ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

パレード:行定勲が描いた「空気を読む」社会がもたらすもの

2010年12月05日 | 映画♪
行定勲監督の作品というのは、日本映画好きの僕としては意外なほど見ていない。「GO」くらいか。この映画の感想を一言で言うならば、「過剰に『空気を読む』社会を作り出しているものはこういうことか」ということ。僕らは一体何から逃げているのか、何を恐れているのか、エンディングが突きつける問題は決して他人事ではない。


【予告編】

映画「パレード」予告編/名古屋ナビ


【あらすじ】

「上辺だけの付き合い、それくらいが丁度いい」都内の2LDKマンションに暮らす男女四人の若者達。映画会社勤務の直輝、イラストレーターの未来、フリーターの琴美、大学生の良介。それぞれが不安や焦燥感を抱えながらも、“本当の自分”を装うことで優しく怠惰に続く共同生活。そこに男娼のサトルが加わり、同じ町では連続暴行事件が起こり始める。そして彼らの日常に、小さな波紋が拡がり始める…。(「goo?映画」より)


【レビュー】

映画会社勤務の伊原直輝(藤原竜也)、イラストレーターの相馬未来(香里奈)、フリーターの大河内琴美(貫地谷しほり)、大学生の杉本良介(小出恵介)ら4人は共同生活を営んでいる。ライフスタイルも生活時間も異なる4人だが、互いに「干渉」しすぎないことで居心地のいい空間を無意識に創っている。

そこに男娼の小窪サトル(林遣都)が転がり込み、それまで無意識に維持されていた関係に綻びがおとづれるのだが…

彼らの生活は楽しそうだ。男2人×女2人だからといって、そこに男女のもつれがあるわけでもなく、上下関係があるわけでもなく、互いが互いの生活を尊重しているし、(1人暮らしになるような)孤独に苛まれるわけでもない。しかしだからこそ、彼らはそれぞれ抱え込んでいるものもある。

良介は大学ではじめてできた友人が事故でなくなったという連絡を受ける。しかしその「悲しみ」をこの生活では共有できる者はいない。他の3人も気を遣って声はかけてくれるものの、誰も本心からそのことに同情や心配をしているわけではない。だからこそ、良介も何もなかったかのように振舞ってしまう。

「長いこと会ってなかったし…」

良介がその悲しみを曝すことができたのは、体の関係をもった貴和子だった。この部屋では「何か」が泣きたい自分を曝すことを拒ませるのだ。

未来もまた心に闇を抱えている。子供時代の父親(≒男性)に対する恐怖心、そうした恐怖心や「弱さ」を持っていながら、それを隠すために彼女はレイプされる少女たちのビデオを隠し持つ。そして少女たちの恐怖に慄く姿を見て、「心」を麻痺させることで、自身のポジションを築こうとする。。

酒に酔い、強がって見せながら、しかしそうした「弱さ」は部屋の仲間たちに見せることはない。

彼女が自身の弱さについて語ったのは、どこかでこの「共同生活」のメンバーを馬鹿にしているサトルに対してだ。彼は女性には興味がない男娼であり、また体に暴行を受けたあざを持っている。メンバーたちには見せることのできないのに、何故、この通りすがりの男娼に語ったのだろう。いや、何故、メンバーたちに語れなかったのだろう。

琴美は人気俳優・丸山友彦と付き合っている。もちろん公にできることではない。丸山の空いた時間にしか会うことができず、そのために何かをするわけでもなく一日中部屋で時間を過ごしている。待つだけの時間。琴美はそれでも満足しているかもしれない。しかしそこに何が残るのだろうか。彼女自身の「何か」は存在しているのだろうか。

琴美が一日中テレビの前で過ごしていたとしても、そのことを「おかしい」と口うるさく指摘する人間はいない。誰もが未来のない丸山との関係を、琴美自身の問題として受け止め、口出ししない。琴美にとってもそれは居心地のいい時間だったのだろう。しかし妊娠した時、初めて気付くのだ。この関係には未来がないのだと。

直樹はこの共同生活ではリーダー的な存在だ。着実に仕事をこなし、毎日のトレーニングも欠かさない。客観的にみればもっとも社会に適応している人間だろう。しかし何かがおかしいと感じている。自身の中に闇を抱え込んでいる。そしてその闇はやがて思いもよらぬ形で暴発する。

直樹の手をとって逃げるサトル。直樹はサトルに3人に話しをするのかと問いかける。

「みんな知ってんじゃないかな」

知っていながら誰もが口に出さない空間。そこが保障しているのは、誰も真剣に向き合わずその結果誰も傷つかない「ここちいい関係」、「なぁなぁの生活」、現実逃避した「甘え」が許される日常だ。

「結構、あの部屋、気に入ってるんだよね」

そう語るサトル。しかしそのことの異常さを直樹は知っている。その異常さから抜け出すかのように、雨の中、部屋へ駆け戻る。しかしそこで待っていたのは「沈黙」を強要する3人の視線だ。ソレ以上ハ何モ謂ウナ…

誰もがそれぞれの宇宙の中にいる。それらは決して交わることのない平行宇宙(マルチバース)だ。それを越えることは誰も望んでいない。結局、直樹が打ち破ろうとした世界は何1つ変わっていなかったのだ。

こうした世界観はこれが初めてというわけではない。森田義光監督の「間宮兄弟」の2人も自分たちの「傷つかない」世界に閉じこもっていた。ただ「間宮兄弟」ではその世界にとどまった明信と徹信に対し、依子と直美は旅立っていった。そしてその女性二人にこそ肯定感があったはずだ。

しかしすでに社会はそれさえも変えてしまったのかもしれない。

傷つかないこと。
詮索しないこと。
踏み込まないこと。
空気を読むこと。

果してこれがいいことなのかどうかはわからない。真剣に向き合うこと以上に「居心地のいい」虚構的世界が求められていることは確かなのだろう。


【評価】
総合:★★★★☆
小出恵介や貫地谷しほりらがいい雰囲気で:★★★★☆
もうちょっと直樹とサトルの深堀が…:★★★☆☆


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