gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ペイン様の悩み多き日々 第39話

2016-10-16 15:22:36 | 日記



2000年12月11日

一万三千人の大観衆が、ペイン様の最後のステージに駆け付けた。チケットは5分でThank you!Sold out。


アンコールのなりやまぬ中、四人は楽屋のソファで倒れていた。
すると「アンコール」の声が変化し始めていることに気づいた。どうも歌のようだ。客席全体に浸透するのに、さほど時間はかかっていない


♪ 手をつなごう
はなさないよ
キミの笑顔とその泣き顔
これからもずっと
僕のたからもの
くじけそうなとき
涙があふれて
何も見えなければ
この手のぬくもりを
思い出して ♪


「これ…『安らぎの場所』っすよね?」
コウが起き上がって会場の方を見て言った。
「そうだね。『安らぎ~』の大合唱だ」
「ハハハ。ほら、みんな呼んでるぞ!」
明が久納の肩をバンと叩いた。
『安らぎ~』は、ライブで演奏されることはあまりない曲だったので、みんなの記憶から、ほとんど忘れ去られていると、久納は思っていた。久納は、今まさに涙があふれて何も見えなかった。
「よーし!ダブルアンコールは『安らぎ』スタートでいくぞ!」
「よっしゃ!」
「いくぞ!」

明に手を引かれて、鼻水ズルズルの久納が、会場に現れた。一万三千人が、みな手を繋いで歌っている。ペドノンヌがステージに戻ると、ワーという声があがる。客電がついていたので、みんなの顔が、よく見えた。
「ペイン様ありがとうー!」
という声があちこちから聞こえる。自分を責める声が、たくさん聞こえるかもしれないと覚悟を決めていた久納は、涙が止まらなかった。
「頑張って」と書かれたウチワも見える。
前から数列目のところに、見覚えのある中年男性と、その息子らしき姿が。女性だらけの中に紛れているせいか、よく目立つ。
「神崎のおじさん…なんだ、バレてたのか」
久納は小さくおじさんに手を振った。
まどかの姿も見える。どういうわけか、膨れっ面の兄もご一緒だった。久納は、怖いので目を合わせないようにした。

そして、ずっとずっと気になっていた。最前列に、あのナース。いつもキャーキャー騒いでいる彼女しか知らないが、無表情で棒立ちし、久納を見ている。お得意のヤマンバメイクでもない。
久納はステージを降り、彼女の前まで行った。
「来てくれたんだね。ありがとう」
彼女は口をへの字にして頷く。
「静は必ずオレが更正させる。約束するよ」
と、小指を出した。すると、向こうは顔をくしゃくしゃにして、小指を出した。指切りをして、久納はまたステージによじ登る。


♪手をつなごう
キミがいるから
楽しいときも
嵐のような日も
歩んでこれた
はなれていたって 僕のたからもの
くじけそうなとき
涙があふれて
何も見えなければ


明と遊が、久納をはさむように肩を組んだ。ギターを抱えて、会場を見渡すコウの目は潤んでいた。

「この手のぬくもりを思い出して」
という歌詞を


♪今日の日を思い出して♪


とアレンジして遊が歌うと、客席からも再び歓声があがった。

久納はベースを手にとり、明はドラムへ走り、コウはピックを持ち直した。
久納は声にならない声で、会場に集まった皆に
「ありがとう」と呟いた。






ダブルアンコールも無事に終え、顔がかくれるほどたくさんの花を抱えて、狭い通路をヨチヨチ歩く久納。
ライブを支えたスタッフ達から
「お疲れ様」
「お疲れ様」
と声がかかる。
だが、花のボリュームがありすぎて、相手の顔はわからない。下から辛うじて見える靴や声で、誰か判断し、久納も
「どうもありがとう。お疲れ様」
と返す。
そんな中、目の前に、でんと立ち塞がる細い足が見えた。おつかれさまの一言もない。そして、ヒールのある白いブーティ。そんな靴履いてる人なんて、今日のスタッフでいただろうか?
「お疲れ様です」
と久納から声をかけたが、返事はない。どく様子もない。仕方ないので、花をよけて顔を確認する。

目が真っ赤に腫れ上がった久納の前には、同じく真っ赤な目をしたMJがいた。
「MJさん…リョージさんのところじゃ…」
「………」
「なんで?
なんで来てくれたんですか?」
「………
わかんないよ、そんなの…」
といって、MJは花ごと抱きついてきた。押し潰された勢いで、ちぎれた花びらが二人に降り注いだ。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ペイン様の悩み多き日々 第38話 | トップ | ペイン様の悩み多き日々 第40話 »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。