海風に吹かれて

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虹色のウロコ 第四話

2008-01-21 06:35:14 | 長編小説 虹色のウロコ

  

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 ― 昔、人魚と人が、共に暮らす時代があった。
 人魚たちは光島をねぐらにし、魚崎の民が漁に出ると、海路をふさぐかのように入り組んだ海流のために、たどり着くのが難しい漁場までの道案内をしたり、魚を網に追い込んだりと、喜んで漁の手伝いをした。
 また魚崎の民は、人魚を捕まえようとするものから、勇ましく人魚たちを守っていた。
 そうやって、人魚と人は共に暮らした。

 ある時、人魚を狙ったサメの群れが、光島を囲む様に現れた。
 近海にいるはずの無い恐ろしいサメの姿に、驚き逃げまどう人魚達を、魚崎の民は懸命に守ろうとしたが、戦いもむなしく、大半の人魚たちは、凶暴なサメの腹の中に納まってしまった。

 残った人魚は嘆き悲しみ、我らはいつも漁を手助けしているというのに、なぜ仲間をサメから守ってくれなかったのだと、やりきれない怒りを民にぶつけた。
 それからというもの、人魚は、漁に出た船を海底に引きずり込んだり、網に穴を開けて、せっかくかかった獲物の魚を逃がしたりと、漁の邪魔をするようになった。

 いっぽう魚崎の民も、サメとの戦いで、手負いの仲間が多数出たというのに、ことごとく漁の邪魔をされ、魚がとれずに生きてはいかれず、理不尽な恨みに耐えかねると、人魚をとらえては、他の町に売りに行ったりするようになった。
 思いのほか人魚は、他の町では高値で売れたため、いつしか魚崎の漁は、人魚をとるためのものへと変わっていった。
 まさに同じ海域で、人と人魚がいがみ合うことになってしまった。

 半島の先から、そのいきさつの一部始終を見ていた魚神様は、互いに身を滅ぼす悲しい争いにたいそう嘆き、光島の海底深くに、人魚を住まわす事に決めた。
 そして人と人魚に、こう言い渡した。

「人魚よ。サメから仲間を助けるために、人は出来る限りの知恵と力で応戦したのだ。それでも守り切れぬは仕方のないこと。
 それを逆恨みするとは、もってのほか。
 海底深く潜り、二度とここへは戻ってきてはならぬ」と。
 また、人魚はそのまれな容姿ゆえに、魚からも人からも狙われてしまう。
 争いの元凶となることを避けることにも、人魚の豊かな繁栄のためにも、海深く潜った方が良いと付け加えた。
 そして、
「魚崎の民よ。理不尽な恨みを突き付けられ仕方なしとは言え、人魚を見世物にする行いや、売り買いの対象にするなど、まことに許しがたいものだ。
 金輪際、人魚と関わりを持つ事は許さん。
 見よ、私のほこらの周りにはたくさんの魚がひしめいている。
 約束を守らば、その魚をとることを許そう。さすれば、人魚の案内無しでも漁が出来るであろう。
 ただし、生きるに必要な分までじゃ。
 そして今まで以上に、海の恵みに心より感謝せよ」
と、魚崎の民に言って聞かせた。

 そして最後に、
「双方どちらか一方でも約束を破った時には、この海を唸らせ、波を巻き上げ、双方ともども海の藻屑とするだろう」
と戒めた。
 魚神様の命に従い、人魚は海底深く潜ると、二度とその姿を現わす事は無かった。
 民も心を改め、感謝の念をもって、命を繋ぐ分だけ魚神様のお恵みを頂戴した。
 そして年に一度、母なる海と自然と魚神様への、感謝の祭りを開く事を誓った。
 この愚かな争いの戒めを、子孫末裔まで肝に銘じるため、人魚伝説として長く語り継いだということだ。 ―



「なるほどねー。魚神様が、この辺の海の平和を守ったって言うわけかぁ」
 海香が感心して言うと、
「そうだ。人魚と魚神様と、この魚崎の人間とは、深~い関係があったのさ」
 おばあちゃんは、お茶を飲みながら答えた。
「でも、なんで魚神様は、人魚を海の底の方にやってしまったの? 仲直り出来れば、今まで通りに一緒に暮らしてても良かったんじゃない? 」
 海香は、そこが一番気に入らなかった。
(そのまま光島に人魚が暮らしていれば、お友だちになれたかもしれない。
 もしかして、一緒に海で泳ぐなんて事も出来たかもしれないのに…)
「どのみち、人魚が人と一緒に暮らす事なんて出来ないのさ。
 人間なんて勝手な生き物なんだ。全ての生き物の頂点に立ってる気でいるんだからなぁ。
 だからもしも人魚と民が仲直りして、元通り暮らしたとしても、いずれは同じ事になるのさ。
 人魚の血や肉が万病の薬だとか、不老不死の妙薬だなんて言ってる地域もあるくらいだからねぇ。
 あの時魚神様が、人魚を海底に追いやって良かったんだよ。
 そうじゃなきゃ、とっくに人魚なんてこの世からいなくなってるだろうね」
 おばあちゃんは、首を横にゆっくりと振りながら、ためいき交じりに言った。




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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なるほど~。 (らんらら)
2008-01-21 10:19:11
人魚と人間。そういう関係だったんですね~。
魚が獲れなくなってる…何か、起こっているんですね!
気になります!
海香ちゃんの発想、うん、それが出来れば一番いいんだけどね♪
ミナモさん、これ、完結しているんですね!
分かりますよ~。完結しているものを連載していくのって、「どんなコメントしてくれるだろうか」とか「次、次を見て!びっくりしちゃうから!」みたいな。小出しにする楽しみがありますよね~!!

