「依存症」

自分自身の体験をベースにした小説。鬱、情緒不安定性人格障害(パニック、摂食)フィクションとノンフィクションです。

ごめん

2008-10-23 15:38:03 | 小説
顔が近づき、キスされそうになった
マイは下を向く

「ヒロは、私の大事な人なんだ。親友だと思ってたから。ごめん」
「いつまででも、待つよ。考えておいて」
そう言って
ヒロは更にマイを力強く抱きしめ、マイの体に回した腕を放した

ヒロ

2008-10-21 05:49:53 | 小説



深夜、車のエンジン音が近づいてくる
この道はあまり車は通らない

マイとヒロは木々の影に隠れた

見覚えのあるナンバーの車
ドクターだ

マイの家の方に向かい過ぎて行った
どうやら、待ち伏せでもする様子だ
「マイは部屋で寝ていることにしよう」
ヒロとそう言って
居酒屋へ歩いて行った
朝まで好きな本の話をしたり、映画について真剣に語ったりした


明け方5時になって、店も閉まる
「近くまで送るよ」
ヒロと一緒に、誰も起きていない街を歩く
マイは冷たくなった手を頬にあてた
その手をヒロは自分のコートのポケットに入れた

黙って歩いた

突然、ヒロに抱きしめられた

「俺にしろよ」

何も言えなかった
マイの心の中には1人の男がいる
ヒロもそのことは知っている
ひと夏、遠い土地で愛した男だ

ヒロのことは大好きだ
一番の親友だと思っている
失いたくない

首を縦に振れば、ヒロを失わずに済むのか
マイは抱きしめられたまま、動けなかった




夜の中

2008-10-20 15:44:22 | 小説
「おい、マイちょっと来い」
階段を上がる途中
バイトから帰ると父の部屋から声がした

体が動けなくなった
声が出ない
心臓が激しく胸を打つ

脳が回転する「自分は何かしたか?」

わからない

でも、良くないことがある
体がそう答えていた

マイは階段を駆け下りて、家を飛び出した
振り返らずに走り続けた

心臓がバクバクする

なにがあったのだろう
知るすべもない
知りたくもない

小さなフラワーガーデンに入り、ベンチに座る
時計を見る
午後9時

どうしようか
今日は戻れない

戻ることができないわけじゃない
恐怖がそうさせてくれない

バックからポーチを取り出し
安定剤を飲み込む
心臓が苦しい

怖い

日が落ちた空の下
じっと地面を見つめ、落ち着くのを待つ
自分自身が

携帯が鳴った
反射的に家からだと思った

画面は「多田医師」と表示されている
マイは携帯をしまい
また地面を見つめ続ける

手がかじかんでくる
さっきバイト先で別れたばかりのヒロを呼び出した

夜の花園でヒロと遊んだ
笑った
はしゃいだ

ヒロが大好きだ

携帯は鳴り続いている

このままずっとヒロとこうしていたい

輝く空気

2008-10-18 16:15:34 | 小説
冬が好きだ
セーターの上にコートを着込んでマフラーに包まれて
手袋をした手をコートのポケットに入れる

冬には早起きをする
夜が明ける前にコートを着込んで
街の誰よりも一番早く青白く透き通った空気の住宅街を歩く

頬が痛くなるほど冷たく澄んだ大気
「銀河鉄道の夜」の、空気がキラキラと輝いているくだりが好きで
それを目の前に浮かべながら歩く
高速道路の下を抜けて、公園に入る

だんだん空が白くなって

雲が光りだす

マイはその景色を見るための特別席に急ぐ
芝の上に一定間隔で、綺麗に植えられた木々

空の明るさが増してきて

朝露に光る芝と、長く延びた木々の影のコントラストが始まる

まるで、異世界にいる感覚だ
マイの一人だけの特別な時間
このまま風景が変わらないでほしいと願う
その世界にはいったままでいたい


そして、犬を連れて人が公園にやってくる
ジョギングをする人も

今日のマイだけの時間が終わりを告げる

家に帰る頃には、父も母もカイもおきていることだろう
また、一日の始まりだ




居場所

2008-10-17 04:36:12 | 小説
呼吸のように煙草の煙を吸っている
落ちつかない

二階へ上る階段ですれ違った母の姿が頭から消えない

今にも倒れそうに足元はおぼつき、口にする言葉はろれつが回っていなくわからない
目を見れば、わかる
また薬を大量に服用し、酒を1,2本開けている


心臓が苦しい
煙草がないと呼吸ができない
頭が締め付けられるようにキーンと耳鳴りがし、音が聞こえなくなる

外に出た
夜の公園を歩く

ある時期、母はいつも怒りを全身から発していて触れるのが怖かった
声を掛けると、振り返る母の顔が鬼に見えた

母を愛している
逃げる場所がなかった

色づいた落ち葉を踏みながらサイクリングロードの脇道を歩く
ちょっとした森の様な場所

吐く息は白く、手がかじかむ
冬が近い

この時期が一番好きだ
冬の訪れを感じるこの季節が
冬はあっという間に過ぎてしまう
だから冬を待ちわびるこの季節の方がいい


小学校、スイミングスクールから帰ると
母が玄関の戸を開けて迎えてくれた
玄関から漏れる、家の中の光すら温かい
弟とマイをタオルに包んでファンヒーターの前に座らせ、熱々のコーンポタージュを手渡してくれた

中学校、高校受験の為に自転車で白い息を吐きながら塾に通った
暗く冷たい空気に覆われた住宅街で、温かい光をこぼし家の戸を開ける向日葵の様な笑顔がたまらなく好きだった


