ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

マッチポイント:ウディアレンがイギリスを舞台に描いた人の「罪」

2009年12月27日 | 映画♪
相変わらずのウディ・アレンらしいテーマ。「ウディ・アレンの重罪と軽罪」を彷彿させつつ、皮肉めいた笑いはなく、シリアスに人間のもつ「業」や「欲深さ」、「罪」について考えさせられる作品。もちろん主人公・クリス追った「罪」についてはもちろん、しかし、本当にウディアレンが描いたのは、「罪」の意識さえもたない人々の姿だったのではないか――思わずそんな風に感じてしまう。「アニー・ホール」や「ハンナとその姉妹」「ギター弾きの恋」とは一味違った秀作。

【予告編】

Match Point - Trailer (Ponto Final) - Woody Allen



【あらすじ】

アイルランド人のクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)は、英国の上流階級に憧れる野心家。高級テニス・クラブのコーチになり、金持ちの息子・トム(マシュー・グッド)と親しくなる。ある日トムに誘われてオペラに行くと、トムの妹・クロエ(エミリー・モーティマー)に気に入られる。やがて交際が始まり、クリスはクロエの父親の会社の社員になり二人は結婚、クリスの人生は前途洋々に見えた。しかしクリスはトムの恋人・ノラ(スカーレット・ヨハンソン)とも浮気を続けていた。ノラを愛しているが、クロエが与えてくれるリッチな生活も手放せない。自分の人生を完璧にするため、クリスは殺人を思いつく…。(「goo 映画」より)


【レビュー】

努力の崇高さをとうとうと説くヒューイット家の人々。それに対し全ては「運」で決まるのだと反論するクリス。このシーンがこの物語の全てを象徴しているのだろう。何不自由なく生活を謳歌している人々。努力やどうにもならないということの意味もしらずに、「運良く」恵まれた環境の中で育った上流階級の人々が「努力」の尊さを語り、貧しいアイルランド人として成り上がってきたクリスはそれだけではないと言う。

「努力も大事だが運を軽く見ちゃいけない」
「科学者によれば、この世の出来事は偶然によって決定する。目的も計画も必要ない。」

この物語ではクリスが上流階級のトムと出会い、クロエと結婚をし、ビジネス界の成功者として成り上がっていきつつも、同じように上流階級ではないノラにひかれ、「愛(愛欲)」と「富(リッチな生活)」との間で苦しむことになる。

ただその姿は「危険な情事」のような男の火遊び的な悲劇でもなければ、「失楽園」のような真実の愛的なスタンスでもない。

クロエとの生活はリッチだし、(ノラとは違う意味で)愛情もあっただろうが、同時にひたすら「子供」を欲しがるクロエの姿にはクリスのことを見ているようには思えない。それはノラを捨てたトムにしてもそうだ。彼らは彼ら自身の「欲しいもの」を手に入れたいと考えるだけで、果たしてクリスやノラのことを本当に見ていただろうか。あたかも洋服や何かのように、おねだりしていただけだ。

もちろんそこに悪気はない。彼らは上流階級として育ちり、それが当たり前なのだ。だからこそ彼らの姿にはガツガツした感じがない。

しかしクリスとノラは違う。クリスはノラと別れれば全てを失うし、ノラにとってはようやく見つけた一緒にいられる「恋人」であり「子供」なのだ。飽きたからといってポイと捨てるわけにはいかない。

「愛(愛欲)」と「生活」。そしてクリス悩んだ挙句、クロエとの生活をとる。

クリスはノラに言う。

「辛かったよ。でも引き金をひいた。君は何も知らずに死んだ。
 僕は罪の意識を隠して生きるしかない。そうしないと、罪に押し潰されてそうだ。」

そう、クリスは罪の意識を感じている。愛を裏切ったことに。ノラを捨てたことに。
ノラは罪をつぐなうようにと、クリスにいう。

「逮捕されて罰を受けるのが当然だ。少なくともそれが正義だ。ほんの僅かでも、罪をつぐなう意味があるなら。」

果たして世界は罪をつぐなう意味がある世界なのだろうか。罪のない人々が巻き添えの犠牲者となり、ノラのお腹の子は死にクロエの子は皆の愛情を一身に受ける。。トムはノラを傷つけたことに罪の意識を感じているだろうか。クロエはクリスの苦悩に理解を示しただろうか。

世界は、ただの偶然によって成り立っているだけなのか。

ラストシーン。トムはクロエの子供に声をかける。

「立派でなくても運が強ければいい。」


【評価】
全体:★★★★☆
ウディアレンらしさ:★★★☆☆
アメリカが舞台ならもっと下世話な上流階級だっただろう:★★★★★


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1 コメント

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Unknown (たろう)
2013-11-29 22:23:00
今日映画館で「マッチポイント」をみました。新作公開に合わせたウディアレン特集で、3週間にわたり彼の作品が公開されています。
たまたまあなたのレビューを読んで私はこの映画の良さを改めて感じることができました。

一番ラッキーだったのは、犯罪がばれなかったクリスではなく、生まれた頃から裕福で何不自由でなく育ってきた上流階級の人々。だからこそ、こんなに哀しい気持ちにさせられるんですね。

とにかく気づかせてくれてありがとう。

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