まんだの読書日記

小説の感想メイン。た~まにビーズやペパクラも。
放置しっぱなしで申し訳ありませんでした。ただいま再開準備中です。

スズの兵隊(アンデルセン童話より)

2006-12-16 09:48:32 |   アンデルセン童話
◆"THE HARDY TIN SOLDIER" (英単語数 1,700)

▽ストーリー(結末まで記してあります)

ある男の子の家に一本脚のスズの兵隊の人形がありました。
兵隊は毎日、ティンセルのバラを身につけた踊り子の紙人形を眺めています。
片脚を挙げ自分と同じように一本の脚で身体を支えるその姿に心惹かれていたのです。

オモチャたちが人知れず動き回る真夜中。
しかし、兵隊と踊り子だけはいつもじっと一本の脚で立っているばかりで、互いに向き合うことすら叶わないのでした。

そんなある日、兵隊はあやまって窓から外に落ちてしまいます。
激しい雨で流され排水溝に流されてしまった兵隊。
数々の難関を潜り抜けていきながらも、水に溺れてとうとう死を覚悟したその時、大きな魚が来て彼を飲み込んでしまいました。

――暗い魚のお腹の中にいた兵隊のもとに光とともに降り注いだのは、聞き覚えのある男の子の声でした。
兵隊を飲み込んだ魚が市場で売られ、お腹の中の兵隊も一緒に偶然元いた家に戻ってきていたのです。
慌てて部屋を見回した兵隊は、変わらぬ姿で立つ踊り子と初めて向き合うことができました。

しかしその時、男の子の手によって兵隊は暖炉に投げ込まれてしまいます。
そこへ紙でできた踊り子の人形も偶然の風で飛ばされ、兵隊とともに炎に飲み込まれていきました。
あとに灰の中に残ったのは、小さなハート形のスズと、真っ黒に燃えたティンセルのバラだけです。


▽コメント

これも切ないお話ですね。
最後は一緒になれた二人でしたが、再会の場面であっさりハッピーエンドといかないところに、胸が締め付けられる思いがします。

このお話には“偶然”がたくさん出てきます。
偶然窓から落ち、偶然魚に飲み込まれ、特に理由も無く暖炉に放り込まれ…。
運命に翻弄されながらも、兵士としての誇りと踊り子への想いを失わない兵隊の姿が印象的な作品でした。

あと、擬人化的な表現はやはり巧みで面白いですね。
人形である兵隊が表情を変えられないのは当たり前のことなのだけれど、それを勇敢な兵士たるもの動じることなく表情も変えず…と表現したり、下水の門番のドブネズミが水に浮かぶワラや木片に向かって「ヤツ(兵隊)を捕まえろー!」なんて呼びかけたり。
上手いこというなあと、思わず感心してしまう表現がいっぱいです。

しかし、1本のスプーンから25体の兵隊の人形が作れるって、一体どんなスプーンなんでしょう?兵隊がものすごく小さいのかしら…。

ヒナギク(アンデルセン童話より)

2006-12-08 09:39:17 |   アンデルセン童話
◆"THE DAISY" (英単語数 1,500)

▽ストーリー(結末まで記してあります)

庭の芝生の隅でひっそりと咲いている小さなヒナギクの花がありました。
花壇に咲く花のように華やかではありませんでしたが、ヒバリのさえずりに耳を傾け太陽の光をいっぱいに浴びる、ヒナギクにはそれだけで幸せでした。

ところがある日、大好きなヒバリが少年たちに捕まり鳥かごに閉じ込められてしまったのです。
少年らはヒバリのためにと芝生を切り取って鳥かごに飾ったので、ヒナギクもヒバリの傍に行くことができました。
しかし、喋ることも手を差しのべることも叶わないヒナギクは、水も与えられずい弱っていくヒバリをただ見ていることしかできなかったのです。

「わずかばかりの芝草と、小さなヒナギクの花があるばかりに、私は広い外の世界を思い出してしまってつらい」
そんな恨み言を残し、ヒバリはとうとう衰弱して死んでしまいました。

少年たちによりヒバリは手厚く葬られました。
しかしヒナギクの花は芝生と一緒に打ち捨てられてしまい、誰もそこにヒバリの慰めになることを一心に願った花があったなどとは気付かないのです。


▽コメント

お久しぶりのアンデルセン童話です。
卒論準備に入ってからは原書&研究書の英語で大苦戦。
なかなか趣味で英語を読む気にはなれず、ずいぶん間があいてしまいました。

序盤は、可憐なヒナギクと花壇で気取るチューリップやシャクヤクの花たちの様子が対比するように描かれ、まるで人間の女の子たちのようで微笑ましくもあります。
しかし、チューリップの花が少女に切り取られてしまう、というギクリとする場面あたりから雰囲気は一変、ヒナギクの悲痛な思いが綴られていきます。

