gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ペイン様の悩み多き日々 第38話

2016-10-16 15:21:57 | 日記



2000年8月15日


「久しぶり!珍しいね、ここに来るの」
MJは職場近くの“日だまり喫茶タケちゃん”を、たいそう気に入っている。
常連ということをもっと早く教えてほしかったものだ。すぐに会うことができたかもしれない。タケからきいて、待ち伏せをしていた。

カウンターに座る久納が振り向くと、左頬にガーゼを貼っているので
「どうしたの?それ?」
「あー、ちょっと…」
「もしかして転んだの?顔から地面つくって、典型的な現代っ子じゃ~ん。手つけないのぉ?」
と、からかうMJ。
スナックのトイレで起きたことは、久納も三上も口外していないので、知っているのは、たまたま居合わせたコウだけ。

「…何?もしかしてワケアリ?」
久納はその質問には答えなかった。かわりに質問で返した。
「“ホントは何がほしいの?”っていうチェリーキスの歌詞ってあるじゃないですか?あれもしかしてオレのことですか?」
「………」
「違う?」
「さあ、どうかな?」
MJはよそ見してコーヒーをすすった。しかし口角が上がっていた。

「“欲張りすぎよ”っていう歌詞もありましたよね。
オレも欲張りで…。でも、欲張れば欲張るほど、壁にぶつかるんですよ。それって、本当に大切なものはなんなのか、確認するために必要なことだったんです」
「なに?本当に大切なもの?」
「…オレにとって大切なのは音楽です。そして、そこへ導いてくれたみんな…あとは」
「あとは?」
「あなたが傍にいてくれたらと思ってます」
「………」

聞こえてない振りをしながら、ちゃっかり聞いてるカウンター越しのタケは、心の中で拍手を送った。

「それ…“欲張り”ですか?」
「………」
「オレ、ペドノンヌを脱退するんです」
「え!!」
「12月11日のライブで、区切りをつけるんです。これからは、シーンを裏から支えていきます」
「………
バカなこといわないで。そんな簡単に脱退なんて。あなたの後ろには何千何万人の人がいて、あなたを支えて、あなたを支えにしてるのよ。それがどういうことかわかってるの!?」
「わかってます。オレだって真剣に考えて答えを出しました。子供扱いしないで下さい」

MJはなんとも言えない落ち着かない表情で
「タケさん、ごちそうさま」
といって、大好きなコーヒーも飲みかけのまま、小銭を払って店を出た。久納も慌てて後を追う。

スタスタと早足のMJの横に、くっついて歩く。
「バッシングには形がないって、言ってましたよね。あれどういうことですか?MJさんも、そんなことがあったんですか?」
真っすぐ前を見たままMJは答えた。
「昔、刃物で切り付けられたの、私。
でも、事件から数年たって、加害者の人が幸せそうに子供を抱っこして散歩してるのを見たの。
あぁ…あのこと覚えてるのなんて私だけだ。世の中は流れてるんだ。私も早く忘れなきゃって思ったわ」
「でも忘れてない」
「忘れたわよ!!」
二人は立ち止まった。

「…あのときどうしてキスしたの?」
「………」
「事件のことは忘れられてないんでしょ?これ以上、オレに入り込むのが怖いから、そうやってイタズラばかりして、肝心な想いは伝えてくれない。違いますか?」
「想像でしょ、全部」
冷たく言い放って、また歩き始めたMJ。

その背に向かって
「オレは刃物なんて怖くなかった」
と叫ぶ。
そして頬のガーゼを剥がした。振り返ったMJは、傷を見て言葉を失う。
「何をするかわからないくらい腹がたったとき、あなたの歌がきこえてきて、こんなところで大事なもの失いたくないって思えたんです。
雪の中、放り出された日も、先の見えない不安な日も、いつもあなたの歌がそこにあってくれたんです。
今度はオレが支えになりたいって思ったらおかしいですか?」
「………」
「12月11日、あなたに来てほしい。そして、あなたに…」
「ムリだわ!……その日はもう…」
「…もしかして…リョージさんですか?」
MJは頷いた。
「やっぱりフラれてなかったってことですか?」
「……
わからないわ。ずっとお断りしてるけど…。
あなたの脱退ライブの日は、チェリーの解散ライブの日でもあるのよ。チェリーを見に来てくれるって。そのあと、待ってるからって…」
「…行くんでしょう?」
「………」
「納得できない!リョージさんてどういう人なの!?なんで!?どうしてリョージさんがついていながら、あなたがケガをしなくちゃならなかったの?
オレだったら、絶対あなたにケガなんてさせない!僕なら体を張って…僕は…
僕は死にましぇん!」
「パクるなよ!!


…私がリョージさんをかばったのよ。リョージさんだって、私が襲われてる状況で、立って見てたわけじゃないわよ?
あのときはもう…大乱闘だったのよ。よりにもよって、リョージさんの手を狙ってきたから、私がかばったの。
クレイジーでしょう?ギタリストから手を奪おうなんて…。でもその私の態度が余計ムカついたみたいで、私を狙ってきたの…。あんたはリョージのなんなのよって…
あなた、事件のこと、知ってたのね。
リョージさんだって平気ではないわよ…きっと」
目を伏せて、そして去って行った。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ペイン様の悩み多き日々 第37話 | トップ | ペイン様の悩み多き日々 第39話 »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。