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ペイン様番外編 ーjokerー 第1話

2016-10-16 16:18:20 | 日記

2001年10月31日



「静ちゃんありがとね~、ホントに。
お見舞い来てもらって、すごい新曲も見せてもらった上に、お祝いまでもらっちゃった」
薄化粧に病院着のMJは、病室から出口に向かって隠れるようなポーズで、紙袋を片手で持ち上げて見せた。
妻の嬉しそうな表情に頷き、久納は夫婦を代表して、改めて静に礼を言った。

「静ちゃん、ありがと」
「いや・・・。MJさん、お大事にしてください」

シャイな性格は変わらないが、静は この頃 幾分か口数が増えたようだ。
顔色も すこぶるいい。
バンドに所属していた頃の彼は、髪の色も事務所からは黒と決められていたが、今は縛りがないため栗色に染めている。
かなり明るい印象に変わったのは、髪の色も大きく影響しているかもしれない。
元々、ゴツめのアクセサリーやスカルが大きく描かれたようなTシャツも好んでいたが、その手のファッションを思い切り楽しめるようになってきたのも、まだ最近のことである。
プライベートで身につける物まで事務所の管理下にあったからである。タトゥーも入れたがっているが、そこはまだ自粛している。


「ううん!ううん!ホントになんでもないのにね、ペイさんが大袈裟なのよ。
入院だなんて」

MJの方こそ大袈裟に首を振って見せる。
久納はバンドも脱退し、籍を入れたにも関わらず、その後も妻からはバンド時代の芸名で普段から呼ばれているらしい。
正式には「ペイン様」だが、生活を共にするうちに徐々に略され、現在の形に落ち着いたようだ。

「だって!俺がいない時に何かあったらどうするんだよ」

ちょっとした痴話喧嘩は毎日勃発する。
だが、妻とお腹の子を思っての発言だと十分に理解している静は、二人を穏やかな笑顔で見守っているだけで口を挟まない。

「ああ、なんかごめんね、静ちゃん」
「いや・・・」
夫婦は置き去りにした静に謝ったが、静は相変わらずニコニコ笑っているばかりである。

「じゃ、明日も同じ時間に来るから」
「それより練習!あと、ピンクの爪磨き よろしくね!」
「はいはい」
「静ちゃん、バイバイ」
「失礼します」






MJの個室をあとにすると、二人は院内の廊下を並んで歩き始めた。
病室の並ぶ反対側の中庭から、やわらかな日が射し込む。
長身の静は顔が影になるが、小柄な久納から静の顔を覗き込むと、少し眩しい。

「MJさんの言ってた練習って?」
「ああ、順ちゃん アイドル関係の知り合い多いからさ。バックの演奏で呼んでもらうんだよ」

妻MJの方も、周囲からは結婚前と変わらない名前で呼ばれている。しかし、それは夫以外である。
本名は順子という。従順の「順」と書いて順子。だからといって別に従順ではない。

「今お世話になってる現場でさ、今度 静ちゃんのことも紹介したいと思ってるんだけど?ギタリストとして」

「いや!俺はまだ・・・。
作詞の仕事だって、久納に紹介されて、やっと一人で呼ばれるようになってきたばっかりだし」

「そんなん気にするなって!何年の付き合いだと思ってんだよ~、みずくさい。
ホントに俺も嬉しいんだよ。静ちゃんが作詞家として評価されるようになってきたことが!」

久納は静の背中を叩いた。
久納夫妻にとって、静の成功は他人事ではない。
元々シャイな性格の静、自分を売り込むことも上手ではなかった。
その上 バンドを脱退した事情が事情だっただけに、静の才能をそのまま認めてくれそうな人がいると聞きつければ、久納はどこへでもすぐに飛んで行った。
過去には客席にベースを投げつけて大乱闘した久納が、人のために駆けずり回って頭を下げたのである。
MJは新婚という時期にも関わらず、静を優先されても それを見守り応援していた。
久納にとって、それほど大事な友人だと理解していたからだ。

「さっき順ちゃんも言ってただろ?紆余曲折あったからこその静ちゃん最高傑作だよ『僕に射す光』は!
順ちゃんも作詞歴は長いからね~。人の曲なんて滅多に褒めないからっ!」

久納も作詞作曲はしている。家での力関係が垣間見えるセリフだった。
MJの個室で何度も何度も見ていた譜面を、また取り出して満足そうに見る久納。
静は笑ったが、なおも謙遜するばかりだった。
しかし、新曲『僕に射す光』への自信は、相当にあるようだ。

「久納が付けてくれたメロディーだって、俺の期待してたイメージを上回ってるよ」

「マジで!!?それ嬉しい!!ホント??」

静は久納の目を見据えて頷いた。

「活動再開にあたって、景気良くドーン!と狼煙を上げるには持ってこいの曲だと思う」

「うんうん!」

「ただ・・・」

「ただ・・・?」

「曲に対して、俺たちのレベルが追いついてない。
ユニット名まで正式に名を打って業界に提示する大事な一曲目なわけじゃん。
俺たちは歌い手じゃないし、歌がショボイって理由で まともに聴いてもらえなかったら悔しいよな」

「じゃあ、相応しいボーカリストが現れるまで公にはしないってこと??
ユニット結成の一曲目はまた別の曲?」

「・・・そこが悩みどころ」

「そんなぁ。それはそれで、俺は悔しいよ」

「そう言ってくれるのは凄くありがたいけど。
じゃあ、これを歌える人間で思いつく人いる?」

「う~ん・・・・遊さん」

「ほら」

「ダメだダメだ!遊さんが俺たちの曲歌ったらペドノンヌなっちゃう!」



静は元ギタリスト。久納は元ベーシスト。
彼らは高校時代、プロを目指し、当時まだアマチュアだったペドノンヌというバンドに加入した。
二人同時に加入する裏には、加入と同時に元いたギタリストが偶然脱退したという背景がある。
そして、ベースボーカルを担当していた遊という男が、ボーカルのみに専念するという形で治まった。

