海風に吹かれて

オリジナル小説を気ままにアップしていきます。
やっぱり小説を書いている時は幸せを感じる…。

虹色のウロコ 第二十三話

2008-03-16 08:51:53 | 長編小説 虹色のウロコ
  

 ↑クリックして、応援お願いしますね♪

_____________________


 学校が終わると、海香は急いで扇松へと走って行った。
 洞窟を覗くと、マサオとツキヨミが、話をしながら海香を待っていた。
「おかえり」
「た…ただいま」
 海香は、のんびりとした二人の様子に少し驚いた。
「どうしたんだい? 」
 すぐにマサオが、海香の様子に気付いて言った。
「ううん。何か、ちょっと怖かったの。
 悪しき人魚があのまま黙っているなんておかしいし、もしかして、企んでいる事があるのかもって思って」
「企みかあ…。確かに何かを考えてはいるだろうな。
 でも、向こうが動きを見せなけりゃ、こっちも手の打ちようがない。
 人魚を悪しき人間に受け渡すとかなら、オレもどうにか阻止出来るんだが…。
 何せオレにもツキヨミにも、悪しき人魚の信号は受けられないから、これ以上は分からないな」
「そうだよね、それは私の仕事だもんね。
 とにかく、人魚が人に渡されないようにだけはしないとね。
 本当にそれだけは、マサオくんお願いね。
 もし人魚が人の手に渡ってしまったら、博物館がここに建ってしまう事になるの。
 そうしたら、この海は死んでしまうかもしれないから」
 海香は必死になってマサオに言った。
 その様子に、マサオも何かを感じたのか、きりっと真面目な顔になって
「任せとけ」
と、短くきっぱりと答えた。
「さぁ、ツキヨミ行こう!
 もう一人の悪しき人魚を捜さなくちゃ」
「うん。よろしく! 」
 二人は、同時に海の中へと潜って行った。

