海風に吹かれて

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虹色のウロコ 第八話

2008-01-30 07:13:50 | 長編小説 虹色のウロコ

  

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「足の方を持ったって、ウロコで滑って無理に決まってるだろ」
 声のする方を見ると、さっきの男の子が立っていた。
「あの…この人魚、怪我をしているの。
 このままじゃ、死んじゃうかもしれなくて…」
 男の子はまた、「ふんっ」と鼻を鳴らして、人魚の頭の方に回り込むと、脇の下に手を入れて、軽々と持ち上げた。
 そして、ずるずると引きずりながら、浅瀬の潮溜まりの中に人魚の体をそっと離した。
 人魚はぐったりとしたまま、潮溜まりに体を横たえた。
「ねぇ、生きてるの? 死んでなんかいないよね? 」
 海香は、心配そうに男の子に聞いた。
「良く見ろよ」
 そう言って男の子は、人魚の耳の下を指差した。そこにはエラの様なものがあり、かすかに上下に動いている。
「そんな事より、せっかく忠告してやったのに、お前は…。
 まぁいい。とにかく怪我の治療だ。手伝ってくれ」
 そう言って、男の子は海香に走り書きのメモを渡し、今すぐに急いで持ってくるように言った。
 そのメモには、
『ヒトデ 3匹・ウミウシ 3匹・カメノテ 5匹・アナアオサ ひとつかみ・ウミウチワ ひとつかみ・ヒトツマツ ひとつかみ』
と書いてあった。
 最後の三つは、海香が分からないと言ったので、後から簡単な絵を添え書きしてくれた。
 その絵を見ると、いつも潮溜まりで波に揺れながら生えている海藻だった。
(なんだ、海藻だったんだ。名前なんて知らなかったな。
 でもこれなら簡単。すぐに見つかるよ)
 海香は急いで潮溜まりを覗き込み、メモに書かれた全てのものを集めて持って行った。
 男の子は一つ一つ確認しながら受け取ると、
「最後にあれが必要なんだ」
と、海岸に立つ松の木を指差した。
「分かった! 」
 海香は木登りにも自信があったので、そう言うと早速、松の木に足をかけた。
 とは言ったものの、ウロコのような木の肌は、海香が足を踏ん張る度に、ボロボロと脆く崩れ落ち、案外登るのは難しかった。
 何度目かに、やっとで枝分かれした部分に手をかける事が出来た。
 それが出来れば、後は楽勝。いつもの木登り同様に、勢いをつけて足も枝にかけると、逆さにぶら下がったまま枝葉の方へと移動して、松の葉を一束引き抜いた。 それを口にくわえて、木からするすると下りると、走って男の子に渡しに行った。
 男の子はさっき海香が集めたものを、岩のくぼみで上手にすりつぶして、人魚の傷口に塗っている所だった。
 「はい」
と、海香が松の葉を手渡すと、男の子はそれを両手で包み、ぼそぼそと何かを唱え始めた。
 海香にはさっぱり分からない言葉だったけれど、どこか懐かしく、まるで呪文のように聞こえた。
 呟きを終えた男の子が手を開くと、松の葉はなぜか粉々になっていた。
 海香は驚いて、自分の目を疑った。
 そして、男の子がその粉を人魚に飲ませると、
「ううぅ…」
と苦しげな声を出したので、ますます驚いた海香は
「すごーい! 気が付いたの? うわぁー魔法使いみたい」
と、思わず歓声をあげた。
 男の子は不機嫌そうに、海香の方をちらっと見たが、何も言わなかった。
 人魚はゆっくりと目を開けた。
 そして、海香と男の子の顔をかわるがわるに見ると、小さな声で
「あり…が…とう」
と言った。
 海香はドキドキしていた。その声は、紛れも無く、夕べ最初に見た夢の中で助けてと言った、あの声だったのだ。
(あなただったんだ…)
 海香は人魚の少年をじっと見つめた。
 透き通る様な白い肌に、深海の青色をした髪が、とても良く似合っている。
 辛そうなまばたきの合間に覗く瞳も、同じ色をしていた。
(人魚に男の子っていたのね)
 今さらながら、そんな所に関心を抱いていた。
 目線を下げると、少年にしては華奢な肩と胸に続いて、腰から下は魚の体になっている。
 そこには、夕べおじいちゃんに見せてもらったウロコよりも、一回り程小さなウロコが、キラキラと光りながら並んでいる。
(さっき眩しく光ったのは、きっとこのウロコだったんだね)
 透明なウロコの下には、髪や瞳と同じ青の魚体が透けて見えていた。
 その余りの美しさに、思わず海香はため息をついた。
(私が思っていた以上に、人魚って美しい生き物だったんだ…)
 海香はそっと手を差し出して、眠りについた人魚の髪に触れようとした。
 ― パシッ ―
「あっ! 痛っ」
 海香は手を引っ込めて、顔を上げた。
 海香の手を乱暴に払い除けたのは、男の子だった。
「ちょっと、何を…」
「こいつ、弱ってるんだ。むやみに触るな。それから、お前はもう学校に行け! 」
 いつの間にか、離れ岩にかけっぱなしになっていた、海香のランドセルを片手に持って、男の子は立っていた。
 そして、ランドセルをぐいっと押し付けると、
「後はオレがみる。学校に遅れるぞ。
 それから、お前はもうここには来るな」
と冷たく言った。
「…あのねぇ、私が最初にこの人魚さんを見つけたの。
 確かに一人じゃ助けられなかったけど、私だって心配なのは一緒だよ。
 なのにあなたに、来るな、なんて命令される筋合いはないよ!
 だいたいさっきから偉そうに、お前お前って。
 私はお前って名前じゃなくて、海香っていう、立派な名前があるんですからね! 」
 海香の魚崎女魂(うおさきおんなだましい)に火が付いた。
 おばあちゃんから受け継いだ、勢いのある言い口調で食ってかかると、男の子は目を見開いて驚いている。
「ちょっとばかし、私より年上だからって、よそ者のあなたに、扇松で大きな顔されたくないわ! 」
 海香が言い終わると、男の子はしばらくポカンとして、黙ったまま海香を見ていたが、いきなり大きな声で笑い出した。
「あはははははは…。クックックックックッ」
「なによ…。まだバカにする気? 」
「あっはははは。…いや…ごめん。バカになんてしてないよ。
 オレの言い方が悪かったみたいだ。あやまるよ、ごめんな」
「…まぁ…。許してやってもいいけど…」
 海香は男の子に笑われて、急にさっきの自分が恥ずかしくなっていたので、ちょっと勿体つけて言ったものの、男の子を許そうと心から思った。
「お前…いや、海香…ちゃん」
「海香でいい」
「海香、じゃあもう一度、学校が終わった頃に薬をあげるから、また手伝ってくれ」
「オッケー」
「それで、今はともかく学校へ向かった方がいい。もうすぐ一時間目のチャイムが鳴る頃だ」
「えーっほんと? まずいまずい。
 じゃあまた放課後に来るからね」
 海香は、急いで駆け出した。
 遊歩道の中ほどの、最初に男の子が海香に忠告をした階段のところで、海香も男の子に大きな声でこう言った。
「あなたは、なんて名前なの? 」
「オレは…。
 …マサ…オ…、マサオだよ」
 マサオは、少し照れた様子で答えた。
「分かった。マサオくんね! じゃあね! 」
 そう言って、海香は学校までの道のりを全速力で走っていった。



