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ペイン様の悩み多き日々 第8話

2016-10-16 12:47:47 | 日記
波さんの給料は、はっきりいって安い。そのうえ拘束時間もそれなりに長い。それでも続けているのはやはり、この人も音楽に毒されているからだろう。

しかし、それだけではなく波さんにはひそかな楽しみがあった。
月に一度発行される『YOKOSHIMA新聞』だ。波さんが取材して、波さんが写真を撮り、波さんが編集する新聞だ。これがなにげに内容が濃く、バンドマン達のインタビューもあり、YOKOSHIMAで働くバイトの男の子による四コマ漫画もあり、他のライブハウスでも話題にあがるほどの存在になっている。

近所の練習スタジオにも置かれ、新聞仕立ては目につきやすいのか、スタジオに来るバンドマン達も月に一度、なんとなく目を通している。

ペドノンヌがYOKOSHIMAでライブするようになってから、新聞にも変化があった。とにかくキャラが立っているので、波さんが彼らを気に入ってからというもの、週刊誌風に様変わりしていった。毎日がスキャンダラスな遊と、気が短く奇行の目立つ久納は特に、波さん新聞のかっこうの餌食だった。

ペドノンヌの女性ファン達は、そんな記事を見て嫌がるかとおもいきや、逆に大喜びという意外な反応が返ってきた。
波さんも、これまで以上に新聞に対する情熱を燃やすようになり、バンドメンバー特集だけでなく、ファンの中からメッセージを集めたりと、ライブハウスの一スタッフの仕事を越えた精力的な活動もするようになっていた。

1999年4月29日
「波さん、こないだのあれ、やり過ぎですよ」
「おお、久納!今月も何か面白いネタたのむよ!」
もうプロのライター気取りだ。
「脚色しすぎなんですよぉ!なんですかこないだのプレイボーイブラザーズって。やめてくださいよ、ああいうの」
「いや~、あれは相当反響よかったよ。ああいう方が新聞早くはけてくんだよね~」
「もー!ボク女の子とまともに付き合ったこともないんですよ?あんなの見たら、みんなひいちゃいますよ!」
「えっ!久納ちゃんチェリ…」
すぐに久納が波さんの口をおさえたが、馬鹿でかい声で久納が1番言ってほしくない言葉を言おうとしていた。
「あ…そう。そうなの…」
波さんも力が抜けた様子だったが、突然目が輝き出し、
「じゃあ今まで間違った報道をしたお詫びも兼ねて、次回の新聞で、その真実を公表しよう!」
「やめて下さい!」

「その真実」 と言ったとき、波さんが下半身を指差してくるので、手をペチンと叩いてやった。いつも酔っ払いのようなテンションで話してくる波さん。しらふのテンションを見てみたいものだ。


「久納ちゃん、そういやさ、いつもペドノンヌのライブをステージの左から見てる子、気づいてる?」
「左?あー、なぜかヤマンバメイクのでっかい子?」
「それ右だよ。静のファンでしょ?いつも静様、静様、言ってるじゃん。そうじゃなくて、ステージの方に向かって左」
「んー?どうだったかな?いつも前列は同じような顔ぶれだなとは思いますけど。その子がなんなんすか?」
「まあさ、ファンだから当然っちゃ当然だけど、すっげー久納に対する思いが強いよ」
「へー、嬉しいっすね」
「あー、お前他のファンと一緒にしてんな?アンケートとかちゃんと読んでるか?俺も新聞作りで見せてもらったり、話したことあるけど、久納の見た目だけじゃなくて、演奏に関しても、どんな風に成長してるかってのを、事細かに見てるね」
「えー!アンケートですごい子いますけど、その子かな?でも、顔は知らないんすよ。顔わかったら意識しちゃいそうだなぁ」
「ハハ。明日のライブは、明のバースデー企画やらで、いつもみたいな打ち上げないだろ?お前と二人になる機会を狙ってるって言ってたぞ」
「ええ!マジッすか!?どんな子だろ?」
「ま、楽しみにしときな」


翌日のライブは、案の定、妙に意識してしまって、ただでさえ小柄な久納は、さらにこじんまりしていた。そんな変化に、おそらく噂の子は気づいているのだろう。

そして、この日は明の誕生日ということで、明ファンだけでなくペドノンヌのファンみんなが、明を祝福ムードで包んでいた。

ライブ後は、明の周りをプレゼントを持った女の子達が囲んでいた。
「おいくつになったんですか?」 というファンからの問いに
「10万23歳でしょ」と遊が代わりに答え、
「おい!年齢不詳で通してるんだからヒントになるようなこと言うなよ!」
と明がツッコみ、ライブハウス前はおおいに盛り上がっていた。

そんな中、久納は自分を狙っているという子はどこにいるのかと、クールにさりげなく探して…いるつもりが、実際はものっすごいキョロキョロしていた。

人だかりから一歩下がって、一人ポツンと立っている子がいた。バチッと目が合った瞬間ドキリとした。どちらかというと、おとなしい雰囲気のメガネの女の子。ハート型のバッグを両手で持ち、かなり内股なのが印象的。顔つきもまだ幼く、10代とみて間違いない。周りの音が一瞬で掻き消され、二人だけの世界になった。

何秒か二人は見つめ合った。無言のままライブハウスを離れ、自然と並んで歩き始めた。
「あの…いつもアンケートびっしり書いてくれてた子だよね?」
「え、は…はい」
「あ、やっぱり」
「覚えてて下さるなんて思いませんでした」
と恥ずかしそうに目を合わせないまま歩いていく。なんだかカワイイ子だなと思った。
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