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ペイン様の悩み多き日々 第3話

2016-10-16 12:41:19 | 日記
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その夜、いつものようにボロ小屋へ帰る。久納は自分の家をボロ小屋と呼んでいた。

もっと幼い頃は、女の子のような顔と名前、その上家が貧しいという理由でいじめられたこともあったが、それも遠い過去。今は、家のボロさがバレない遠い学校へ、片道二時間かけて、拾った自転車で通っている。

家が貧しい理由は、ギャンブルで借金を作ったとか、事業に失敗したとかではなくて、単純にお父さんが働くのがあんまし好きじゃないからである。


「ただいまー」
つるっぱげで、前歯が欠けた、ステテコの似合うガリガリのおっさんが久納の父。「おう、おかえり!ムフフ」何かふくみ笑いをしている。

「…?なんだよ?」
「いやいや、なんでもねーよ。なぁ母さん?」
「ねぇ、ウフフ」と、母もこれまたふくみ笑い。貧乏なくせになぜか腹の出た、頭ボッサボサの自称“元美人”が久納の母。

将来、この二人のどちらかに似るかと思うとぞっとするのである。


「なんだよキモいなぁ…。オレ先にシャワー浴びるから」
「おおっと、おいおい」
「なんだよ」
「笑ってるわけを知りたいじゃろ?」
「も~、話したいならはじめっから話せっつーの」

両親は仲睦まじく見つめ合ってから、「お前の大学の話じゃけどな」
「ああ、国立だったらなんとか行ってもいいんだろ?」
「あれ、諦めてくれ」
「はぁ~~~~!!?お前なに言っちゃってんだよ!?オレ、バイトしながら勉強してきたんだぞ?先生だって、この調子でいけば大丈夫だろうって」
「まぁ、それはそれ」
「それはそれ、ぢゃねーよ!!」
おかんも一緒になってクスクス笑っている。ずっとおかしな両親だとは思ってきたが、ここまでクレイジーだとは、改めて驚く。

「じゃあ、その理由をきかせろよ!その内容によっては、今回はオレもひかねーぞ!」
「じゃあ、母さんから」
「え?ヤダー」と、この期におよんでまだイチャイチャしているので「はーや゛ーくーしろ゛!!」ちゃぶ台をダンダン叩いた。

「実はね」
「おお」
「赤ちゃんができたの!キャー!言っちゃった!」
「はああぁ!!?」
二人はさらに大盛り上がり。予想だにしなかった理由に、久納は動きが止まる。

赤ん坊…オレの弟か妹か。え?オレの?オレがアニキ? まるで初めて子を授かった父親の心境になっていた。

こうして久納の大学行きの夢は絶たれた。しかし、悩んでいる間もない。お腹の子は確実にどんどん大きくなっていく。遊びでバンドマンをやる余裕はない。プロになる決意をしたのはこのとき。まだ楽器も触ったことがない時点で、久納の将来は決まった。


バンド加入が決定してから、少しでも多くの時間を練習とバイトに使えるようにと、久納はボーカル遊の家に居候させてもらうことになった。

遊の借りているマンションは、2LDK。物置になっていた部屋を、久納のために空けてくれた。しかし、都内でお金のないバンドマンがこの部屋を借りるのは容易なことではないだろう。一度そのことを遊に尋ねてみたが「ウフフ」と笑っているだけだったので、謎のスポンサーがいるという結論に留めた。

遊は、ミステリアスで得体のしれない所があるが、人のやることにとやかくいうタイプではないし、音楽のことも時間の許す限り丁寧に教えてくれるので、一緒に暮らすパートナーとしては最高だった。

多少、共同スペースを散らかしても、何の問題もないという風に、すべてさらっと流してくれる。ステージでの獣のようなシャウト以外は、穏やかで優しい青年だ。

だが、問題が一つあった。共同生活が始まってまだ日も浅い頃、バイトから帰った久納が「ただいま」とドアを開けると、玄関入ってすぐのところに、上半身のはだけたお姉さんと、それに覆いかぶさる遊がいた。

驚きのあまり、動くことができず、久納が固まっていると、「あ~……
美咲ちゃんです」 といつもと同じゆったりしたテンポで紹介された。美咲ちゃんは、床に倒れたまま「どうも」といった。久納も「ど、どうも」と返した。

二人は
「えーと。…よければ、ご一緒に」
と誘う
「お断りいたします!」と勢いよく扉を閉めてその場から逃げた。走り出した久納は、初体験が“三人ご一緒”なんて
「絶対に嫌だー!!!」
と叫びながら、そのまま町内を走り回った。

ボロアパートの二階から、タンクトップのマッチョが顔を出し、「うるせーぞガキ!!」といって投げてきた空き缶が頭に命中。これがバンドマン生活のスタートだった。
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