スリーピースだった頃のペドノンヌは、勢いがすべてのバンドだった。
当時のギタリスト タケはモヒカン頭だったため、パンクバンドだと思われていた節もある。
しかし、久納や静という、繊細な感性と中性的な雰囲気を持つ二人が加わったことにより、迷いなくビジュアル系へ振り切ることができたのである。
大手レコード会社とメジャー契約を結ぶところまでバンドは成長し、殺人的なハードスケジュールをこなす中、静は大麻に手を出すほど精神的に追い詰められた。
傍にいながら変化に気づけなかった久納は、自責の念に駆られながらも、ひたすら前を向こうと必死になった。
我武者羅に走ったバンド活動の中で、表に出ることより、作曲や大切な人達との交流に重きを置きたいと悩んでいた久納。
そこへ現れたのが、目的のためには手段を選ばないギタリスト、コウだった。
強引なコウに翻弄されながらも、ペドノンヌへの並々ならぬ愛情と音楽業界への先見の目、自己プロデュース能力を兼ね備えた彼に、バンドを託す決意を固めたのである。


久納が正式に脱退したのは去年の12月。(※この物語は2001年が舞台になっています)
1万3000人に見送られて華々しく引退した。時を同じくして妻MJとの交際がスタート。
出会って二年半、こじれにこじれ すれ違った二人だが、歯車が噛み合ってしまえばゴールまでは一瞬。
新しい命を授かるまでにも、そう時間はかからなかった。
そして、そんな二人の傍らには常に音楽があった。
自分の体を気遣う夫に「それより練習」と口にするのも、彼女にとってはごく自然なことなのである。
まあ、爪磨きもそこそこ大事なようだが。。。


妻MJは、アイドルに曲提供することを本職としてる。
久納もMJも、パッと見は 学生カップルにも見えるほど若いが、MJは40に手が届く年齢。大事をとって仕事は休業中だ。




「そう。俺たちは遊さんほどのボーカリストにまだ出会えてないから。
どうしても遊さんが過るんだよ、一瞬。
いきなりペドノンヌに入れた俺たちってラッキーでもあるけど、ある意味十字架背負ってるところもあるよな」

「う~ん。だな~。歌唱力だけでも充分 他のバンド圧倒してたもんな。ステージの存在感ハンパない上に、ルックスも良くて、中身はスゲー寛容って。とんでもないカリスマと一緒にやってたんだな、俺たち。
新しい誰かを、遊さん基準で判断するのもツライよな」

困ったような顔で天を仰ぐ久納。
そして、少し言いにくそうに静に尋ねる。

「なぁ、静ちゃん・・・
今日のペドノンヌのファンクラブイベント、静ちゃんもやっぱ行かない?
行こうよ。」

静はかぶりを振る。

「ごめん・・・。変な意味じゃなくて、行けないんだ。
きちんと結果が出せたと胸が張れるようになってから会いたいんだ、みんなに。
わかって・・・もらえるか?」

「・・・。うん。分かってる。静ちゃんならそう言うと思ってた。
その気持ちは俺も大事にしたいと思うよ」

久納は、うつむいた。
だが今度は希望に満ちた表情で、顔を上げた。

「そうだ!今日のハロウィンイベントさ、静ちゃんファンの酒井さんが来るんだよ!」
「え、なんでそんなこと知ってるの?」
「酒井さん、順ちゃんの担当ナースやってくれてるんだ!今日はライブ観に行くから休みだけど」
「酒井さんて・・・確か、久納も世話になった人だよな?q」
「そうそう!入院中に脱走しようとしたら首根っこ掴まれてベッドに投げつけられて、
今度は窓から抜け出したら下で待ち伏せされて首根っこ掴まれてまたベッドに戻・・・ってどないやねん!!!」

静は無邪気に笑った。病院の廊下に笑い声が響き、ふと我に返って、慌てて自分で口を押さえた。
酒井の話になると、必ずこのくだりが会話の中に出てくる。
ただでさえ体が久納の一回り・・・いや、ふた回り・・・いやいやそれ以上に大きい酒井女史。それにも増して豪快すぎる性格を物語るエピソードである。
彼女はペドノンヌのファンというより、完全に静のファンだった。だから久納への扱いは雑。

「酒井さん、ペドノンヌのライブ来ても、もう静ちゃんには会えないじゃん。
でも静ちゃんの曲が生で聴けるのが幸せだから、今でも通ってくれてるんだってさ。ほんっとにありがたいよね!」
「そうだな・・・」


そして久納は思いついたことを、わざと大きな声で言った。
「早いとこさ!ユニットとして名の知れた存在になって、俺たちもライブやろうぜ!
俺たちのファンのためにも。
『僕に射す光』が大事な曲なのは確かだ。きっとボーカリストだって諦めなきゃ見つかるよ!」

静の目にも光が宿った。

「おう!間違いねぇ!」




ちなみにだが、服装が男らしくなってからの静は、街で女性ファンに捕まることはほとんどなくなった。
大人しい彼にとってそれはむしろ好都合であるが、機材について質問攻めにしてくるギターキッズや酒井女史だけは、相変わらず静を見かけると突進してくるという。
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