ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「アッパークラス」戦略と「高品質」配信

2005年09月25日 | コンテンツビジネス
大前研一さんの「ニュースの視点」の「「ロウアーミドル」クラス マーケットの現状」という記事で、総中流意識が強かった日本にも関わらず、既にミドルクラスというものが消滅してしまっていること、ロウアークラスとアッパークラスの二極化が進むなか、各企業はどのクラスに、どのようなアプローチをすべきかを考えていくことが必要になってきていることを指摘されていた。このこととは直接関係はないのだけれど、同じような戦略が求められているものに「音楽配信」事業があると思う。iTMSの日本進出、その一方で「CD離れ」が叫ばれている中、これから音楽配信事業が盛り上がるという時期なのだが、iPodなどのハードはファッションとしても流行し始めているのに、音楽配信そのものはもう1つ盛り上がりにかけている。

 「ロウアーミドル」クラス マーケットの現状(前編)
 「ロウアーミドル」クラス マーケットの現状(後編)

そもそもiTMSがこれだけの勢力をとった1つの理由として、1曲99セントという低価格によってP2Pユーザーの取り込みがあったと言われている。この乗換えがどれだけあったか不明なのだけれど、音楽配信ビジネスの性質をあらわしていると思う。PCによる「音楽」の普及は、P2Pという違法・無料でのコンテンツ流通がきっかけとなっている。また日本では「レンタルCD」が普及しており、150円〜350円くらいでアルバム一枚を自分のPCにCOPYすることが可能だ(アルバムに10曲入っているとすれば1曲あたり35円となる)。

そう考えると、日本での1曲150円という価格設定は、ユーザーからすると必ずしも安いという感覚はない。P2Pなら無料だし、TSUTAYAなら2曲分でアルバムが手に入るという感じだ。音楽業界の人間からすると1曲150円という価格も決して安いわけではないだろうが、結果として、音楽配信ビジネスはデフレ圧力が強い産業となってしまっている。

しかしこれらの前提は、「品質」にこだわらない楽曲であることだ。

例えば、サントリーホールでのコンサートには2、3万円の演奏会費用を払い、かつ地方から交通費を払ってまでも訪れる人たちがある。こうした人々は1回限りのいい音楽を聴くという「体験」のために数万の費用を払う層だ。そしてこれらに続く層として、数十万のアンプやスピーカーを用意してCDやレコードにて「名盤」の演奏を楽しむ人々がいる。彼らは「高品質」の音楽、「高再現性」の音楽を体験するために高い費用を払う人々だ。

これらはまさしく「ロウアークラス」と「アッパークラス」に対しての商品戦略と当てはまるのではないか。しかし現状の「音楽配信」ビジネスを考える時、その多くが「低価格」路線にあることは間違いがない。

もちろん「e-onkyo」のように一部には高品質配信を目指すモデルもあるにはあるが、1)まだまだ商品数が少ないし、2)では実際どのように機器を用意すれば、それだけの高品質の音楽を楽しむことができるのかということが分からない。また3)ONKYOの想定しているような「200〜300円でいい音を…」といった中途半端な商品にそれだけの需要があるのかといった問題がある。

本当に高品質の音楽を求めているユーザー・高再現性を求めるaudioマニアというものに対して、上記、3点をどう刷りあわせていくのか。そこにこそ「高品質」配信の成否はあるのではないか。少なくともそれは、e-onkyoの想定しているようなglobeユーザーではないだろう。

 【ガイド】HD高品質音楽配信の楽しみ方!

以前、オノセイゲンさんのスタジオで5.1ch・SACDクラスにサンプリングされた「音」を聞いたことがある。これはまさに「絶品」としかいいようのないくらい見事な「音質」と「再現性」を持っていた。それは確かに全ての人々が求めるものではないかもしれないが、1曲150円などではなくともお金を払う、1交響曲数千円といった価格を払うだけの「価値」ある品質であった。この品質の「差」こそが「アッパークラス」戦略と合致するものなのだ。

