危機として抗議します。(「この事態の政治学的問題点」)。そこには、東西冷戦が拡大する現実に対し、対米従属とは異なる戦後日本の別の可能性、自主独立の進路を指し示そうとする丸山の基本姿勢がうかがわれます。
 こうした戦後民主主義の思想は、30年後に東欧自由化とドイツ再統一で東西冷戦が終焉し、冷戦で封印されていたナショナリズムの力が解放されると、次第に、しかも着実に変容していきます。(1)湾岸戦争下の国際貢献論議は、「普通の国」として戦勝国と対等の地位へ復帰する敗戦国の新ナショナリズムを目覚めさせ、憲法九条と日米安保条約が共存する「九条=安保体制」の終焉が説かれました。(2)「戦争を知らない」68年世代からは、米軍占領下に新憲法が制定された「ねじれ」を解消する全面的憲法改正論が主張され、民主主義を愛国心と結合するという「愛国」論議が解禁されました。そして、(3)保守与党と革新野党が並存し続ける「55年体制」の戦後政を克服するため、小選挙区制を導入し、首相権限を強化し、政権交代可能な二大政党制を目指す「政治改革」の実験が、1993年の選挙制度改革以来続けられました。冷戦終焉後のこうした戦後思想の変容は、20年後の日本に何をもたらしたでしょうか、2012年以降、岸内閣を継承し、日米同盟の相互防衛化と全面的憲法改正を目指す政権が登場したことと何か関係があるのでしょうか、考えてみたいと思います。


          

 特に政治の世界とか、思想の分野は、それを説く立場によって主張が大きく食い違ってくる場合が多い。したがって、この権左教授の論もまた、一つの考え方ということもできる。
 権左教授のお話を聴きながら、戦後の日本が欧米の民主主義に倣いながらも、日本においては独特の「天皇制」が大きく横たわっているのかなぁ、という思いを強くした。
 現憲法においては、国民の「象徴」として政治的影響力を排除しているが、そのことが憲法改正論議の中でどう推移していくのか、注意深く見守りたい点の一つであると、この講義を受講して思った点の一つである。


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