海風に吹かれて

オリジナル小説を気ままにアップしていきます。
やっぱり小説を書いている時は幸せを感じる…。

虹色のウロコ 第十七話

2008-02-21 14:28:51 | 長編小説 虹色のウロコ
  

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  一瞬でも、嬉しいよ。ありがと


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 海香の心は温かい気持ちでいっぱいになっていた。
 今日はひとまず、博物館を建てる事についてどう考えているのか、海を守る事元に戻す事は、どんなに大変な事なのかを家族皆で話し合ってくるという宿題を持ち帰り、下校となった。
 小沢先生が海香を呼び止める。
「海香、これで博物館建設がどうなるかはまだ分からないけれど、こうやって皆で話し合い考えられた事が、素晴らしい第一歩だと先生は思うんだ。
 教えてくれて、本当にありがとう」
「いえ…先生に話して、本当に良かったって思います。
 きっと私一人じゃ、どうにも出来なかったから…」
 ツキヨミたち人魚や魚神様の話をする事は出来ない。
 ましてや、自分が心の声を聞いて博物館建設を知ったとか、千夏から声や映像が流れてきて、建設が決定している事、人魚を呼び物にしようとしている事とかを知ったなんて言ったら、誰も今日のようには取り合ってくれなかっただろう。
(本当に、小沢先生に話して良かった)
 海香の肩からは少しだけ重い荷物が降りたという感じで、朝よりも足取りは軽かった。
 扇松に着くと、いつもの潮溜まりで待っていてくれるはずの、ツキヨミもマサオも見当たらない。
「ツキヨミ? マサオくん? 」
 海香は、二人の名前を呼びながら海岸を歩いた。
 すると、
「海香、こっちだ」
と、昨日波を避けるために入った洞窟から、マサオがヒョコッと顔を出して手招きした。
 海香は洞窟に向かうと、マサオに聞いた。
「どうしたの? そんな所に隠れて」
「海香が学校に行った後に、人間たちが来たんだ。
 しきりにあちらこちらを測ったり、紙に何かを書き込んだりしてたから、おそらく魚崎を侵略しようとしているやつらだろう。
 それで、一度はオレたちも扇松から出たんだけど、海香の夢では悪しき人魚がその人間たちと会っているようだったから、ツキヨミと二人でこっそりここに戻って来たんだ」
「それで人魚は現れたの? 」
 海香の問いに、ツキヨミが大きく首を振って、
「いや…、現れなかった…」
と、残念そうに答えた。
「そう…」
 海香はため息混じりに答えながら、着々と工事の手が入っている事に驚くのとほぼ同時に、どんよりとした悪意を感じた。
 誰かの妨害が入る前にさっさと計画を進めてしまおうとしている事が、子供の海香にも何となく分かったのだ。
「とにかく」
 海香はそう言って気持ちを改めると、ツキヨミの手を引いて言った。
「今日も鍛錬するんでしょ? 早く行こうよ」
「でも…大丈夫? 疲れてないかい? 」
 ツキヨミは心配そうに、海香の顔を覗き込んだ。
「全然疲れてなんかいないよ。
 だって私、今日は友達の心の声が自然に聞こえてきたり、その友達が思い出している事が見えたりしたんだよ! 
 きっと、昨日よりも上手になってると思うから、鍛錬が楽しみで仕方無かったの」
「へぇ。そりゃ、すごいや。
 もしかしたら昨日、大ばあ様に会ったり、ツキヨミと一緒にいた時間が長かったから、海香の感性が研ぎ澄まされたのかもな? 」
 マサオが腕を組んで、感心しながら言った。
「感性が…、研ぎ澄まされる…」
 ツキヨミは、マサオの言葉を繰り返すと、
「うん、海香、行こう。人魚の洞窟へ。
 もう一度大ばあ様に会いに」
 そう言って、勢い良く海の中へ飛び込んだ。
「あっ! 待ってよ! 」
 海香はランドセルを降ろすと、くるりと振り返り、
「じゃあ、行ってきます」
とマサオに向かって明るく言い残して、海へと潜って行った。
 洞窟に一人残ったマサオは、海香が置いていったランドセルに目をやると、やれやれという様に呟いた。
「またオレ、海香の荷物番かよ。
 …まったく…。
 まぁ、仕方ないか」
 そしてその言葉とは裏腹に、満足げな笑みを浮かべ、海香のランドセルを手にほこらへと戻って行った。


