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ペイン様の悩み多き日々 第6話

2016-10-16 12:45:43 | 日記
1999年3月2日

約束の場所へ行くと、もうすでにみんな集まっていた。
「おー!久納、こっちこっち!」
「おー、みんな早えじゃん!」
誰よりも早く着きたかったのだが、ギリギリまで服やら髪型に迷って、2分ほど遅れていた。バイトでは、しょっちゅう遅刻するメンツも、こういうときは時間よりも早く集まっていた。

「早くねーよ、お前が遅いんだっつーの!」
舞もみんなとクスクス笑っている。少し恥ずかしかったが、楽しいスタートがきれた。

「ねぇねぇ、いきなりだけどさ、あたしアイス食べたいー!」
「いきなりかよ。だからムクムク太るんだよ」
「なんだとー!?」
マサとカナコが、いつものようにふざけている。

「でも、私も食べたくなっちゃったな、アイス」
と、舞。鶴の一言で、あっさりこの集団、アイス屋へ直行。

なにしろ十人もいるので、順番待ちも長引きそうだ。フードコートにある植木のレンガに久納は座り、第一陣が買い終えるのを待っていた。

すると、いち早くラムレーズンを持って舞が戻ってきた。
「久納君は何にする?もしかして甘いもの嫌いだった?」
「いやぁぜんぜん!」
隣に舞がきて、ふいに話し掛けられ、必要以上に高い声が出てしまった。
「なに食べようか迷って…」
「ここのはね、ラムレーズンがいっちばんオススメだよ!ちょっと味見してみる?」
そういって舞は自分のアイスを久納に差し出した。それは、さきほど舞も口をつけたものだった。そして、アイスを久納に渡すわけでもなく、舞が持ったまま「どうぞ」という。これではまるで食べさせあっこするカップルだ。舞は一体どういうつもりなのか?

そこへ男連中が戻ってきた。
「久納くーん、さくらんぼ味あったよ」
「チェリーがチェリー食べたら共食いだろー!」
といって大爆笑している。それは名前にかけているのか…それともよりにもよって舞の前で下ネタか!? ワタワタしていると、舞はクスクス笑っていた。またしても恥ずかしい思いをした。

「ねぇねぇ、イベントって一時半なんでしょ?ホントに見に行くの?」
とカナコ。
「そりゃそうだろ、生でチェリーキス見られるんだぞ?」
「うぁ~、エロい顔しちゃって」
「そんなこというんなら俺達だけで見に行くぞ」

「えー、私も見たい!」
とやりとりを見ていた舞が言った。
「チェリーって、口パクじゃないらしいよ。踊りながら歌うってすごくない?」
と、そこで久納が援護するように
「そうだよねー、みんなで見に行った方がいいよねー」
と必要以上に大きな声で言った。他の男性陣は、見え見えの点数かせぎをする久納に、ニヤニヤしている。
「じゃ、行こうか」
十人はイベント会場に進みはじめた。


すでに特設ステージの周りはもちろん、吹き抜けの二階三階からも、今やおそしと沢山の人が待ち構えていた。
「すごい人だね」
「ねー」
久納は背が低いので、人と人の頭の間から、ステージが見える場所を背伸びして探すのだが、ここ!というポジションが見つからない。ふと横に目をやると、舞も隣で全く同じ動作をしていた。思わず二人は、お互いを見てふいてしまった。見えやすいポジションを探しているうちに、他の仲間とははぐれてしまったらしい。

と、次の瞬間、オタク系の集団が後ろから押し寄せてきた。はぐれてしまいそうだったので、とっさに舞の手をがっしり掴んだ。舞はビックリして声も出ない様子だった。

オタク達の狙いはチェリーキスであるとはいえ、ミニスカートの舞のすぐ後ろにカメラ小僧達が立つことに違和感をおぼえ、両手で舞の肩をよせ、自分が背後に立つことにした。舞は正面を向いたまま「ありがとう…」 と言った。


「まもなく登場しますので、どうぞ押さずに、もう一歩ずつ下がってお待ち下さい」
と係の男が案内している。小太りの聞き覚えのある声…
「あ!お前!」
久納がとっさに大きな声を出したので、周りの数人がこちらを見た。

あの夜出会った、大男と白いジャケットの女と一緒にいた、三人組の一人だ。

向こうも久納に気づいたようで、
「あ!あんときの…」
といったが
「い、いま忙しいから!はい下がって~、もう一歩ずつ下がって下さい」
とすぐに自分の仕事に戻っていった。

なぜあいつがここに?あの人達、ミュージシャンではなかったのだろうか。では一体何者?舞が
「久納君、今の人と知り合いなの?すごいね」
と感心している。
「え、あ、いやぁ。ちょっとね…」
ひともんちゃくあった仲だとは、言わなかった。

