TAKAさんと飲んで、映画の話とかして昨夜は楽しかった。アル・パチーノがジュリアードに講演にきたんですとか。大阪芸大はフランキー堺だったのよとか。ショパンのプレリュードは(ノシタシオンと同じく)ピアノのテクニックの粋を集めているとか。プレリュードが無性に聞きたい、生で今ぜんぶ。
若いカラテ先生と一緒に踊る。コーナーから手と手をつないでワルツステップ。手が大きいとは思っていたが、てのひらが硬くてぶ厚い。ぶ厚くて冷たい。端から端まで二人で軽やかに踊り、次の女性にチェンジする。彼はまじめにバレエを基礎から習っている。なぜバレエ、とは思うが、踊るのがきっと好きなんであろう。運動家だから姿勢もバランスもいい。ターンもぶれない。水色のタイツが似合いそうな甘いフェイスである。
mm先生が日本から預かってきてくださったお土産に感涙。元バレエメイトのym子・ハミングバードさんが、猫マグネット&バレエ絵葉書をくだすった。うちのどの猫とも違う柄なんで、新しい猫が来たようなハッピーフィーリング。先日すでに猫病院で、「新しい子猫が保護されたらご一報ください」とHRミさんにお願いしてきた。子猫の穴は子猫でふさがにゃーだちかんで。
元バレエメイトmyuさんもお悔やみ&mm先生のジャパンレッスンの記念写真を送ってくださった。見ましたよ、日本のみなさん!
「極上ピアニシモ」
ピカソ好き。ガウディ好き。TAKA・Kのピアノ好き。ダウンタウンのクールなバーで、TAKAさんのリサタルを聞く。チケット売場に行列。立ち見も出て大盛況。一曲目ブーレーズですでにトリップしそうになる。日系人会の演奏はこれの宣伝だったんやね。正直あのときなんかもの足りなかったんでまた聞きに来てみたら、あんのじょうものすごい。このバッハ。こんなクールでホットでしかも精緻なバッハ聞いたことない。こんな風に弾く人はいない。新しくてしかもうまい。計算し尽くされた音楽を爆発的に演奏する。ミスターローゼンと同じ。宇宙ステーションで働くかたがたにぜひこのCDを一枚持っていってもらうといいな、と瞬時思った。あそこで青い地球を見ながら聞いたら最高だろう。すべてを一度に感じる快感。マンドラゴラは前回もよかったが、今回は格段のできつうか、まったく別の曲じゃん。どうやったらあんな繊細で天国的な音が出せるのよ。特にピアニシモ。魂のピアニシモ。TAKAさんのピア二シモは松坂牛か日本のケーキか日本のパスタ。そんくらいTAKAさんにうっとりさせられた。欧介が「ホロヴィッツよりいいんだこれが」と言った音の片鱗が私にも理解できて嬉しい夜。


子供たちがドアを閉めて閉じこもると静かである。ときおり二十四階の窓にトンボが、こつんとぶつかる。ハドソン川からくる夕焼けが向かいのビルディングに反射してものすごい。夕焼けの中に宵の明星が見える。
一夜明けて、川霧や雲を見ながら朝ごはんを食べる。窓から空が見えるのはやはり気分がよいものだ。前のアパートはドアなしの上下階だったので、喧嘩の嫌な英語などが筒抜けに聞こえた。一度に一人しか練習できなんだ。ところがこちらでは、今欧介がリビングで渾身のバッハを弾いてる。隣で町子がハイドン・ディベルティメントをチェロで歌ってる。その向こうの部屋で道子がピアッティのエチュードをリズミカルにさらってる。まるで音大の寮だが、それでも全然うるさくない。私はキッチンのマイスペースでこれを書いている。猫たちも少しずつ落ち着いて、明日は写真ものせられると思う。
