建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

古い事務所やアパートにアスベストが残っているという問題

2017年05月23日 | 建築物の安全

建築弁護士の豆蔵です。

23(火)日経新聞で、
「国土交通省は最大8万2千棟のアパートや事務所でアスベスト(石綿)が使われているとする推計を取りまとめた。」
との記事があり、気になったので、少し調べてみました。

ネタ元は、国交省の社会資本整備審議会の建築分科会アスベスト対策部会(リンク)、5月17日開催分の配付資料と思われます。
日経が指摘したのは、
「延床面積1000㎡未満の小規模建築物については、使用実態の調査が進んでおらず、横浜市の行った調査から推計すると、最大で3万棟程度で対策がなされていないと思われる。」
という点です。

「全国約130万棟のうち、6万~8万2千棟で石綿が使用されており、2万3千~3万棟では除去などの対策が取られていない可能性がある」というのですから、遭遇する確率はやや低いですが、
日々暮らす住宅や事務所で使用されていれば、継続的かつ長期的にアスベストを吸い込んで、中皮腫などを発症する恐れもあります。

ちなみに、アスベストというのは、耐火被覆などで吹付で使用される場合と、サイディングや屋根材、床材、保温材などの建材に混入して使用される場合がありますが、
飛散の恐れがあるとして平成18年以降、使用を禁止し、増改築・大規模修繕の際の撤去が義務付けられているのは、主に吹付材です。
上記の「3万棟」などの数字も、対策が必要な吹付材を対象としています。

建物にアスベスト(石綿材料)が使用されているか否かは、建築年代からある程度、推測することが可能です。
(理科の実験でアルコールランプの下に敷くヤツが「石綿付金網」だったか否かで、年齢も推測できそうですけどね。)

昭和31年:石綿吹付の使用開始
  50年:石綿吹付の禁止(以降5%含有)
  55年:石綿含有ロックウール吹付・乾式工法の自主規制
平成元年:石綿含有ロックウール吹付・湿式工法の自主規制
  7年:石綿含有1%超のロックウール吹付の禁止(以降1%含有)
  18年:石綿含有0.1%超のロックウール吹付の禁止(以降0.1%含有)

 国交省の審議会の資料が分かりやすかったので、添付しておきます。

S造の耐火被覆が中心かと思いきや、意外と新しい年代まで、RC造でも吸音材・断熱材で相当量使われていたのですね。認識を改めました。
東京都のQ&Aも貼っておきます。→Q&A

なお、古い建物を解体する際には、飛散防止の対策が義務付けられていますが、地震による倒壊では飛散は止められません(阪神淡路の現場で遭遇しました)。
現場の方は良くご存じですね。
一般の方、短期間なので極度に心配する必要はないと思いますが、念のため注意してください。


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週末は神田祭です。

2017年05月11日 | 見たもの雑感

建築弁護士の豆蔵です。

御茶ノ水の聖橋から靖国通りの坂を下るこの場所に事務所を設えて、はや4ヶ月。
本年の仕事始めは、黒いサラリーマンの塊(10~20人くらいの集団)がいくつも、神田明神へ向かって坂を上っていく光景に衝撃を受けたところから、始まりました。
商売繁盛を願う地元企業の「仕事始め参拝」です。

桜が散って神田祭が近づくと、あちこちのお店やビル、マンションの軒先に、しめ縄が飾られるようになってきました。
お洒落なオフィスビルも、即席の御宮?がしつらえられています。
GW中のJAZZフェスの舞台を解体してると思ったら、今度は、こんなものを作ってしまいました。

神田初心者としては、古くは江戸幕府と庶民の年中行事であったという神田祭の全貌を把握すべく、公式ガイドブックなど購入してみたところ、
町内会から御神輿を出す「地元」と呼ぶべき範囲は、かなり広範囲であることが分かりました。

北は上野より手前まで、西は神保町までですが、
南は大手町、東は、日本橋の北側から人形町・水天宮まで広がっています。
まさに、下町の御商売の神様なのですね。

どうやら、土曜には、それらの地域を明神様の神輿、山車の豪華大行列が1日かけて回り、
日曜には、それらの各地域から神輿が出て、夕方までに明神様に集まるようです。
電柱にも、スケジュールの張り紙がしてありました。

一方、都心をめぐる大行列といえば、思い出されるのが、赤坂・日枝神社の山王祭です。
神田祭と同様、「祇園祭、大阪の天神祭と並んで、日本三大祭りの一つ」を自称するだけあって、神幸行列など華やかです(行列は2年毎だそうです)。
↑ 完全に神田祭とライバル関係にあることを物語っていますな。

こちらの守備範囲を神幸行列の巡幸路マップで確認すると、
赤坂を中心として、北は靖国神社、西が四谷、南が新橋、そして、東が丸の内、銀座から八丁堀、日本橋の南側まで。