報われることのない思いに身を捧げる、という展開はオスカー・ワイルドの童話「ナイチンゲールと薔薇」にも似ていますね。
けれど、思いを遂げるため自ら行動できたワイルドのナイチンゲールに対して、このお話のヒナギクの花は、ヒバリを慰めてあげたくてもどうすることもできません。
それどころか、逆に自分の存在がヒバリを苦しめてしまっているのに、立ち去ることすら許されないとは。

救いの見えないお話に、何と言ってよいものやら…。
短いながら、久しぶりに読むには少し重い印象を受けるお話でした。

「館島」東川篤哉

2006-12-03 10:08:03 | 和書
◆『館島』 東川篤哉 / 東京創元社

▽あらすじ

瀬戸内海の小島に建つ、巨大な螺旋階段が中心を貫いた銀色に輝く六角形の館。
この奇妙な館を設計した主・十文字和臣がそこで謎の死を遂げて半年、
死の謎を追う妻により再び関係者が集められた時、相次いで殺人事件が発生する。
館に招かれた若手刑事・隆行と私立探偵・沙樹は協力して事件の捜査に乗り出します。


▽コメント

嵐で連絡が途絶えた島。奇才建築家の設計による六角形の館。
…とくれば思いつくのは綾辻行人の『十角館の殺人』ですね。
それだけでも期待が高まるってものです。

全力で道化に徹する隆行と、お酒に目が無いハードなお姉さん・沙希の即席コンビを中心として、全編を通してコミカルな調子で事件は描かれていきます。
清楚で可憐、でもちょっとイタいキャラの美少女を巡る三兄弟の争いや、瀬戸大橋建設の土地買収に関わる疑惑なんて重そうな内容も絡んできますが、深刻になりきる前に何かしらオトしてくれるので、気楽にサクサクっと楽しめます。

ただし、館のカラクリ自体はこのテのお話が好きな人にはやや単純すぎる気が…。
偶然に頼りすぎているのも気になりますし、事件の真相の方も正直どうでもいいような…。

いやいや、それでもやはりこういったスケールの大きな仕掛けは館モノのロマンです!
本当にこんな館があったら、と想像するだけでワクワクしてしまいますね。
最後は芸術家としての建築家の思いもちらりと明かされ、ちょっぴり素敵な気分にもさせてくれました。

文章のノリが独特なので、人によって好き嫌いがはっきり出るかもしれませんね。
この作者が初めての方は、少し読んでみて確認してから購入することをおすすめします。

「ダヤンとジタン」池田あきこ

2006-11-27 11:57:10 | 和書
◆『ダヤンとジタン ―わちふぃーるど物語2―』池田あきこ
  中公文庫・WachiField(わちふぃーるどオフィシャル・ウェブサイト)

▽あらすじ

不思議な国「わちふぃーるど」にもすっかり馴染んだ猫のダヤン。
ある日、友だちのジタンがふっといなくなってしまいました。
心配になったダヤンは、彼を捜す冒険の旅に出ます。

▽コメント

以前紹介した『ダヤン、わちふぃーるどへ』の続編です。

なんでもできて、なんでも知ってる、みんなの人気者・ジタン。
でもみんな、彼を頼りにしているけれど、彼自身のことはあまり知らない。
彼は、そんな謎めいた孤高の存在でした。

ジタンが大切だからこそ、不用意に踏み込んで傷つけたくないと、見守ることを選んだ森の仲間たちと、
ジタンが大切だからこそ、もっと彼のことが知りたいと、踏み込んでいく決意をしたダヤン。

どちらの愛が大きいなんて決められない。
どちらが正しいなんて言えない。
それでも、接し方は違っても、みんなジタンのことをとても大切に思っているのが伝わってきます。

弱みを見せ、頼ることの出来なかったジタンが最後に流した涙は、とても印象的でした。

「2005年のロケットボーイズ」五十嵐貴久

2006-11-19 23:33:17 | 和書
◆『2005年のロケットボーイズ』五十嵐貴久 / 双葉社

▽あらすじ

主人公カジシンこと梶屋信介は、不運に見舞われ渋々工業高校に入学した文系少年。
やる気も出ずすっかり腐っていた彼が、何故かキューブサット(小型人工衛星)コンテストに参加するハメに。
集まったのは落ちこぼれに引きこもり、オタクに不良にモウロクじじい…と見事なはみ出し者ばかり。
最初はバラバラだった彼らが、徐々にキューブサット作りに熱中していきます。


▽コメント

あらすじから、川端裕人さんの『夏のロケット』みたいなお話をイメージしていたのですが、この作品はもっとライトな感じ。
キューブサットに注目して読んだ方は、物足りなく感じるかもしれません。

笑って騒いでケンカして、キューブサット作りを通して青春する彼らを見守る気持ちですね。
上手くいかない時は彼らと一緒におろおろしたり、いよいよ発射という時には妙にドキドキしたり。
主人公が文系少年ということで技術的な話もほとんどなく、一気に読んでしまいました。

肝心なところでドジを踏むお調子者に、実は優しいコワもての不良少年、さばさばとアネゴ肌の紅一点…などなど、キャラクターもお約束。
すんなり受け入れられるので、気楽に楽しみたい時にオススメです!