 ゾクゾクする「音」空間

2)の問題に対処する意味で「Any Music」のようなサービスも始まってはいるものの、そもそもミニコンポへの需要が減っている今、PCと連動しなかったり、audioマニアが納得するような機器ではないこのような規格に未来があるとは思えない。むしろDVDの普及もありホームシアターとの接続をどのようにするかを明確に示す方がいいのだろう。

これら「高品質」配信というのは、いい音楽を聴くための新しい聞き方・文化を創っていくくらいの意気込みで行わなければならないのだろう。




キーワード
ホームシアター ミニコンポ サントリーホール
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3 コメント

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航空の場合 (谷村 正剛)
2005-09-29 09:21:52
先週、太平洋を横断してきたんで。「価格vs品質」という意味では、航空のクラス(ファースト、ビジネス、エコノミー)なんかも似たようなものかも知れません。10年前だったら、C以上のクラスは普通運賃で乗るものだったのに、今やFでもPEX運賃を設定してるところまで出る始末。



ただ、一つ面白いのは、差別化の基準が(機内サービスに限れば)座席と機内食にいつの間にか絞られてしまったこと。インフライトエンターテイメントなんか、クラスに関係なく統一されてしまいましたし。そんなわけで、私はどんなに長い国際線でもインフライトエンターテイメントを使わなくなってしまいました。好きな本が2-3冊あれば数時間は平気です。たいていは英語のfairy taleなんで、外国人の客室乗務員がいると話のネタにもなるし。

購買行動の違い (谷村 正剛)
2005-10-02 15:10:59
ふと気になったのですが、iTMSで買った楽曲をiPodで聞くのと、サントリーホールや紀尾井町ホールでいいお値段のチケットを買って楽曲を聞くことの違いって、本当に「品質」だけなんでしょうか? iTMSぐらいに楽曲の単価が下がると、「実際に聞くかどうかはわからないけど、とりあえず買っとこう」という動きも出てくるのではありませんか? これは、サントリーホールなどのチケットの価格では、まず不可能なことです。数千円から数万円のチケットを買ってすっぽかすのでは、お金をドブに捨てるのと同じですからね。逆に、あり余る数の楽曲をiPodに入れているという例は、丸山茂雄さんのインタビューにも出てきていました。



で、楽曲を売る側から見ると、「とりあえず買っとこう」といって売れる曲は非常においしいのではないでしょうか? 本気で聴く曲の数は時間的な制約で縛られてしまいますが、「とりあえず」買っておく曲についてはそのような縛りがないのですから。うまくやれば、CDのように「無駄遣いしている」という感覚を麻痺させてしまうこともできるでしょう。こればかりは、サントリーホールのチケットを100円で売っても実現できないはずです。きちんと予定を立てて、会場に出向かなければ聴けないのですから、「とりあえず」チケットを買っておいて気軽に聴くことはできません。



日本のレーベルの事情は分かりませんが、もしかしたら欧米のレーベルはP2P裁判を進めていくうちにこれに気づいたのかも知れません。ヒントになったのは、P2P上での楽曲の流通形態でしょう。P2Pはもともとファイル交換として始まったため、楽曲を聴きたい時にあわてて楽曲ファイルを受信するのではなく、事前に受信しておく方が一般的だったというのは想像に難くありません。とならば、レーベルが商売として楽曲配信をする場合でも、とにかくリスナーに楽曲の「ため込み」をさせればよいわけです。購買行動は「ため込み」の前に来るわけですから、ため込ませればレーベルも儲かります。そこに、上述の時間制約破りが入れば、鬼に金棒です。



こうなると、逆に関心離散などでリスナーが「無駄な楽曲は買わない」と態度を翻すと、ビジネスが急にポシャる恐れもあるんですが... そんな日は来るんでしょうかねぇ?

iTMSの終わりの始まり (beer)
2005-10-06 01:40:55
谷村さんどうも。

谷村さんも感じられている通り、「自分の聞きたい曲を聴く」という一面と同時に「溜め込んだ曲を聴く」「いろんな曲を聴く」という聴き方はあると思います。9月4日の「iTMSの終わりの始まり」という記事でも書いたのですが、個人的には、iTMSのようなモデルは実は過渡的なもので、「いろんな曲に出会える楽しみ」を提供できるサブスプリクションモデルというのが本命かな、という気はしますね。

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