余録
▲シベリアのブリャート人の神話によると大昔、人間は火をもたずに、いつも空腹で震えていた。気の毒に思ったツバメが天神テングリから火を盗んできてくれる。その時怒ったテングリの矢を受けて、ツバメの尾は二つに裂けたという。
▲人間は、以来ツバメが家に巣を作るのを歓迎するようになった。このように鳥や動物が神から火を盗んでくる神話は世界中に分布する。火の起源が盗みなのは、火の利用が神や自然への反逆だと意識されていたからら
しい。
▲では実際に人類の祖先が火を使い姶めたのはいつごろからか。先ごろ南アフリカのワンダーウェーク洞窟で、原人のホモーエレクトスが火を使っていた約100万年前の痕跡が見つかったとのニュースが伝えられた。カナダのトロント大学などのチームによる発見だ。
▲見つかったのは地層中の焼かれた骨片や植物の灰で、焦げた岩もあった。野火などによるものでなく、洞窟で意図的にたかれた火の痕跡とみられ、チームは料理に使ったものと推定している。これは今までの発見を約30万年さかのぼる最古の火の利用痕になるという。
▲料理は言語を除く人類最大の発明だとダー・ウィンは言ったそうだ。そして人類は火を使った料理で消化の負担を減らし、脳を進化させたとの説が注目される昨今だ(R・ランガム著「火の賜物」NTT出版)。人類と火と料理の出合いを示す100万年前の炉である。
▲もっともこんな料理の起源を牛のレバ刺し販売が法で禁止されようという世相の中で聞けば、今や生食こそ食文化だといいたい方もいよう。食の安全も人類が築いた文明の基本原則ではあるのだが……。 2012・4・6