歩く度、枯れ葉が音を立てる
寒い

ポケットに手を入れて肩を縮め

いつになったら家に戻れるだろう

歩き続けるしかなかった



2008-10-06 18:03:26 | 小説
今日は雨

気分がさえない
追い立てられるような不安感で落ち着かない

錠剤をラムネのようにポイポイと口に入れ、1日眠ることにする

不倫相手

2008-10-05 16:26:45 | 小説


そんなことを思い出しながら、マイはベットに横たわっていた
その横には電話の男、多田医師
43歳、妻と4歳の娘、生まれたばかりの男の子もいる

「ねぇ、キミとずっとこうしていたいよ。結婚しないでずっと僕の側にいてね」
「無理だよ」
「僕はキミのことこんなに好きなのに」

月に数回、看護助手として働いている病院の外科部長だ
最初は憧れた
付き合いは楽しかった

今は嫌いだ
多田は仕事以外の時間は全てマイと過ごし、家にかえらなくなった
妻には研究と論文で忙しいと言っているが

何度か家にまで招待された

綺麗な奥さん、可愛い女の子、ベビーベットに寝ている赤ちゃん

家の中の風景を見て、胸が痛んだ
平常でいられなかった

家庭を粗末にする姿が父と重なった


マイはベットから出て服を着る
深夜1:30
車に乗り家の近くで降りる

吐き気がする

仕事上顔を合わせるので別れるのが難しい
ねちっこくしつこいのだ

そっと玄関のカギを回し、静かに部屋に入る
ベット脇の窓を開け、遠くに光るオレンジ色の道路を見ながら眠りについた


愛から憎しみへ

2008-10-01 17:25:45 | 小説


冷蔵庫にはいつもミネラルウォーターが入っている
「お前たちは触るんじゃないぞ。俺の水だ。俺が駄目になったらお前たちはどうするんだ」
そう言われ気にも止めず、水道水を飲んでいた
今はその水までもが、憎らしい

この人が死ねば解放される
飢えているせいか、憎しみのせいか
マイのとった行動は明らかにおかしくなっていった

ミネラルウォーターに殺虫剤や消毒液、思いつく限りありったけ入れた
父が帰宅し水を飲むのを待った
が、父はキッチンには寄らずそのまま部屋へ入って行った

匂いでばれる

マイは我に返り、父が部屋から出るまでに急いでペットボトルの水を捨て
代わりに水道水を入れた
手が震えた

階段の上から背中を押そうとしたこともある
思い出して躊躇した

神経質な父は遺書を用意してあると言っていた
中身は知らない
わかるのは財産は家族に渡らないよう記してあるということだけだ
生命保険だって受取人は誰だかわからない

悔しい
今まで家族にひもじい思いをさせてきたくせに
金が欲しいと思った
マイにはなにも出来ないこともわかっていた

ある日
夕食にご飯一膳と小さな鶏肉の欠片が3つ出された
勇気を出してマイは言った
「もう少し食べたいんだけど・・・お母さんはもっと食べさせてくれた」

それが父の逆鱗に触れた

頭を鷲づかみにし、マイを冷蔵庫まで連れて行った
寂しい冷蔵庫の中から茶色の卵を取り出し
「これがいくらするか知ってるか!315円もするんだ!どういう意味かわかるか!」
マイは首を横に振る
「最高級の体に良い物を買っているんだよ!知ったような口をきくな!
 お前たちのことを考えて一生懸命やってやってるんだ!」

顔を近づけて、脅されているような気分だった
それからは上か下か判らないほどに張り倒され、蹴飛ばされた

マイは這いずり夢中でキッチンから包丁を取った
負けたくなかった
包丁を構え、父に向き合った
取っ組み合いになり、結局男の力には勝てなかった




欲しかったもの

2008-10-01 13:01:48 | 小説

温もりが欲しかった
包まれてみたかった
愛されることで存在を確認してみたかった


夕食でお椀を置く音が響くと、食事も与えられず部屋に閉じ込められた
友達の前で石段から地面へと蹴落とされる
父親とはそういうものだと思っていた

外の世界が見え始めて、何かが違うと気付いた

マイは父親と闘いたかったわけじゃない
必要としていることを信じて欲しかった
「愛してる」と言いたかっただけ

話など通用しない
彼は被害妄想の塊だった

初めて胃カメラを飲んだのは中学1年
辛かった
でも日々の痛みに比べれば何ともなかった

もうこの人は変わらないとわかった時、母親に離婚を頼んだ
「子供たちを大学に行かせるまでは、離婚しない」との返事だった

それからマイは父親を殺す事ばかり考えていた
事故に見せかけるにはどうしたらいいか

一度だけ、馬鹿なことをした

母が鬱になり家を出た時

冷蔵庫の中はほとんど空っぽだった
小遣いは渡されず、食糧を買いに行くこともできない
食事は父が作り、私と弟はどんどん痩せていった




着信

2008-09-29 16:57:39 | 小説
マイは行くあてもなく裏路地に座る

ヒロに会いたい
呼吸がしたい
電話しようと携帯を取り出す

携帯が鳴った
着信画面を見て、そのまま鳴り続ける携帯を地面に置く
止んだ
ほっとする
直後にまた着信音

・・・・・・

迷いながらも電話にでる

「キミ、何やってんの?何で電話に出ないの?何処にいるの今?」
まくしたてる声
聞きたくない声
「いつもの所にいるから。7時だから」

・・・・・・

ヒロの声が聞きたかったが、発信ボタンが押せなかった

7時にその場所に行く
道路脇に止まっている車に乗る
そして、いつもの通りホテルに行く

最初は好きだった
温かい大きな手が頬に触れると、昔の父の大きな手を思い出す

マイはただ、ベットで抱かれている間無言で事が終わるのを待つ