神田祭が皇居の北東側に対して、山王祭は皇居の南側を守備範囲としており、
両者が接する地域では、大手町(神田)×丸の内(山王)、日本橋の北(神田)×南(山王)という住み分けになっていることが確認できました。
また、神田祭は庶民色満載(最近は、アキバやこち亀コラボも)ですが、山王祭は非常にお公家さん風な上品な感じ。

この辺の違い、とても面白いです。


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日弁連・四号建築物シンポジウム 改めて所感

2017年05月02日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。
GWで、事務所の周りも新緑あふれております。

さて、4月8日に行われた日弁連主催の四号建築物シンポジウム。
遅くなりましたが、日経アーキテクチャーHPが詳細に紹介してくれましたので(購読には会員登録が必要)、代表的な意見をおさらいし、豆蔵なりに私見をコメントしてみようと思います。

なお、「四号建築物」とは、建築基準法6条1項4号に該当する建築物で、その代表が木造2階建てです。
昨今は3階建てやS(鉄骨)造も増えているとはいえ、依然として、戸建て住宅の圧倒的多数は四号建築物に当たります。

主催する弁護士側(日弁連消費者問題対策委員会の弁護士)の提言は3つ。

① 構造の仕様規定を廃止し、構造設計者による構造計算を義務付けすべき
② 仮に仕様規定を残す場合、対象・内容を厳格化すべき
③ 建築確認における構造審査の省略は廃止すべき

対する建築側パネラーは、国交省(建築指導課長・石﨑和志氏)、構造設計者(金箱温春氏)、研究者(都市大教授・大橋好光氏)、行政(堺市・石黒一郎氏)。

①構造計算の義務付け

弁護士側の提案理由
・構造計算の義務化によって、全物件に構造設計者を関与させることが、欠陥住宅の防止になる。

これに対する建築側の反応
・仕様規定も、定形的な建物では有用である。→非定形建物は、②の適用の問題
・構造計算に頼ることの弊害(ブラックボックス化、重要なのは構造計画)。
・構造技術者の不足。廉価な設計料に対し、新たなコスト負担が問題。

(私見)
構造に関し大局的な視点を欠いた設計者が多いとの指摘もありましたが、同感です。
その点は計算の義務化では解決せず、むしろ小手先の対応による弊害も少なくないと思われます。

②仕様規定の厳格化

建築側からも、以下の指摘がありました。
・仕様規定の要求水準が低く、構造計算を採用するとかえって自由度が狭まるという逆転現象が生じている。構造計算を行うインセンティブがない。
・定形的な箱体を前提として経験的に発展した仕様規定が、吹抜けや不整形建物などの非定形特殊なケースにも用いられることで、弊害が生じている。 

(私見)
同感です。仮に、仕様規定の適用除外を設けるとして、その基準、判断のルール作りは、③の構造審査の省略廃止と併せて行う必要があるように思います。 

③審査の省略の廃止

多くの物件で、構造図が作成されず、構造躯体の実務を、資格を持たず責任も負わないプレカット業者が行っている。
というのは、全体の問題意識としてありました。
また、関西方面では、事実上、壁量計算などの仕様規定の図書を提出させているというお話も出ました。
もっとも、国は、制度変更については慎重です。性能表示・瑕疵保険の第三者チェック等の代替手段を優先する考えのようです。 

(私見)
急激な制度変更は、耐震偽装後の平成19年大改正の二の舞になりますので、慎重であることは理解します。
ただ、基準法の最低レベルすら守っていない物件が少なからずあることは、紛争実務から強く感じており、審査省略廃止の議論は進めるべきだと思います。 

その他の意見として、以下をご紹介しておきます。

・建築基準法の基準のあり方
建築基準法は、熊本地震の一部地域で観測されたような大きな揺れには対応していない。
また、倒壊・崩壊しないことを目的とする強度であり、「地震後に軽微な補修で利用できる」ものではない、という点で、一般人のイメージ、要求とのギャップが生じている。
基準法の定める「最低限の水準」のレベルを上げるべきではないか。

・確認行政の在り方
確認等取扱い件数が減少し、現場での問題を審査にフィードバックする力が低下している。
そういう現状においても、行政が指定確認検査機関に対する監督権限をもっている。 

(議論全体についての私見)

「安全な住宅」という目的に対するアプローチとしては、
・基準法全体のレベルアップ
・(審査されないで確認を取得している)違反建築の防止
があり、それらは、切り離して考えるべきだと思います。
そして、急ぐべきは違反建築の防止だと思います。(併せて、既存不適格のボトムアップ=耐震改修も一層推進すべき) 

時代遅れ感が否めない「最低限」の基準法には批判もありますが、私有財産を直接規制する法律でもあることから、(役人が作る)政令・告示でやみくもに厳しくするということには否定的です。 

色々思うところはありますが、本日はこの辺で。


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