むむとぅしゆいがヨー うちんかてぃいめんヨー
うとぅいむちみそりヨー 阿弥陀仏ヨー ヨーオンナー
なまたべるうさきヨー ただやあやびらんヨー
たまくがにうやぬヨー あぬゆみとぅちヨー ヨーオンナー
たまくがねおややヨー いち見んちん見んぶさヨー
たばくふくえだやヨー 見んしてぃたぼりヨー ヨーオンナー
(意訳)
百歳のお年寄りがそちらへ向かっています。お取りもちください。阿弥陀仏。
今供えたお酒はただのお酒ではありません。大事な親があの世に持っていくお酒です。
大事な親はいつまでも見ていたいものです。煙草を吹く間だけでももう少し見せてください。
(TEAへのウムイ)
一歳の子猫がそちらへ向かっています。お取りもちください。阿弥陀仏。
今供えたミルクはただのミルクではありません。大事な猫があの世に持っていくミルクです。
大事な猫はいつまでも見ていたいものです。煙草を吹く間だけでももう少し見せてください。
YK先生に、トンベパドブレ、グリッサード、ジャンプを教えていただく。それからピケターン。どれも形だけ、やってるだけ。それではつまらない。基本を完璧にして次へ進みたいと思う。まじめにジャンプしたので、足がよれよれになり、帰りの地下鉄の階段でつまづいて膝を打った。その瞬間、体がふわりと持ち上がった。誰かが脇を持って、支えてくれた。おかげでひどくこけずにすんだ。どうせメキシカンのおっちゃんやろ、と思って振り向いたら、超美形の黒人青年であった。体が逆三角形で、ぴちぴちのシルクの青いシャツを着て、パンツもぴちぴちの黒。まちがいなくダンサーだ。私がうっとりしてお礼を言うと、彼は怒ったように首を振って、「レッスン後は足をマッサージしないと怪我しますよ」みたいなことを早口に言って去った。私の体に触れ、私もダンサーであると直感したのであろうか。どきどき。と思ったがすぐに、私がMM・HRYM・BALLTというピンクのロゴ入りのTシャツを着てバレエシューズをぶら下げてたからだ、ということに気づいた。息子といってもいい年だ。いい匂いがした。
*俳句豆知識
生身魂(いきみたま)とは、お盆の季語。まだ生きている親にお供え物をしたりして長寿を祈願するとき、親のことを生身魂と呼ぶ。
「寄せ書き」
猫病院からカードをもらう。ドクター&HRミさんはじめ、全員の寄せ書きで、TEAの思い出を書いてくださった。TEAの母親が、TEAたちを産んで三日目に保護されて家族で病院に来た。なかでもTEAは愛らしく、もらわれるまで注目の的であった。みんな悲しんでます、と言ってくださった。四月に日本に帰ったとき、一週間もTEAたちを預けた。みなさんにかわりばんこに、かわいがっていただいた。そういえばお盆なのだ。TEAの霊は引越し先がわかるだろか。
「町子の慰め」
あのね、きみ歌えよの「誰かがいつか耳澄ます」の歌詞だけどね。最初まーは、「みみすます」じゃなくて、「クリスマス」だと思ってたんだよ。でね。本当にこの歌詞がクリスマスだったらよかった、と思ったのね。それならこの曲でプラハに行けたでしょう?
