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ペイン様の悩み多き日々 第35話

2016-10-16 15:19:06 | 日記



2000年6月17日

「ペインさーん!」
久しぶりに聞く明るい声、サチだった。そして、手には赤ちゃん。
「ビックリした!サッちゃんか!」
「久しぶりー!」
と、赤子の顔を、久納にぐいっと近づけて、おどけてみせた。
久納は、ごくごく自然な流れで、その子の抱っこを交代した。全く知らない人間の腕に移っても、赤ん坊には、なんの動揺も見られない。ぐーすか眠っている。ふてぶてしささえ、感じるくらいだ。

「この子…すごいね」
「よく寝るのよー、この子!」
「サッちゃん、このところ連絡とれないから、どうしてたかなって」
「あ、ごめーん!ずっと世界一周ハネムーンに行ってたんだ!」
「ええ!?世界一周!?お腹大きいのに?」
「うん、子供生まれたら、もうしばらく行けないなーって思って、思い切って行ってみました!
そしたら旅行中に生まれちゃった!キャッハッハッ」
「へ、へー…。はー…。ふぅん…」
「エジプトで生まれたから、名前は“アミーゴ”!女の子です!よろしくね!」
そういってサチは、赤ん坊の頬っぺたをツンと、つっついた。
赤ん坊は、ウザイと言わんばかりに、手で払うような仕種をした。

「…色々間違ってて、どこからツッコんでいいか、わからないよ…」
「キャハハハッ」
きっとこの赤子は、たくましく育つに違いない。今のうちに、好きなだけ眠ってくれと、腕の中のアミーゴに言葉なく告げた。

「ところでペインさん、いつからMJ先生と付き合ってたの?」
通路に響く大きな声でいうので
「シーッ!!静かに!それに付き合ってるわけじゃないし…」
「えー!付き合ってないの?先生と別れちゃったの??」
そうこうしていると、サチの背後の扉が開いた。
「私がどうしたって?」
出てきたのはMJだった。

久納は姿を見るなり赤面して、目も合わせられなかった。
「きゃー!先生!久しぶり!」
「サチー!元気してたー?今日、赤ちゃんは?」
「これ!」
といって、サチは久納からアミーゴを奪い取って、MJに見せる。乱暴な母親だ。

「うわー、サチに似てるー!」
「そうですかぁ?みんな、旦那に似てるって言いますよぉ」
「ちょっと、抱っこしていい?」
「どうぞー」
「うわー…。よく寝てる」
「ふふふ」

アミーゴを抱いている聖母のような顔したMJに、しばし見とれる久納。あんなことがあったというのに、久しぶりに会うMJは、まるで何事もなかったかのようなそぶり。

そこへ、チェリーのメンバーも楽屋から出てきた。
「あー、サチー!やだー!来てたのー?」
「おひさー!元気してたー!?」
「先生、私に赤ちゃん貸してー!」
一気に女子校のような、キャピキャピした空間に。自然と久納とMJは、チェリーの輪の外に追いやられる。

久納から、MJに声をかけた。
「お、お久しぶりです」
「うん、久しぶり。元気だった?」
「あ、はい。
今日はコメントと歌撮りです」
「シングルの売上が、上半期一位だったってきいたけど?」
「あ…はい。おかげさまで」
「順調にスターの道を進んでるってわけか。いよいよチェリーも負けちゃったしね。
すごいじゃん、あの日、居酒屋で宣言したこと、本当になったね」
「………いえ」
「?違うの?」
「オレには全く、その自覚はありません。一位になるとか、ホールツアー廻るって、すごくワクワクする目標だったけど…今度は、この地位を保っていかなきゃいけないし…。

今回の曲だって、売れましたけど、もっと完成度を上げることだってできたんです。でも、時間に限りがありますし…」

「なんだか、ぜいたくな悩みよね。
何があったって大丈夫よ、あなた達はアーティストだもん…」
MJは、久納の話を聞いているのかいないのか、魂の抜けたような元気のない目をしていた。

「え?」
「アイドルみたいに消費されないでしょ。それだけでも幸せだわ。
チェリーもね、もう今年が限界なの。年末に解散することを、もうすぐ発表するんだ。まだ他の人には内緒ね」
「え!!解散!?」
「寿命があるのよ。私はまた、新しいユニットの曲を書くことになると思う」
「…寂しいですね」
「え」
「だって、MJさん、ただの作曲家とかプロデューサーとしてじゃなくて、その…
本当のお姉さんみたいに、チェリーのこと可愛がってきてたじゃないですか。サチの相談にのってあげたり」
「……」
「…MJさんみたいなベテランでも、次から次へと望まない状況に飲まれていくんですね、この業界って」
「どの業界だって、変化はつきものでしょ。それを楽しめるかどうかじゃない。
……って思ってやってたな」
「やってた?」

「…ペドノンヌを見るまではね」
「ええっ?」
「まだ覚えてるんだ、私。初めてライブ見た日のこと。すっごくうらやましいと思ったの。
あなたが、まだ加入する前だったな。偶然知り合いから、学園祭で、フィナンシェのコピーをやる、面白いアマチュアバンドがいるってきいて、花大(花婿大学)に行ったんだ。
女の子達が、キャーキャーいってて、それだけで私まで興奮した。
10代の子ばっかりだったけど、私も混ざって頭ガンガン振っちゃって…。

演奏は今ほど上手くはなかったんだけど、三人が本当に心から楽しんでるのが伝わってきて、こっちも楽しくなったの。
あー、ここにいるみんなが、繋がってるなって…。

それ見てたら、なんか自分のやってることが、なんか違うって思えてきて。変化に流されてるだけじゃなくて、自分からも行動起こさなきゃって思ったの。
そこからソロ活動も始めて、色んな人とセッションしたり、声掛けたりしてきたけど、あの日のペドノンヌみたいに楽しいステージは、実現できたことがない。
そんな空間を作り出せる仲間って、なかなか出会えるもんじゃないのよ。あなたたちは、本当にラッキーだと思うわ」

「じゃあオレ達のことは、はじめから知ってたんですか?
花大の学園祭って、じゃあ、あのとき…」
久納がいいかけたとき
「ペドノンヌさんスタジオお願いしまーす!」
と声がかかった。
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