【掲載日:平成22年1月21日】
やすみしし わご大君は み吉野の 秋津の小野の 野の上には・・・
神亀元年〔724〕春三月
聖武の帝が 立たれ 初めての行幸
吉野 秋津野の狩である
赤人は 宮廷歌人の一角に その座を占めていた
柿本人麻呂
宮廷歌人としてのその名
雲突く峯の如くに 聳えている
〔ほとばしる魂が
人麻呂殿の歌には 溢れている
景が眼前に迫りくる 対句の勢い
重厚さ 神々しさ
人麻呂殿が 名を成した 寿ぎ長歌の数々
陶酔の長歌を受け 反歌締めの 見事さ〕
後を踏襲は自分だと 赤人は 自負していた
〔少しでも 近づかねば ならぬ
切磋琢磨が 求められよう
目指すは 第一人者
それには 更なる 謙りが・・・〕
帝のお召 赤人は詠う
やすみしし わご大君は み吉野の 秋津の小野の
野の上には 跡見すゑ置きて み山には 射目立て渡し
《天皇は 吉野秋津の 野に出られ 足跡追人を 野に置いて 待ち伏せ弓を 山に置き》
朝猟に 鹿猪履み越し 夕狩に 鳥踏み立て 馬並めて 御猟そ立たす 春の茂野に
《朝は獣を 追いたてて 夕べは鳥を 飛び立たせ 狩りをなされる 春の野原で》
―山部赤人―〔巻六・九二六〕
あしひきの 山にも野にも 御猟人 得物矢手挟み 散動きたり見ゆ
《山や野に 弓矢を持った 狩り人が あちこち居って 働いとるぞ》
―山部赤人―〔巻六・九二七〕
居並ぶ官人 歌人の仲間から
称賛の言葉が 溢れ出る
帝も 満足の様子
ほっとする赤人の胸に 影がさす
〔わしの歌は 形だけの真似に過ぎない
人麻呂殿のは 身も心も 歌そのもの〕
〔それに 人麻呂殿が詠った後
座は静まり ややあっての称賛嵐と聞く
しかるに いまは 形通りの賛辞があり
やがて 座は 雑語の場と変わる〕
〔人麻呂殿を 高嶺とすれば
わしはまだ 麓を歩くにすぎない〕
そこには 自負しつつも
自らの才を良しとしない 赤人がいた
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