実は、創作途中の作品にあまり頻繁にコメントすると、プレッシャーになってしまうことがあって。
(失敗したことあります…><。)
それで、言葉を選んだり、楽しみにしているのにその言葉を表現しないでおいたりしています。
でも♪
いいんですね?いっぱいコメントしても♪
では改めて!「続きを楽しみしています!!」
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悲しい… (松果)
2008-01-21 11:20:12
う~ん、悲しい人魚伝説。
どっちがいい、悪い、ではなく、こういう争いって起きてしまうものなんでしょうか。

わたしの作品にも「竜人」という存在を設定してますが、異なる者どうしが共存するって難しい…
だからこそ、純粋な心を持った子供のパワーに期待しちゃうんですけど。

海香ちゃんが人魚と一緒に泳げる日が来るといいな

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はい!遠慮なく!!! (ミナモ)
2008-01-21 14:24:21
ガンガンコメント書いちゃってくださいな
ホントにね~。私なんて、まだ書き始めてやっと1年の初心者も初心者
だから、コメント欲しくて仕方ないんですよなので、気にせずやっちゃってくださいね

これから、この伝説を基盤にお話が展開しますんで、ここは結構重要回だったりします

いったい、何がおこっているのか??
楽しみにしていてくださいね

それにしても、らんららさん。
小説もコメントも、お上手ですね
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そうならない… (ミナモ)
2008-01-21 14:31:50
世の中であって欲しいですよね
現実も、物語の中も…。

ほんとに、海香のパワーに期待ですね

だって、助けあい愛しみ合える関係こそ、素晴らしいものなんですから

私は、この物語を、多くの子どもたちに読んで欲しんです。
でもそのためには、きっともっと、飛びつきやすさを追求しないと、ダメなのかなぁ…
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考えさせられます。 (如月 恵)
2008-01-21 16:00:31
思わぬことで仲たがいしてしまうことって、日常生活でも多々ありますよね。悲しいことに・・・・・

海香ちゃんのような子ばかりなら世界は幸せなんですけどね。おばあちゃんの言葉が身にしみます。

人魚伝説と現在の出来事との関係が気になります。
続き楽しみにしております♪
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どうなるんかな? (sadayaan)
2008-01-21 17:55:52
わずかな誤解が、すれ違いを招く。

かなしいね。
共存できる日が来るのかなぁ。
楽しみだよん。
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如月さん、ほんとだよね~。 (ミナモ)
2008-01-22 01:08:03
人間って、愚かだな~なんて思う事しばしば…ですよね

ここは、海香ちゃんになんとかしてもらうしかないっすね

この有坂家ってのは、実は全員がうま~く働いてるんですよ。適材適所ってやつですね

さあ、どういう風に配置されているのか!そんな所も見所です
また見に来てくださいね
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sadayaanさんの (ミナモ)
2008-01-22 01:14:38
コメントの中には、ひしひしと伝わってくることが、たくさんありますよぉ

ほんとに、ありがとうございます

人魚と人が共存できる日は、来るんでしょうかねぇ?
そして、誤解やすれ違いは?いったいどうなるの???

気になる事満載ですよね~

これから、どんな風に物語が動いていくのか、楽しみにしていてくださいね

そして、また遊びに来たら、ぜひコメント残してくださいね待ってます
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再びお邪魔しまーす (松果)
2008-01-22 23:13:47
実はこのお話、うちの娘(小5)も喜んで読んでます。わたし以上に本の虫でファンタジー好きの娘は、「このままで素敵なのに~」と言ってますよ
軽いノリの本ばかりが流行ってる(ような気がする)けど、そういう子も居ますよ、ってことで、ご参考までに
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嬉しい~!!!!! (ミナモ)
2008-01-23 06:23:56
松果さん、ありがとうございます

コメント読んで、涙が出ましたよぉ

そっかぁ。そう言ってくれる子がいるのなら、このままでいいんですよね~

いえいえ実は。良く同人会に行くと、顧問の先生に、
「面白いんだけどさ…、今の子が読むかなぁ?」って言われるんですよ。
『絶対読んでくれる!!!』って思いつつも、やっぱ凹むんですよね

松果さんちの娘さんの話を聞いて、自信持てました
ほんとにありがと~
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