荷造りの合間に買物へ出ると、アパート前の通りの、横断歩道の真ん中に、短パンの老人が仰向けに寝ている。まわりに人だかりができ、鞄で日陰を作ったり、水を飲ませたりしている。アパートの管理人ホゼーが、腰に手を当ててスポーツドリンクを飲みながら、「ヒートストロークだよ」と私に言う。「それだけじゃない。今日はここでいろいろあった」と、得意そうな顔である。十一時頃、ホゼーの目の前で正面衝突が起ったらしい。それにジョガーがいたるところで熱中症で倒れたりしゃがんだりしてたらしい。「テイクケア」とホゼーに見送られ、DVの店へバイオリンの弦を買いに行く。「一本二ドルなのよ、二本買っとけば?」とDANに得意顔で言われ、驚いて二本買う。チェロの弦は一本二十ドルから八十ドル。十倍から四十倍する。財布を忘れたことに気づいたが、洗濯用のコインがあった。五十セント足りないんで一本でいいと言ったら、DANが「お客さんの駐車用コインがいるから、あるだけ置いてって」と結局E線を二本出してくる。
いったん帰り、財布を取ってからFウェイへ回る。今夜は欧介が男声パー練へ行くんで、夕飯は軽くでいいからスォードフィッシュ一品に、茶そばを買う。子供にはサーロインバーガーを焼く。先々週はTEAと一緒に食べたのだ。TEAが家にいる間、私はリンデンやメープルを構わなかった。道子や町子と同じくらいほっといた。TEAを追い回したりすると、うとましく感じることもあった。最近また私が可愛がりだしたので、二猫とも得意そうである。Fウェイの帰り、太った女浮浪者が飲食店の正面に足を投げ出して座り込んで介抱されている。分厚い足の裏が、墨を塗ったように真っ黒で、相撲力士が手形を取ることを連想させた。レストランの中に客がいれば、それを見ながら食べなきゃいけないところだけど、誰も窓際に座ってなかった。
「荷造り」
黙々とダンボール箱を作り、くだらない荷を箱に詰める。全部捨ててしまいたいが、また買うのもくだらないので我慢して詰める。詰めた箱の置き場がない。家中がダンボールの迷路。リンデンのワンダーランド。
「合宿のようなパー錬−ソプラノ・メゾ編」
私と町子と、午後から紀伊国屋へ行き、別冊コロコロ、のだめ#22などを買い、団長HRMさんの高級アパートへ歩いて行く。町子とAYちゃんが同じクラスだった幼稚園の近所で、途中、歩道の真ん中に置いてあるベンチなど見る。
幼稚園の初日、町子は私と別れて泣いて吐いた。吐いたあとはけろりと遊んだ。二日目も泣いて吐いてからけろり遊び、三日目から朝泣かずにバイバイした。
HRMさんのアパートにて、AY先生のボイストレーニングをまず受ける。ゴムイボ踏み、マジックボールなど秘密兵器が次々出る。私はかかとにこれを置いて歌う。町子は足指にボールを置かれた。NOMさんは股に挟んで歌ったという。AY先生はアイドルみたいにかわゆく小柄なのに声がすごい。流星のように声が輝いて飛ぶ。真似たいが、とてもできない。
全員そろって、NOMさんのピアノで、さくら、旅愁を歌う。OREさんと町子二人の強力アルト。AY先生の指導はここでも細やか、顔の開き方、言葉のニュアンス、音程の感じ方、など、非常に勉強になり、かつ面白い。
休憩もほとんどなく、みっちり練習後、新人歓迎パーティー。ガーデンサラダ、タイ飯、おにぎり、サンドイッチ、ビール、ワイン、ジャスミンティーソーダなど。欧介みたいに乾杯をやたら急ぐ人あり。町子が最初に料理に箸をつけた。好物の唐揚を食べ、すっかり団に溶け込んで友達づきあいしてる。TGWさんも好きだよ、YMGさんはみんなのために片づけをしていい人だね、TRYさんは面白いね、などと言う。ワイングラスを持ったOREお姉様から、”旅愁”の意味を教わる。こういうのが最高の環境だと思う。神童や神童もどきのひしめくプリカレッジで、子供ばかりとつきあってるより、色々な大人と話したり、一緒に歌ったりするほうが、どんだけ楽しく人生が豊かになるか、とつくづく思った。とっぷり暮れた窓にクライスラービルが銀色に光ってた。

欧介も参加できればよかったが、仕事が忙しかった。棒茄子が口座に振り込まれた。振り込まれるまで油断ならなかった。私が思った額より多かったので、聞いて緊張した。ぱーっと使ってはならぬ。分不相応そうなアパートに引っ越すので、月々家賃が赤字になってゆくであろうことは目に見えているから。電話をきってから、ポール・ドゥ・ブラした。
*バレエ豆知識 ポール・ドゥ・ブラ:腕の運び。バランシンの弦楽セレナーデ(チャイコフスキー)冒頭では、全員そろってポール・ドゥ・ブラする。



















