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ペイン様の悩み多き日々 第1話

2016-10-16 12:38:39 | 日記
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1998年6月10日

久納桜(男)がいじられるのはいつものことだった。四人の中でも背が低く、顔が幼いため、メンバーに加わった瞬間からいじられキャラだ。

「だいたいお前はさー、その髪からしてどうよ!?」といって、すっかり陽気にできあがっているリーダーの明は、ゲラゲラ笑っている。


実はガラスのハートの久納は
「そんなことないっすよぉ、そんなに変ですか?」
と明るく振る舞っていても内心傷付いていた。


遊は、そんな二人のやりとりを微笑んで見守りながら、楽しそうに飲んでいる。

静は前髪が長すぎて表情こそ見えないが、この雰囲気を楽しんでいるようだった。

「オレ、ちゃんと明さんに借りた雑誌見て研究したんすよ?遊さんのスプレーも借りて…」
ビジュアル系ロックバンドはヘアスタイルも命。それぞれが個性的な出で立ちで畳の上に寛いでいる様が、ミスマッチでなんともおかしい。


明が大爆笑するのは、久納のヘアがおかしいというより、久納のキャラがすでにそうなっているからだろう。


もちろん、いつもいつもふざけあっているわけではなく、スタジオの中では真剣勝負。意見の食いでピリピリすることも。

固定ファンは20人ほどではあるものの、着実に動員を増やしていた。

打ち上げの席では普段の緊張感を忘れ、四人が四人ともリラックスして、ときにはハメもはずす。


彼等は二階の一番奥の座敷で飲んでいた。すぐ隣のテーブルに、別の客がやってきた。いかついスーツの大男が一人、小柄な白いスーツの女性が一人、サングラスにスタジャンの小太りの男が一人。会社員といった雰囲気ではない。


それまで馬鹿騒ぎしていた明と久納も、一瞬静まったが、またすぐに騒ぎ始めた。

理由はないが、相撲をとりはじめた明と久納。静と遊は、自分のグラスだけは倒されないように確保した。

「オレ負けないっすよ!」「お前には負けねぇよ!」といって組み合う。隣のテーブルにもいくつか料理が運ばれてきた。あまり隣とも距離がないので、危険を感じた遊は「おい、ちょっと…」と声をかけたが、この二人は熱くなると止められない。自分達のテーブルの小皿もいくつか落としたが、お構いなしだった。


もう一度、遊が声をかけようとしたタイミングで、二人はバランスを崩し、なんと隣のテーブルの方へ倒れた。そのとき、女性が壁にかけた白いジャケットを久納は掴んでしまい、そのまま倒れてしまった。


ガシャーンというフロアに響き渡る大きな音をたてて、二人が崩れ落ちた後、しばし気まずい沈黙。

隣のテーブルに運ばれてきたばかりのワインやら酢豚やらが、明と久納と白いジャケットに漫画のように降り注いだ。気づけば久納など、倒れた場所がちょうど女性の膝であったため、ひざ枕状態に。


酔いが一気にさめ、気まずい雰囲気が漂う中、沈黙を破ったのは、がたいのいい大男。

「こらガキ!!なめとんのか!!」とっさに二人は正座した。が、顔に安全ピンのついた久納と、長い金髪のエクステをつけた明が正座をしたところで、反省をいまいち表現することができなかった。

女性の白いジャケットは、おかずにまみれてグチャグチャだった。「すみません!弁償します!」明が頭を下げた。見た目はやんちゃだが、中身は実は礼儀正しかった。


「バカか、このヤロ!お前なんかが弁償できるほど安い服じゃねぇんだよ」と、大男は明の胸倉をつかんだ。

男達を止めようと、持ち主の女性が口を開いたと同時に、久納がキレた。

「ちょっと!なんすかそれ?服のことは確かにうちらが悪いすけど、お前なんかが弁償できるほどって、その言い方どうなんすか?なに勝手に決めてんすか!?」と大男を小さな久納が下から睨みつけた。

「お…おい」と明が焦って止めようとするが、きかない。

「なんだとコラ?こっちはなぁ、お前らみたいに遊びで音楽やってんのと違うぞ」大男は、隅にギターが立てかけてあるのを見ていたようだ。

どうやら隣の三人組はミュージシャンか何かのようだ。お!プロかよ!と内心思ったが、ここで怯むのを見せたくない。「そ、それがおかしいっつってんすよ!オレら遊びじゃないし、そんな服何百着でも買えるくらいビッグになりますから、そんな言い方される覚えないっすよ!!」隣でうろたえている明、まばたきだけはせわしい。

そこで突然笑い出したのはジャケットの持ち主である女性だった。「アッハッハッハッ」

久納はさらに腹が立って、女性を睨んだ。…が、よく見るとものすごく可愛い。

大男への怒りで全く周りが見えていなかったが、ギョッとするほど久納の好みだった。しかし、口は「な、何がおかしいんすか!」と言っていた。

「ごめんごめん、もうさ、いいよ服なんてどうでも。ハハハ」 「でもMJさん、これ今日のために新調したやつだっておっしゃって…」大男は女性に対して低姿勢だった。女はどうみても日本人だがMJと呼ばれていた。

「いーのいーの。面白いじゃないボーヤ」 「ボーヤ?」 久納は心外だった。
「私、これでも音楽だけで食べてる人間なんだ。君たちの音は知らないけど、君の顔と今日の発言、覚えておくから、絶対私を脅かすくらいのアーティストになりなさいよ」女の目は真剣だった。この業界で生きてきた覚悟のようなものを感じた。

「や…やってやるよ!」とたんかをきった。それが精一杯だった。






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