 ホールに着くと、相変わらずゆったりとした人魚の世界が広がっていた。
〈まずは、どうやってもう一人の人魚を捜すかだよね〉
 ツキヨミが、念のためにツキヨミ貝を使って話した。
〈そうだね。昨日の司会の人魚は、どうしているんだろう〉
〈うん。もう一人が一緒に居るとは限らないけど、どうしているのか見てみるのも良いかもしれない〉
 ツキヨミは海香の手を取ると、通路に向かって泳ぎ出した。
 ツキヨミのお母さんの部屋の前に着くと、ツキヨミは立ち止まって言った。
〈この先に、王族が住む部屋があるんだ。
 昨日の悪しき人魚は、この奥に居る。
 でも、このまま何も考えずに乗り込むのは危険だから、とりあえず母さんの所へ行って、考えをもらおうと思うんだけど〉
〈それがいいよ。ツキヨミのお母さんなら、きっと良い方法を考えてくれると思うし〉
 二人はお母さんの部屋へ進んだ。
 お母さんの部屋は、昨日よりも少し明るくなっていた。
 たとえ明かりを置くことに意味がなくても、お母さんの気持ちが、部屋を明るくする事に意味を持ったのだろうか。
「母さん」
 ツキヨミが、声をかけながら部屋に一歩入ると、岩の椅子に腰掛けたお母さんが、立ち上がって迎え入れた。
 海香もツキヨミに続いて、部屋へと入って行った。
「あのね…」
 ツキヨミが話すのを遮って、お母さんは一枚の貝殻を手渡した。
 貝殻には、何かが書き込まれていて、海香には読めない文字だった。
 ツキヨミは黙ってそれを読むと、お母さんの顔をまじまじと見ている。
 お母さんは、それに答えるように黙ってうなずくと、岩の椅子に戻って腰掛けた。
 そしてツキヨミは海香の手を引いて、黙ったままホールへと引き返し始めた。
〈どうしたの? 〉
 ツキヨミの様子がおかしいので、海香が尋ねると、
〈母さんが、おとりになるって…〉
と、ツキヨミは言った。
〈おとりって…? 〉
〈ぼくと海香を、危険な目に合わせたくはないからって。
 母さんがおとりになって、悪しき人魚につかまれば、きっと人に引き渡すはずだと。
 その時には、もう一人の人魚もきっと分かるはず…。
 …そういう事らしい〉
 ツキヨミは涙しているのか、前を向いて泳いだまま答えている。
〈でも、おとりっていう事は、お母さんが人間に渡される前に、もちろんマサオくんに助けてもらうんだよね? 〉
〈いや、母さんは、この事態を治めるために、人間たちにとらわれるつもりでいる。
 母さんにその意思があるから、魚神様が手出しする事は出来ない〉
〈でも、お母さんが人間につかまるって事は、博物館が建っちゃうんだよ?
 それはどうするつもりなの? 〉
〈母さんが直接、人と交渉するつもりらしい。
 まあ、そこは上手くいくとは言い切れないけど…〉
〈そんな…。なぜお母さんはそんな方法を…?
 もっと他に、良いやり方があるんじゃないの?
 なんでツキヨミは、お母さんを止めなかったの? 〉
 海香は、激しくツキヨミを責めた。
〈ぼくだって、止めたかったさ。
 でも夕べ、悪しき人間に、悪しき人魚がせかされていたのを、母さんがキャッチしたんだって言うんだ。
 人間側の都合で、今夜までに人魚が必要になったから、連れてくるように言われていたらしい。
 もし連れて来られなければ、扇松に毒を流して、生き物の住めない海にすると。
 そんな事になったら、いくら博物館が建たなくなったとしても、この海は死ぬ。
 ぼくら人魚も、魚も、貝も、そして魚崎の人も…暮らしては行けなくなってしまうだろう。
 もう時間が無いんだ。
 それにぼくは、ツキヨミとしてではなく、人魚王として判断しなきゃならないんだ〉
 ツキヨミの声は、涙声になっていた。
 長い間、別人のようになってしまったお母さんが、やっと元通りになった矢先の事だけに辛いのだろう。
〈ねぇ、マサオくんに相談しよう。
 それがいいよ。
 ね、マサオくんの所に戻ろうよ〉
 海香は懸命にツキヨミに話しかけたが、ツキヨミは首を横に振り、
〈だめだよ。ぼくは、母さん以外の人魚の安全を守るという仕事がある。
 母さんがせっかくおとりになると言ってくれているのに、他の者が連れて行かれては困るんだ。
 そして海香、君も守りたいんだ。
 海香が人魚の信号を受けられる事が、もしもあいつらに分かったら、忘れクラゲをけしかけるくらいじゃ済まない。
 すでに、何かおかしいと勘ぐり始めているらしいから、もうここへは来ない方が良い〉
と言い、ぐいぐいと海香を引っ張りながらホールの出口を抜けると、扇松の洞窟へと向かい出した。
〈ねぇ。じゃあ、今まで私が頑張ってきた事は何だったのよ!
 一緒に…。
 ツキヨミと一緒に、ここまで悪しき人魚を追い詰めたんじゃない! 〉
 海香は、海流を抜けた辺りでツキヨミの手を振り払い、激しく詰め寄った。
 ツキヨミは、悲しい瞳でじっと海香を見つめると、海香の体をぎゅっと抱きしめた。
〈ぼくは…。海香を失いたくないんだ。
 海香と会えた事、海香が頑張ってくれた事、その全てに感謝しているよ。
 本当にありがとう。
 でも、これ以上は無理だ。
 もうこれ以上、海香を危険な目に合わせたくないんだ。
 だからここから先は、ぼくの力で解決しなきゃいけないんだ〉
〈ツキヨミ…〉
〈じゃあ、ごめん〉
 ツキヨミは海香から体を離すと、別れがたい気持ちを振り払うように、力いっぱい勢いを付けて今来た海を戻って行った。
〈ツキヨミー〉
 海香はしばらくの間、その場に留まって、小さくなるツキヨミを見ていた。


