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ペイン様の悩み多き日々 第24話

2016-10-16 14:27:21 | 日記



1999年11月23日

約束の場所に、久納は現れなかった。メジャー契約後、初めてのアルバムリリースの宣伝を、事務所が派手にやってくれるというので、四人でそれを見に行こうという約束だった。

こまっしゃくれタワーの大きなパネルに四人のジャケット写真。
まるで自分とは思えないほどクールで美しい青年がそこにいて、三人は一瞬言葉を失った。

「うわ…これ…」
「すげー…」
「………」
そして嬉しさがこみあげてきた。
「マジカッケー!!」
「これはヤバイね」
静も何度も頷いている。
寝る間も惜しんで撮り直した苦労が報われる瞬間だった。
このあと四人は雑誌の取材があるので、そうのんびりもしていられない。
明が時計を見た。
「久納…何やってんだ?」
「昨日はオレ、帰ってないから、わからないな」
昨晩どこに泊まっていたのか、遊が少し照れていう。
「ああ、さようでございますか」
事務的に答えると携帯をめんどくさそうに取り出す明。
「っとに、アイツは困ったちゃんだな」
電話をかけたが、留守電になった。
「おい、なにやってんだー?タワーにオレ達の写真がでっっかく飾られてんぞー。もう時間ないから先行くからなー」
とメッセージを残して明は切った。

三人は取材場所へ向かう。歩道橋をおりていく際、一台の救急車が通り抜けた。久納は、その中にいた。

ここ最近の多忙なスケジュールのため、疲労とストレスがたまったのだろうか。
「入って二年は殺人的なスケジュールやから体調管理だけは、しっかりせなかんよ」
とリクにも言われていた。だが、最近体がふっくらしてきたことをファンに指摘され、食事を極端に減らしていた。

地下鉄の階段を駆け上がり、タワーが見えるか見えないかのところで、目の前が真っ白になった。体が脱力し、バタンと後ろ向きに倒れた。
幸いニットのキャップがクッションになり、頭は強く打っていない。

久納の記憶は、地下鉄の階段で止まっている。目を覚ました場所が、真っ白な天井で、何が何やらわからない。
だが、左手に何かあたたかいものが当たる。それが何かすぐに理解できたのは、やはり愛ゆえだろう。
「…杏ちゃん」
目を覚ました兄の声に、杏雅はすぐに反応した。
「にぃちゃん!」
そうして、胸の中に飛び込んできた。
「ははは、ビックリしたー。杏ちゃん、ずっとそばにいてくれたの?」
「うん」

二人の声をきいて、ナースがきた。
「久納さん、意識戻られましたね。ご気分は?」
「ええ、大丈…」
大丈夫といいたかったが、体を起こそうとした瞬間に頭がフラッとした。
「にーちゃん!」
目を閉じたまま
「大丈夫、大丈夫…。にーちゃんは大丈夫だぞ」
と言った。
入口から声をかけたナースも
「まだ休んでいて下さい」
とベッドの方へ飛んできた。

気分が悪い。これはマズイ状態だと自分でもわかってはいたが、このまま寝ているわけにはいかないという想いが強かった。

こうしている間にも、他の三人は…
三人はどうしているだろう?今日は雑誌の取材とツアーの打ち合わせ、アニメのタイアップの話し合い、それから、それから…
思い出せばキリがなく、体を起こしてはフラつき、また起こしてはフラつきを繰り返した。

そこへ両親が現れた。
「あららら、さくちゃん、起きたらダメよぉ」
「アイシュクリーム買ってきたぞ!アイシュクリーム!」
なんでこの二人は、いちいちつがいで行動するのだ。幼児一人に付き添いさせてアイシュクリームなど買いに行くとは…と、不満をいいたかったが、気分が悪くてそれどころじゃない。

「アイスは…いらない…」
というのが精一杯だった。
「いらんのか!?ほんじゃワシ食べちゃうぞ」
多分はじめから自分が食べる気だったんじゃないだろうか。

病室は個室ではなく、六人部屋だった。
「二人とも…ちょっと…静かに…」
と、頑張ってしゃべるのだが、腹から声が出せない。
「あ!?なんだって?」
耳の遠い父親のボリュームは、さらに大きくなるばかりだった。

「そうか!お前はプリンが好きだったな!母さん、プリンだプリン!」
「あ、プリンね!さくちゃん、ちょっと待っててね~」
二人はまたつがいで病室をでていき、騒々しさが、どんどん遠ざかっていった。

「…にーちゃん、一緒に寝てもいい?」
「うん、いいよ」
杏雅は、隣に座りなおす。靴を脱がせてやることくらいは、寝ていてもなんとかできた。
思えばここしばらく、こんなに杏雅と穏やかな時間を持てたことはなかった。

「杏ちゃん…色々ごめんな」
「いいよー」
杏雅は嬉しそうにくっついてきた。
そうか、これも自分にとって外せない、大切な時間なのだ。杏雅の温もりを感じながら、久納は眠りに落ちた。


目が覚めたときには隣に杏雅はおらず
「プリン食べて元気になって下さい」
という父母からのメモが残されていた。一字とばしに筆跡が違うことから、父と母がいちいち一本のペンを二人で使って交替で字を書いたことが推測できた。
「こんな短い文をわざわざ二人で…………



ウザッ」
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