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ペイン様の悩み多き日々 第11話

2016-10-16 13:54:24 | 日記
11


1999年5月30日

「久納ちゃん、よかったね」
電車で移動中、遊が微笑みかけてきた。今日は四人とも楽器は持っていない。
「波さんの新聞のことですか?あれホントに何もなかったんですよ」
「そうなの?ホントに?」
遊はなぜか残念そうな顔。早くこっちの世界へおいでといわんばかり。

あの夜は、まどかを送り届け、まどかの兄にぎゅうぎゅうにしぼられた。疲れきって家につくと、見慣れないボロボロの靴が玄関にあった。不審に思い、
「遊さん!?」
と部屋のドアを開けると、いつか、かすみの家で出会ったホームレスのおじちゃんと遊が仲良く布団の中に。髪が長いので一瞬、女性と見間違え
「こないだと違うお姉さ…おっさんかよっ!!」

連れ込んだ理由を問いただすと
「だって帰る所がないっていうから、シャワーだけでも貸してあげようと…」
という遊の言い訳。
「あのオッサンはいつもないの!今日に限った話じゃない!」
「久納ちゃん、愛は与えるものなのよ?」
「だからどーした!?あんたは相手を選ばんのか!!このケダモノ!!」
オッサンとなんらかの行為をもったかは、恐ろしくてきけなかった。こんな危険な男と、よく一緒に暮らしていると、自分でも感心する。

明は、あの日の話になるとブーブー文句を言う。二人に向かって不機嫌な目線を送っている明に気づき、早く話題を変えたいと思った。

「そ、それはそうとさ、ラジオって台本とかないんだね」
「そうみたいだねぇ、生のトークを楽しみましょうってことかな」
そう、いよいよこの日は、ペドノンヌのラジオ出演日。
いよいよ世間から認められてきた証が、ラジオ出演という形であらわれたことに、四人とも喜びを隠せない。移動で使う、都営ひだりまき線も、いつもとちがう風景に見える。

「きんちゃんのごきげんラジオかぁ。どんな人なんだろう、きんちゃんて」
「わざわざメジャーでもないオレ達を呼ぶってことは、V系出身とみた!」
「いやいや、V系できんちゃんて名前はどうよ?」
ガーッハッハッと、思わず大声で笑いころげた明と久納。高まるテンションを抑え切れない。もう少し静かにしようと、促す遊。

そこへ隣の車両から大男がぬっと現れた。
「誰じゃ、さっきからやかましいガキは」
「あ、すいませ…」
振り返ると、なんと居酒屋でもめた、あの大男ではないか。
「あー、お前!!」
と大男と久納は、互いに指を差し合った。

「チッ。お前らはどこに行ってもうるさいのぅ」
この人は一体どこの出身なのだろうか?なまりか、本人によるアレンジか、よくわからないイントネーションでしゃべる。

明は自分達に非があることを素直に認め、すみませんと頭を下げた。ふと、隣に目をやると、久納は踏ん反り返って仁王立ちしている。

慌てて、明は久納の頭を押さえ付けて、無理矢理下げさせた。
「どこへ行くんか知らんが、その調子じゃまだまだビッグなアーチストとは程遠いみたいじゃのう?」
またイヤミをいわれた。この瞬間、無理矢理下げさせられていた手を振り払って、久納が
「なにー!?」
と男に掴みかかろうとした。それをメンバー三人で止める。
「こんな大事な日に問題起こしてどうすんだよお前は」
と明は小声で注意し、大男に
「ほんとすいませんでした」
と、もう一度頭を下げた。三人で久納をはがいじめにし、大男のいる車両から逃げた。


放送局に着いてからも、久納はまだ、ぶーたれた顔をしている。サイコーの日になるはずが、またあの男の出現で嫌な思い出になるところだった。

スタジオの入っているビルに着くなり、メガネでヒョロッとしたアシスタントが
「ペドノンヌさんですか?どうぞ!七階です!」
と案内にきてくれた。
四人は声を揃えて
「よろしくお願いします」
と挨拶した。

エレベーターの中で
「ラジオとかって、よく出演されるんですか?」
とアシスタントさんは話しかけてきた。感じのよい若者だった。好調な滑り出し。
「いやぁ、とんでもない!はじめてっすよ」
と、人見知りしない明が答えた。
「バンドさんって、カッコイイっすよね~」
そうこうしているうちに、あっという間に七階についた。

扉が開く。エレベーターを降りてすぐ右手には、待ち合い場所と思われる解放された空間がある。ソファとローテーブル、窓際にピンクと水色のマスコットが一体ずつ置かれていた。
いかにも、その放送局内だけでもてはやされている、ゆるキャラといった風情。何か有名なキャラクターの一部をいじって作ったまがい物のようにも見える。

久納は思わずぷっと吹き出した。
「あれ、なんなんすか?」
「あ!あれですか?ごきげん君とごきげんちゃんです。きんちゃんさんがデザインされたんですよ」
アシスタントは感じよく答える。
「ぶはーはっはっ!!きんちゃん流石だぜ」
なぜか久納は、ごきげん君とごきげんちゃんがツボに入ったらしい。会ったこともないきんちゃんに、妙に親近感が沸いて来ている。

「ごめんなさいね、騒がしくて。見るもの全てが新鮮みたいで…」やんちゃ坊主を抱えた保護者のように、遊がアシスタントに謝った。

「ところで、打ち合わせとかって、ないんですか?」明が尋ねる。
「ごきげんラジオは打ち合わせないんすよ」
「そうなんですか」
「はい、きんちゃんさんは、その場の生の空気を大切にするんです。事前の顔合わせとかもないですけど、ゲストさんたちには好評なんですよ」

「へー、そうですか」
「はい、緊張…されてます?」
「うん、結構」
「ですよね」
「オレはそんなことないっすよ」
久納は一人見栄を張った。
「あんだよ、お前かわいくねーな」
明がつっかかる。
アシスタントは時計を見て
「あ、もう時間きますね。じゃあスタジオにご案内します」
「ああ、はい」
四人は急に真顔になった。
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