 海香が洞窟の中に泳ぎ着くと、マサオが神妙な顔つきで待っていた。
「大丈夫か? 」
 どう声をかけて良いか分からないといった風に、マサオは言った。
「うん…」
 海香は力なく答え、マサオの隣に腰掛けた。
 そして大きなため息を一つついて、
「何か…寂しいな」
と言うと、海香の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
 それを拭うでもなく、ただこれ以上涙がこぼれないように、海香は上を向いた。
 マサオは海香の隣で、じっと黙ったまま、一緒に座っていてくれた。
 しばらくして、マサオはゆっくりと口を開いた。
「今日はツキヨミのやつ、海香の話ばっかりしてたんだ。
 きっとあいつ、海香の事が本当に好きなんだよ。
 だから…」
「うん。分かってる。マサオくんありがとう。
 何かさ、これからって時に、もういいって言われちゃったから、ショックだったんだ。
 ツキヨミが、私を大事にしてくれてるのは分かるんだけど、私もツキヨミの役にたちたかったし…」
「でも、まだ海香には出来る事があるんだぞ。
 上手くいけば、ツキヨミのお母さんだって助けられる! 」
「本当? 」
「ああ、本当さ。それは…」
 マサオは、海香に計画を話した。
 海香はそれを聞いて、再び体にやる気がみなぎるのを感じていた。
「分かった! 私、すぐに準備に取り掛かるから帰るね!
 マサオくん、服を乾かしてもらっても良いかな? 」
「任しとけ」
 そう言って、マサオはいつもの様に枝を払った。
 海香はマサオと別れると、走って家に帰った。
 そして、急いでおじいちゃんにマサオの計画を話し、準備に必要な軍資金を出してもらうと、千夏を電話で呼び出した。
 ミニバスの練習に出かける前だったので、千夏は快く海香の呼び出しに応じ、学校の門の前で待ち合わせをした。
 海香は千夏に会うと、計画を全て話した。
「でも、大丈夫かな?
 上手くいくといいんだけど…」
 千夏が心配そうに言ったが、海香は、
「大丈夫! だって、うちのおじいちゃんがついてるし! 」
と、自信たっぷりに言った。
 そして、
「ただ…」
と、付け加えた。
「ただ…? 」
 千夏が不思議そうに聞き返すと、
「千夏のお父さんと、山下君のお父さんが、ちょっと可哀想かもね」
と言って、海香は笑った。
「そうかもね」
と言って、千夏も笑った。

二人は買い物を済ませてから、海香の家に行き、おじいちゃんの部屋で準備に取り掛かった。
「あら、千夏ちゃん、久しぶり。
 今日は、ミニバスの練習は無いの? 」
 お母さんが、お茶とお菓子を持って入って来て、千夏に聞いた。
「はい。今日は、宿題を二人でやるので、お休みしました」
「そう…。でもなんでおじいちゃんの部屋で…。ねぇ? 」
 お母さんが、変な顔をしてぶつぶつと言うので、
「お年寄りと一緒にやりましょうっていう宿題なの! 
 もう! いいから、早くお母さんは出て行ってよ」
 海香は顔を膨らましてそう言うと、いつまでも首を傾げているお母さんを、おじいちゃんの部屋から押し出した。
 ふすまをぱたんと閉めると、
「…お年寄りって…」
と、おじいちゃんが、ぽそりと言った。
「あ! ごめん」
 海香が謝ると、千夏が笑い出し、結局は海香もおじいちゃんも笑ってしまった。
 何とか作業が終わり、千夏は家に帰って行った。
「よし! 後は…、これをどうやって…」
 海香が考えていると、
「わしに任せておきなさい! 」
と言って、おじいちゃんが胸を叩いた。
「本当? 私も行くよ」
「いや、一人の方が良いじゃろ」
 そう言ってどこかへ出かけて行き、三十分程で戻ってきた。
「おじいちゃん、どう? 大丈夫そう? 」
 海香が出迎えて聞くと、
「大丈夫! 上手くいきそうじゃ」
と、おじいちゃんは笑った。
 海香は、今日はしっかりと悪しき人魚の信号を聞こうと、早めにベッドに入って眠る事にした。
「今頃、ツキヨミはどうしているのかな。
 お母さん以外の人魚を守るって、大変な事なんじゃないのかな?
 上手くいくと良いんだけどな…。
 私も陸で、ツキヨミの力になるために…頑張るからね…」
 海香はそんな事を呟きながら、眠りの波間へと、ゆっくり、ゆっくり落ちていった。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
そんなぁ~ (松果)
2008-03-17 21:30:43
ツキヨミのお母さんが囮になるって~
人魚王としての決断、そして海香を守るための辛い選択をしなくちゃいけないツキヨミが痛々しくて

マサオと海香の計画ってどんなだろう?これまでと違って千夏ちゃんやおじいちゃんも協力してくれてるし、うまくいけばいいけど…
う~っ、続きが気になる
返信する
王というのも (ミナモ)
2008-03-18 22:37:03
辛い立場なんですよね~
みんなの命を預かるようなモノですから…。

まさに、お母さんの行動は、ツキヨミにとっての初の試練といった感じ。
これを乗り越えて、立派な王になって欲しいっ!!

気になります??松果さん。
マサオくんの計画とはね…ふふふ。
お楽しみに♪
私的には、ものすっご気に入ってるの

早く更新しなくっちゃっ♪
返信する