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ペイン様の悩み多き日々 第23話

2016-10-16 14:26:34 | 日記



1999年10月25日

街では案外バレやすいことがわかり、帽子とサングラスを着用し、出掛けてみる。

都内の、ちょっと大人の雰囲気漂う、バーとライブハウスが合体したような店。
客は、カップルやOL風の女性たち。チェリーキスの客層とはガラリと違う。
久納はできるだけ隅っこの一番後の場所を確保し、入口でもらったジンジャーエールをすすった。

キーボードにスポットライトがあたると拍手と歓声があがる。
ステージのサイドからMJが出てきた。バックの演奏者はおらず、一人で弾き語りをするようだ。

「こんばんは、皆さん。ようこそおいで下さいました。
今日もね、地・味・で・す・が、心のこもったステージをお届けできたらと思っております」
「地味」というところで会場から笑いがおこった。さっそく腰掛け、美しいピアノの音色が広がる。MJの歌声も、意外なほどよく通るキレイな声だった。なんでこの人、裏方メインで活動してるんだろう?と思うほどの実力だった。

サチのいうとおり、チェリーキスの弾けた楽曲とは対照的に、等身大の大人の女の歌といった感じだ。
恋人に裏切られた切ない歌、友人の結婚を祝いつつも焦りを感じる歌。そして、チェリーキスに絶対歌わせることはないであろう、生命の尊厳をテーマにした歌まで。
この人はこんなに底の深いアーティストだったのかと、感心していた。そして、どれも久納の感性を刺激するメロディーだった。

トークタイムになり
「みなさん、チェリーキスって知ってます?」
というMJからの問い掛けに、皆
「知ってるー!」
と半笑いで答える。
「あれ、実は私が曲かいてるんですよ」
今更何を、とばかりに場内全員が笑った。
「って、みんな知ってるか!」
どうやらライブの度にやるキメギャグのようだった。
「で、前回『ゼリーババロアプリン』っていう曲出したんですよ。まあまあ売れたんですけど。あれ、実はモデルになった人がいて…」
すると会場内の女性達から
「誰ー?」
と声がかかる。
「そのへんはシークレットで」
「えー」
「えーって。そういうリアクションは、サングラスかけたお昼のリーダーにやって下さい」
会場はまたみんな笑う。

お客達は、10秒に一度は笑っている。しゃべりに慣れているところからも、昨日今日ステージに立ち始めたわけではないとわかる。

「私の知ってる人で、今どき珍しいくらい元気な男の子がいて、同業者なんだけどね。すっごく優しい歌詞を書く人なのね。
その歌詞だけ見てると、根っからの平和主義者って感じなんだけど、話してみると意外に野心家で、面白い子が出てきたなーって。やっぱり、若い人から色んな刺激もらえるし、この仕事やめられないなーって思います」

そのときだった。カウンターでドリンクを持ってきたOL風の女性が、久納の足につまずいて転んだ。ドリンクはこぼれ、女性は「キャ」と小さく声をあげてへたりこんでしまった。
久納はしゃがんで
「すみません、大丈夫ですか?」
と声をかけた。
「大丈夫~、やだ恥ずかしい~」
と言って顔を上げた女性、久納と目が合った。
「え?ペドノンヌ!?」
サングラスをしているにもかかわらず、女性に気づかれた。
女性の声が大きかったので、周囲にいた人達も後ろを振り向いた。
何やら様子がおかしいことにMJも気づき
「あれ?後ろの方、大丈夫?」
と心配した。
「ペイン様きてるみたい」
「え!マジ?」
とザワザワし、ちょっとした騒ぎになってしまった。

MJと久納の目が合った。
「あら?最近話題のアーティストさんも来てくれてるの?」
久納はドキリとした。
「なーんてね!その子めっちゃくちゃ似てるけど、実はうちのスタッフなんですよぉ。ナハハ!仲間うちでいつも、ネタにされてるんだ。ごめんね」

「なんだそうなの?」
とみんな少しガッカリした様子。久納も、
「あれ?気づいてくれたんじゃないの?」
とガッカリした。

転んだ女性だけは、最後までチラチラと疑いの眼差しを向けていたが、その後は何事もなく、ライブは進行し、久納も落ち着いて見ることができた。


ライブが終わると、楽しそうにライブの感想を話し合っている集団が、どんどん散り散りになっていく。久納も、駅に向かう人の群の中にいた。
そんなとき、久納に声をかける若者がいた。スタッフジャンバーを着ていた。
「先程は大変失礼しました。MJから直接お詫びをいいたいとのことで」
そういって控室に案内されることになった。

白いワンピースのMJは、少し緊張した表情で
「来てくれてたんだね。ありがとうございます」
と頭を下げた。
「ごめんね、せっかく来てくれたのに騒ぎになったら嫌だろうと思って、うそついちゃった」
「ああ…、いいんです。ゆっくり見れて助かりました」
「あと、こないだのことも謝りたいの。ごめんなさい。あんなに怒るとは思ってなくて。
でも考えてみれば、ごく当然のことで…軽率でした」
と、もう一度頭を下げた。
「…違うんです」
「え」
「わかってるんです。MJさんは悪いことなんてしてない。実力でラジオ出演を勝ち取ったんだって、調子にのってたんです」
「そんなこと…」
「それより、今日のライブ、ホントによかったです」
「あ、ありがとう」
「チェリーの新曲も大好きだけど、今日のは今日ので、また全然違ってて。なんていうか、カテゴリーにはまらなくて、自由で、楽しかったです」
「誉め過ぎだよぉ。
事務所からは、ソロやってる暇があるなら、一曲でも多くチェリーの曲書けって怒られる始末だし」
「え!そんなこと言われるんですか?」
「そんなのよくあることよ。別に驚くことじゃないって。
チェリーはお金になるけど、こっちはならないから」
と苦笑いを浮かべた。

こうして話してみると、初めて会ったときと印象がずいぶん変わってきた。
「そうそう、サチにママになる決意させたのは、あなたなんでしょ?」
「え!オレは別に」
「チェリーのメンバーが、みんな言ってた。あのときから急にサチは、母の顔になったって。
私もひそかに相談受けてたんだけど、私自身子供いないし、何を言ってやればいいのか全然わかんなくて…
だから嬉しかったの。ありがとう」

「いや、ホントに特別なことしてないですから…」
事務所にも秘密にしていたことも、サチはMJには相談していた。チェリーとMJの密な関係がうかがえた。

「そうだ!今後のフィナンシェ、行くよね!?」
「え?」
「ツアーファイナルの日本公演!コピーやってたなら見に行くでしょ?」
MJの嬉しそうな顔が、やけにしゃくにさわるのだった。
「いえ、オレは多分行かないです」
「え、そうなの?」
そして、別に早くもないのに
「じゃあ、明日も早いんで、そろそろ失礼しますね」と急に切り出した。
「あ、そう。気をつけてね」
久納は楽屋をあとにした。せっかく楽しいムードだったのに、フィナンシェの下りから、絶対自分はムスッとしていたに違いない。
帰り道、久納は自分で自分をポカリと殴った。
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