「…久納君、あの、私ね…」
舞が何かいいかけた瞬間
「はーい!みなさんこんにちはー!!」
チェリーキスが登場した。集まった人たちからも、ワー!!という歓声があがる。舞が何を言おうとしたのか気になっているうちに、曲が始まってしまった。まさか妄想と同じ展開に?期待せずにはいられない。

生で見るチェリーキスは、みな一様に細くて折れそうだった。
「今日は来てくれてありがとうございまーす!」
「短い時間ですが、楽しんでいって下さいね」
と、歌い出しギリギリのところまでしゃべっている。だが次の瞬間、五人の息がピッタリそろった。たった一瞬でその場の空気を変えてしまう能力。アイドルとバンドでは土俵が違うと思っていたが、これがプロの姿なのだと思い知らされた。

ただ、声の質も変わったことに、久納は気づいていた。口パクではないというのは、ただの噂か?

スピーカーから聞こえるのはCDの声。しかし、呼吸の仕方でわかった。ここに集まってる人に生声なんてきこえるわけないのに、チェリーは確かに声を出して歌っている。きっとすごい教育を受けているに違いない。と、久納はひそかに思っていた。

かれんちゃんも、のんちゃんも、生で見ても確かにかわいいのだが、何かが違う気がした。それは今まさに、手の中にいる舞とすごくいい雰囲気だからなのだろうか?

ステージはあっという間に終わり、チェリーキス達は華々しくステージから去っていった。
「今日はどうもありがとうー!こまっしゃくれショッピングを楽しんで帰ってねー!」
そしてオタク達も散り散りになっていく。

仲間達からいつの間にかはぐれてしまった久納と舞。
「大丈夫だった?」
「うん。久納君のおかげで」
「みんな、どっか別の場所から見てたかな?」
「そうだね、さがさなきゃね」
だが、舞に動き出す様子はない。ひそかに「このまま二人でどこかへ消えてもいいかも」 と思っている久納の気持ちを感じとったのだろうか。さっきの言葉の続きが気になる。

が、沈黙がたえられず
「口パクだったね」
と無理矢理話題を作った。
「え!そうなの?」
「今日に限ってはね。音響の関係でやりたくてもムリだったんじゃないかなぁ。彼女たちは、きこえなくても頑張って声出してたよ」
などと、それっぽいことを言った。
「わ~、なんか本格的~」

そんなとき二人の元に現れたのは、仲間達
ではなく…

「かわいー彼女連れてるー!」
振り向くと、あの三人組の一人、MJと呼ばれていた白い服の女。
「こ、こんにちは」 と舞は軽く頭を下げた。
久納は
「彼女じゃ…」
まで大声
「…ないっすよ」
という時点では小声になっていた。舞に、この人をどう紹介すべきかわからず、ただただ女の目をじっと見た。目をそらしたら負けな気がした。

「どう?順調?野望に向かって」
「え、ええ、まあ」
「ねぇ、あなたは彼のステージ見た?」
と、舞の方に話し掛けた。久納のやや後ろから
「いえ、まだなんです。なんか自分ではたいしたことないとか言っちゃってて…」
とフォローするように舞が答えたが、その言葉にニコニコしていたMJの顔がくもった。

「ふーん」
まるで見下したようなふーん。
「なんですか?」
ときくと
「自分でたいしたことないって思っている音楽を、一体誰がききたがるのかしら?ガッカリね」
そう言ってプイッとその場を去ってしまった。

なんじゃありゃあ!?と叫びたかった。しかし、心をぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまったのを舞に気づかれたくない。
「なんか、意味わかんないね!なんだろうあの人」
と、舞に同意を求めたが、眉をハの字にして黙っている。MJにいわれっぱなしの久納は、ふがいなかった。

この、どうにもかっこがつかない状況で、やっとみんながやってきた。
「おい、どこにいたんだよ?」
「いつのまにかいなくなっちゃうんだからぁ」
「探してたんだよ~」

この後は、舞とも気まずくなってしまったので、話すことはなかった。



久納は帰り道、
「なんだよ…」
とつぶやく。今日あったことを遊にきいてもらおうと、早足になった。玄関をあけ、雑に靴を脱ぎ捨て、
「もー、ちょっときいて下さいよー!」
と遊の部屋のドアを乱暴にあける。

こともあろうに遊はまた女子連れ込みの図。今回は、二人とも肩から上だけ布団から出している。
「ん…あ、お帰り…」
遊の腕枕で眠っている女性は、美咲ちゃん……ではなかった!

「こないだと違うおねーさん!?ギャー!!」
色んな意味で衝撃を受けた久納は、部屋を飛び出してまた夜の町内を駆け回った。
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