日本のET企業の新入社員歓迎式での社長訓示。あなたがたには今後十年間丁稚奉公していただきます。次の十年間は勉強していただきます。その次の十年でマネージメントをしていただきます……そんな会社へ誰が行きたい? 一方カリフォーニヤのグーグル本社。若い研究員たちは、ベストシェフが腕を振るう各国料理食べ放題、ジム&スイミングプール使い放題、芝生のお庭にファーマーズマーケット有機野菜買い放題、オフィスに(猫以外)ペット連れ込み放題、壁に(アイデアの)落書きし放題、 社内の移動は電動キックボード乗り放題……こんな会社誰が行きたくない?
蜂鳥の羽音の甘き朧かな
インデイアン居留地の夜の蕨かな
仙人掌の棘まで春の暮れにけり
高速道路ラツシユアワーの雨水かな
鳥の巣の闇に踊りしマンボかな
*1 ソネットにもいろいろあるが、道子が習っているのはシェイクスピア風ソネット(十四行詩)、ABAB CDCD EFEF GGの構成で、それぞれAとA、BとB……という風に韻を踏んでいかねばならない。
今日こそ白人洗濯婦と決着をつけるべく色々と準備(*2)のうえいよいよ洗濯に臨んだが、彼女は今朝休みであった。いないとせいせいすると思いきや、ちょっと淋しい。
*2 町子を見送りがてら、夫から「きっぱりI don't careと言う生き方と実践」についてのレクチャーを受け、道子がお風呂に入っているときトイレを使おうと入ってきた夫に対して投げつける罵詈雑言を横で聞いていくつかメモし、そのうえ「らくちん喧嘩英会話」というウェブページを見てニューヨーカー(特に黒人)の啖呵の切り方を勉強。
一難去ってまた一難。サイエンスフェア当日は休んでも単位をもらえる約束をとりつけたはいいが、その後NYにある九つの選抜公立高校(specialized high schools of New York City)入試(SHSAT)の準備クラスに五万出して入りなさいという案内がきて焦る。道子の志望校はその九つの高校の中でただ一校だけの芸術高校であり、入試はオーディションと成績表のみ。よってその予備クラスを受ける必要はないと思うのだが、その旨ガイダンスカウンセラーに質問を書いて送ってもいっかな返事が来ない。夫がカウンセラーと喧嘩しなければよいがと星に願う。
本日の記事の中に真っ赤な嘘が一つだけある。
ミスターLから話を聞けば聞くほどRSN先生に好感を持つ。最初の年RSN先生についた生徒は五人。次の年に二人減り、三年目にはミスターL一人になった。そのまま卒業までマンツーマンであった。生徒が長続きしないので大学にいられず、西海岸の大学へ移るも、今回またそこを辞めてNYへ戻られることになった。もっと演奏したい、子供も教えたいと思っておられる。しかしRSN先生は基礎を教えない。完璧に弾けるようになった曲を持って来た生徒にだけ、それを輝かせるヒントをくれる。そのヒントは宝の山だが、子供には無理だ、RSN先生と平行してトレーナーが必要になる、というのがミスターLの話。しかし夫がまず教えて、それからRSN先生に見てもらえば問題ない。
夜中に道子に起こされる。急に動悸が激しくなって怖いという。熱はない。脈が速い。夫も不整脈があるので、症状を道子に説明して聞かせる。すぐ終わるものなら、よくあることらしい。道子は昔からちょっと走るとやけにハアハアいって心配したものだ。故郷の昔の家の門をくぐった土間に祖父が狸や鷹を飼っていた。その上に燕の巣があって、ある日子燕が落ちてきたと思ったら、それが蝙蝠の子だった。巣から突き落とされたのだ。お菓子の箱に綿をしいて蝙蝠の子を入れると、小さいながら蝙蝠傘のような翼があり、すでに標本みたいに見えた。トクトクいう道子の速い脈をとっていると、唐突にそれを思い出す。朝になると、道子は元気に起きてきてトリオを弾く。
年に一度の歯科検診。手遅れにならないうちに町子に矯正を、と三年前からLVY先生に言われ続けている。「虫歯がなかったのは奇跡だね」と二人は喜びあう。
