gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ペイン様の悩み多き日々 第14話

2016-10-16 13:57:40 | 日記



1999年6月29日

「なに、そのポーズは」
モヒカン頭のマスターにたずねられる。ふてくされた久納は、カウンターに突っ伏している。アルバイトをしていたかすみは、急に神の声に従ってバングラデシュに旅立ったとかで、今はまたタケ一人で店を支えている。


「タケさーん、オレ、ダメなヤツだよね」
「ああ、全くだ」
「ちょっと!慰めてよ!」
「慰めろだあ?おめーが一人でケンカ売って、ラジオめちゃくちゃにしたんだろ?」
「ちょっと待って下さいよ!ラジオをきいてたでしょ?きんちゃんの言い方って、ホントに人の神経逆なでするような、ひっどい言い方なんすよ」
「あー、あの時間、店が結構忙しくてあんまし聞いてなかったんだよね。終わってから、人づてに話はきいたけど」
「ええー!なんすかそれ!オレたちのこと、応援してるんじゃなかったんすか?」
「してっけどさー!…おぅ!いらっしゃい!」
ベルを鳴らして一人の客が入ってきた。

「あー!噂の暴れん坊将軍!」
なんだその古い例えは…と振り返ると、MJと呼ばれたあの女性。白いスカートと白いカットソー、白のバッグ。

「あ!」
と驚くのもつかの間。ずけずけと久納の隣の席について
「ねねねね、ラジオきいてたよー」
と、馴れ馴れしく話しかけてきた。見た目は20代でも通用するのに、このへんの態度がアラフォーなのかと、苦笑いする久納。

そして、こないだ最後に見た不機嫌な顔はどこへいったのか。本当に女というのはよくわからない生き物だ。

「すっごかったよね、ね!マスター!」
「そうっすねー!」
と、調子のいいタケに
「タケさんはラジオきいてなかったでしょ!」
と一喝。

「いやー、ラジオって、きいててあんなにハラハラドキドキするもんなんだね~」
「…イヤミですか?」
「ちがうよー。あ、マスター、私とペイン様に“ひだまりセット”お願い!」
「あいよ!」
「ペイン様はやめて下さい!」
と小声で注意すると
「え?なんでー?だってペイン様じゃーん」
と、さっきより大きな声で言った。
誰かこの女をなんとかしてくれと叫びたい。

「今回の反響すごかったでしょー!?」
「ええ、そりゃもう、よくも悪くも。あんなのペイン様じゃないとか、最近調子にのってるとか、色々とありがたい言葉をいただきました」
と、不機嫌そうにカップを置く。

「えー、でも喜んでる人もいたでしょ?」
「んー…危険な男って感じでますます好きになりましたっていうのも、あるにはありました」
「よかったね!知名度もアップだし!」

タケが笑い出した。
「くくくっ。こいつね、電話で妹に、この恥さらし!って言われたんすよ。ぷっ」
ひだまりセットとやらを作りながら二人に茶々を入れた。
「タケさんは黙っててくださいよ!!」
「へー、妹いるんだ」
「しかも、こーんな小さい子にですよ?恥さらしなんて言葉、よく知ってましたよね」
「なにそれ笑えるー!!」
「笑いごとじゃないっ!!」
一人ムキになっている久納。ところが、
「はい、ひだまりセット二つー」
とカウンター越しにプリンが出てくると
「あ、プリン!」
と、すぐに機嫌を直した。そのあまりの単純さにMJは声をころして笑った。

「…なんですか?」
久納はまたバカにしてるなと、少し怒った。
「ううん。どうぞ、おあがりになって」
「…いただきます」
むくれた顔のまま、軽く頭を下げた。
「このあと、エスプレッソが出てくるのよね、マスター」
「そうそう。お前そんなにプリン好きなら、いつもこれ頼みゃーいいんだよ」
「ビンボーバンドマンに、毎日セットは無理っすよぉ。おお、これうまっ!」
おいしそうに食べる久納を微笑みながら見守っているMJ。
あれ…この二人ってどういう関係…タケは言いかけたが、なんとなく黙っていた。

「ペイン様さ、どういう方向目指してるの?」
「どういう?」
生クリームを口の周りにつけて聞き返す久納。
「目標とするアーティストとか、この世界に入って手に入れたいものとか」
「そりゃー、金持ちになって、でかいホールでライブやって、モテたいっす!」
「ハハハ!わかりやすーい」
「そりゃそうですよ。みんなそうでしょ?」
「うーん、でも、ペイン様は、たぶんそれだけじゃないでしょ?」
「…へ?なんで?」
「『安らぎの場所』だっけ?あの曲って、なんかこう…父性みたいなものを感じるの。お金持ちを目指すだけの人は、ああいう歌詞は書かないのよ」
「うおー!『安らぎ』知ってるんすか!?すっげー意外!だってあれアルバムにしか入ってないっすよ」
「聴いてみたの。全体的には遊君の作詞したロマンチックではかなげな曲が多い中、一曲だけ何か違うと思って。」
「そうなんすよー。まだバンド入って間もない頃、弾くだけじゃなくて、とにかく一曲歌詞書いてみろって言われて。
何を書けばいいのかさっぱりわかんなくて、すっげぇ悩みましたけど。
遊さんが、君にしか書けないものが絶対にあるはずだからって言ってくれて。迷ったあげく妹のこと書いたんです。」
「それで、あんなに優しい曲になったのねぇ」
「最初、遊さんに聴いてもらったときは、オレたちのテイストと違うって言われて…
でもそこがいいっていってくれたんすよ。ペドノンヌって、それまでは、タケさんの作ったふざけた歌詞が多かったんすけど」
「ふざけたとはなんだ!」
「『しりこだま』って、どう考えてもふざけてるじゃん。
で、オレが入ってから、遊さんもシリアスな詞をつけることにのめりこんでいったって」
「なるほどねー……」
「でも、ライブではやっぱり『安らぎ』とかより『しりこだま』の方が盛り上がっちゃうんだよなぁ、もう」
「カカカ、世の中ってのはそういうもんだ」
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ペイン様の悩み多き日々 第13話 | トップ | ペイン様の悩み多き日々 第15話 »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。