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ペイン様の悩み多き日々 第29話

2016-10-16 15:01:44 | 日記



2000年2月20日

ようやく事務所の前にも人だかりはなくなり、嫌がらせの電話もやんだ。三人も、やっと自宅に帰れることになった。そこでまたショックを受けることになった。

ドアを開けた瞬間、家の中の惨状が目に飛び込んできた。ラックはなぎ倒され、楽譜は散乱し、物という物全てがひっくり返っていた。久納は力なくしゃがみこんだ。

杏雅がくれた、紙粘土のフォトフレームも割れていた。やり場のない憤りと悲しさに、また泣いた。

散らかった部屋を片付ける気力もなく、毛布に包まった。ときどきドアをノックする者が訪れたが、開ける気がせず、居留守を使った。
「いるんでしょー?テレビっ子倶楽部の者ですぅ。ちょ~っとインタビュー答えていただけませんかぁ?静さんのことぉ」

関わりたくないが、声は聞こえてきてしまうので、耳をふさいだ。
大好きな音楽ですら聴く気がしない。杏雅は歌って凌ぐといっていたが、彼女は自分より強いかもしれない。それだけが今久納にとって、唯一の慰めになった。


静との面会が初めて許された日のこと。
ドラマでよくあるような殺風景な面会室だった。元々無口な静は、一体何を話してくれるのだろうかと、そればかりに思いをめぐらせた。
側にいながら全く変化に気づかなかった自分に、腹が立った。

猫背の静が、看守に連れられて入ってきた。久納は椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった。
「静ちゃん!」
静は、申し訳なくて目を合わせられないといった様子。久納は、身を乗り出して
「静ちゃん、なんで?どうしてこんなことになったの?」
と早口に質問を浴びせた。静は黙っていた。久納も、少し焦り過ぎたと、気を取り直し、前のめりになっている姿勢を起こした。

「……オレ達、まだまだ新人のつもりだったけど、こんなに世間から騒がれるなんてな」
久納が呟くと、静は少しだけ表情が緩んだので、チャンスとばかりにいつものテンションで話してみた。
「なんかワイドショーの人とかさ!ひっきりなしにくるもんな!」
だが、このコメントには顔が曇った。マスコミを騒がせて、メンバーにも迷惑をかけたのは自分のせいだと、静が誰よりもよくわかっている。その気持ちを察して
「ああ…ごめん…」
久納が謝った。

「次のツアーさ…」
静が、やっと重い口を開いたので、また前のめりになって、小さい声に耳を澄ませた」
「オレ、こんな風にならなくても、どっちみち無理だったんだ」
即座に久納は、静と対照的な大きな声で
「ムリ?ムリってなんで?」
と尋ねる。
静は答えない。

「静ちゃん、なんで?どっか体でも悪いの?」
この問いに、大きく首を振った。
「これまでも、ずっと考えてたことなんだ。ペドノンヌは、とんでもなく大きくなっている。ムリしてくっついてるヤツがいたら、足引っ張るだけだ」
「なんで…なんでそんなこというの!?」
「こうなる前に、相談していればよかった…ホント…ゴメン」
涙声で言って口を押さえる静。
看守が、二人を引き離すように連れて行った。
静の「足手まとい」という言葉が、悲しくて仕方なかった。
静のことを少しでも理解して、スッキリするつもりだったが、逆に肩を落として久納は家路についた。


家の手前まで来たときに、立ち止まった。見知らぬ青年が、久納の部屋の前に立っている。
またテレビ局の人間だろうか。面倒だが、突っ切るしかない。
足早に部屋の前まで行くと、青年が話し掛けてきた。

「あの!ペドノンヌのペインさんっすよね?」
目を合わせないようにして、ドアを開ける 。

「あ、ちょ…ちょっと!静さん抜けるんすよね?俺にギター弾かせてもらえませんか!?」
黙って中に入っていこうとするが、青年はドアを閉められないように足を入れてきた。うちひしがれている今の久納に対して、ある意味、一番無神経な発言だった。

よりにもよってこんなときに、ひどいジョークだと思った。
「うちのギターは、静ちゃん以外に有り得ない。悪いけど、帰って下さい」

青年を無理矢理外へ追い出し、ドアを閉めた。
「あ、ひどいなぁ。オレ、結構弾けるんすよー!?」
閉め出された青年は、ドアの向こうから大声を出している。近所迷惑だ。

「音だけでも聴いてもらいたいんすけどー!?」
ドアをドンドン叩く音。ここ数日、この音がするだけで虫ずが走る。
チャイムを鳴らして、青年はしつこく自己PRを言い続けているが、何を言っているのかは、聞き取れない。
また聞く気もない。しばらくすると、音は消えた。

いつのまにか、久納は真っ暗な世界にいた。
「ここ、どこ?」
あるのはただ、恐怖だけだった。ふと、自分の手を引く者がいることに気づく。ノッポな学生服の後ろ姿。静だ。

「静ちゃん!ねぇ、どこに行くの?なんだか怖いよ」
話し掛けても、静はひたすら腕を引いて歩くだけで、返事もしない。
「静ちゃん、ねぇ、どこ行くの?」

そのとき、パシャッという音とともに、視界に線光が走る。眩しくて手を翳す。すると、パシャパシャという音と線光が、久納の周りを取り囲み始めた。おそるおそる目を開けると、頭がカメラの形をした化け物が、久納を狙って、間髪あけずにひたすらシャッターを切っている。
「静ちゃん、何これ!?怖いよ!」
気づくと、さっきまで久納の手を引いていた静は、いつの間にかいなくなっていた。
「静ちゃん?どこ!?返事をしてよ!静ちゃん!」
そこで久納は、汗びっしょりになって悪夢から醒めた。玄関のチャイムを押す音が聞こえる。
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