ピアノ運送屋さんが、朝ミスターLのアパートにてピアノをピックアップ、そのままうちへ運んでくる予定をすっぽかす。本当か嘘かわからない言い訳を聞く。今夜九時にリスケジュールしてから、最後のチェロレッスン。ミスターLは今日妹さんのプリカレッジの卒業式とパーティー。妹さんはジュリアードの一次審査(ピアノ)に受かったのにインタビューで落ちたという。マネス音大が妹さんを受け入れた。あたら天才をインタビューごときで失うとは馬鹿げた話。ミスターLの弟さんは昨日ジュリアードを卒業、マスタークラスへフルスカラーシップで進学。連日の卒業パーティー、フェアウェルパーティー。RSN先生からも電話がかかる。来週には帰国なのに最後の最後まで師匠の世話。レッスンのあとHRNちゃんと一緒にARTカフェにて打ち上げ&お別れ。婚約者達の未来にシラズで乾杯。続いてメルロー。四年間の思い出。写真と寄せ書きのアルバム。道子の手の写真。ミスターL以前と以降のボウハンド。町子はこの頃より痩せたね。僕はクレイグリストに「生徒募集」の広告を一度だけ出しました。私がたまたまそれを見つけた。お互いに幸運でしたね。HRNの故郷はチェジュ島の近くですよ。いいえ、飛行機で四十分もかかるのよ。ブラームスの嫌いな人がいるなんて信じらんない。ブラームスは僕達のナンバーワンです。ソウルには独特の雰囲気があってね、恋しくてたまらなくなるんですよ。ミスターLの「ワルツ」にピアティゴルスキー先生の影を見ました。HRNちゃんの最後のリサイタルは心を開ききって歌ってたね。子供達のオーディションに完璧な伴奏をしてくれました。夫はホロヴィッツをライブで二度も聞きました。RSN先生は正直すぎてまわりじゅうに敵をつくるのです。二年たって合わなければ先生を変える勇気を持つことだよ。みんなでソウルに遊びに行きます。道子と町子が最後に挨拶。シーユーアゲイン。お店の前で握手して二人の後姿を見送る。
今朝、水木しげるの話題をTVジャパンのニュースでやっていた。画面に映っているネズミ男を見て、夫が唸った。頭を抱え、「ううう、ネズミ男……うぇ?」と言いつつ、目はうつろ。なんだと思ったら、「だめだ! 思い出せない、昨夜見た夢が……!」。
元バレエメイトのYM子さんのブログに夫はコメントをした。しばらく未承認だったので夫は、きれいさっぱり忘れさられた、もともとえらく嫌われていた、とペシミスティックになりかけていたら、今日コメントが承認、お返事もいただく。いつものことながら、写真が素晴らしくきれくて美味しそう。南禅寺はお豆腐も美味しいよね。
時効警察でおなじみ三木聡監督のビデオあれこれ届く。心躍る瞬間とは、注文した本あれこれ届くとき。顔ゆるむ瞬間とは、注文したビデオあれこれ届くとき。
図鑑に載ってない虫
インザプ−ル
ダメジン
転々
私は、ふせえりさんが好き。顔も声も歌も好き。しっとりと上品なのがいい。「亀は意外と速く泳ぐ」で町内アナウンスをするふせさんが特にしっとり。上野樹里には及ばないが、かなりうまい役者さんだと注目している。ふせさんが素(といっても舞台挨拶)で喋るとき、私と同じくらい人間嫌いに見えて、益々好感がもてた。NY在住ママさんピアニストのSH子さんは、ふせえりさんにちょっと似ている。
白人洗濯婦が弟子を連れてくる。そして私にいつもの宣言(自分は毎週火木の朝に来て、次の予定が詰まっているので、できればあんたは火木の朝は洗濯遠慮して欲しい。それが無理なら、あんたの洗濯物を勝手に乾燥機に入れたり、勝手に放り出したりするよ)をするのだが、なぜかいつものトゲトゲシしさがまるでない。もしあんたが気にしなければだけど、などと丁寧言葉を使用、いつもの鋭いイーグルのような目ながら、口は思い切り横に広がって歯も見えてにこやか。感じのいい人だと、弟子に思われたいのであろうか。
(写真はリンデンの真似をして空き箱に入るメープル)
*プーランクのクラリネットソナタは彼の遺作なのだ。死後すぐに、バーンスタインのピアノ&ベニーグッドマンのクラでカーネギーHで演奏されたという。それは聞いてみたかったなあ。



