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6 コメント

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いやん、すごいどきどき! (らんらら)
2008-01-30 08:51:25
さっきの男の子だ!!人魚くんも気がついたしっ!!

なのに!時間が!!(出勤時間が~)
こんな慌てた状態で読むのはもったいない!!
く~。
じっくり、一文ずつかみしめるため!また、戻ってきます~!!
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わお~ (松果)
2008-01-30 10:20:38
マサオに啖呵をきった海香ちゃん、かっこいいぞ。
あのおばあちゃんの孫だもん、そうでなくちゃ。

やっぱりあの声の人魚だったのね。
人魚ってきれ~い!と素直に思う海香ちゃん、
でもここまで関わってしまったら、どうなるんだろう。

それにしてもマサオ君って何者?
人魚の手当てができたりして…普通の子供じゃないよね。続きが気になって仕方ないよ~
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らんららさん~!! (ミナモ)
2008-01-30 21:51:39
出勤前の、あわただしい時間に、ありがとうございます

またゆっくり来てくださいね

まってま~す

返信する
でしょ?? (ミナモ)
2008-01-30 21:56:39
やっぱ、漁師町 魚崎の女は、こうでなきゃ(笑)

ついに、海香は人魚と関わっちゃいましたね
魚神様のお怒りは、下されるのかなぁ

マサオ君。謎の少年です。
よそ者の様でいて…海岸を慣れた様子で歩いたり…謎は深まるばかり

彼は一体何ものなのか楽しみに待っていてくださいね
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うは♪ (らんらら)
2008-01-31 08:19:09
おはようございます!
またもや朝ですが♪
じっくり読み直しましたよ!
もう~、謎のマサオくん、呪文とか、薬作っちゃうとか!一体どんな子だろう!しかも、魚崎女魂の海香ちゃんに笑う余裕♪カッコイイ…
人魚の子も、綺麗…マサオ君が触るなって、ふふ、やっぱり人魚くんは変温動物(?)かと。
人肌の温度では火傷しちゃいますよね、お魚は。

うう!描きたいですよ~是非、絵を描かせてください!!
漫画絵にしたくないしイメージを壊したくないので、いろいろ描いてみてまた相談します~♪
ああ!!放課後!!待ち遠しい!
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やったぁ♪ (ミナモ)
2008-01-31 13:47:29
らんららさんイラスト書いてくれるんですか???
嬉しいです~やったぁ
楽しみにしてますね~♪


うんうん。マサオくんは、結構カッコイイ存在ですよ~
とても普通の中学生じゃないよね

次話で、謎は解けるかな?それとも、深まるかな??

お楽しみに~
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