  洞窟から少し沖に進んだ海中で、ツキヨミは海香を待っていた。
「もう! ツキヨミったら、私を置いて行くつもりだったの? 」
 海香がそう言って、ツキヨミのそばまで泳ぎ着くと、
「ごめんごめん、つい」
とツキヨミは笑って、海香に手を差し出した。
 その手を、海香がしっかりと繋ぐのを待ってから、
「だけど今日は、どこから人間たちが見ているか分からないから、海面に顔を出しては泳げないな。このまま海中を進もう。
 でも、海面よりも海中の方が、海流の力が強いから、ぼくから離れないようにちゃんとつかまっててね」
と言った。
「分かった。ツキヨミが私を置いていかなければ大丈夫。
 私はしっかりと、つかまって行くよ」
 海香は笑いながら、少し意地悪く言って返した。
「あはは。そうだね。じゃあ、行くよ」
 ツキヨミは勢い良く泳ぎ出した。
 右へ左へ。
 昨日の帰りと同じ様に、進路を選んでツキヨミは泳ぐ。
 だが昨日の様にゆったりではなく、ずっと力強く泳いでいるのは、海流に押し流されて進路を見失わないためだろう。
 それ程流れが強いのだ。
 海香は体を一直線にして流線型を保ちながら、ツキヨミの動きに合わせて体をくねらせた。
 昨日、ツキヨミや他の人魚たちが泳いでいる姿を見て真似た、海香なりの人魚の泳ぎ方だった。
 思ったよりも、上手に体が動く。
 魚神様からヒレは貰えなかったけど、その姿は本当に人魚に近かった。
 昨日よりも楽に海香の手を引けているので、ツキヨミが不思議そうに横目で海香を振り返った。
 そして、海香の泳ぎを見るなりびっくりして、
「すごい! すごいよ、海香! まるで仲間と泳いでいるみたいだよ。
 うまいうまい! 」
と言って、さらに泳ぐスピードを上げる。
 海香も嬉しくなって、懸命にそのスピードについて行った。
 そのおかげで、海底洞窟の真上には、あっという間に着いてしまった。
 ここからは真下に切り込むように泳ぐからねと、ツキヨミに教えてもらって、二人で洞窟の入り口に真っ直ぐ入って行った。
 昨日のホールに着くと、二人はほっとして力を抜き、ふわふわと波に漂いながら休憩した。
「はぁ~疲れた。
 疲れたけど、気持ち良い」
「だけど海香は、本当にすごいよ。昨日とは全く泳ぎが違ってた。
 練習したわけじゃないのにって、びっくりしたよ」
 ツキヨミは本当に驚いていた。
 でもそれにも増して、海香の変化が嬉しいという感じだ。
 それを言葉にして海香に言いたいが、何と言って良いか分からず、ただただ興奮しきっていた。
 海香も、自分で自分が信じられないという感覚を味わっていた。
 ツキヨミが興奮して喜ぶほど思い通りに、しかも上手に泳げた事が、嬉しくてたまらなかった。
 今の自分なら、どんな事でも上手くやれそうな気にさえなっていた。
 一段落してから、二人は大ばあ様の部屋へ向かった。
 大ばあ様のお付きの人魚たちは、昨日よりも慌ただしく泳ぎ回っていた。
「大ばあ様」
 ツキヨミが声をかけると、それに答えるように、大ばあ様は目を閉じたままベッドの上でゆっくりと手を上げた。
「海香は成長しました。
 これなら、悪しき者を見つけるのに、そう時間はかからないと思います。
 魚神様の話では、ぼくや大ばあ様との接触が、海香の感性を高めているようです。
 しばし大ばあ様と語らえば、一段と磨きがかかると思うのです」
「―……―」
 昨日と同様に、大ばあ様の唇が小さく動く。
 ツキヨミが、大ばあ様の口元に耳を寄せる。
「…はい」
 海香はその様子を見ながら、不思議に思っていた。
(そういえば、大ばあ様は心で話をするはずなのに、ツキヨミは何でいつも、口元に耳を寄せるのかな? )
「…え? ……そんな………。
 いえ、分かりました」
 海香がそんな事を考えていると、何やらツキヨミの様子がおかしくなってきた。
「海香、ごめん。
 ちょっと、大ばあ様の部屋で待ってて欲しい」
 ツキヨミは慌ただしく海香に言うと、返事も待たずに部屋から出て行ってしまった。
 取り残された海香は、大ばあ様の部屋の片隅に腰を下ろした。
 しばらくすると、
 ― チャポン、チャポン ―
と、水音の信号が海香の心に届いてきた。
『…海香、海香や、聞こえるかの? 大ばあだよ』
『あっ、はい。海香です。聞こえます』
『わしには、そろそろ皆とのお別れの時が来たようじゃ。
 おまえさんとこうして話すのも、これが最後になるやもしれんなぁ』
『え? 最後だなんて…。
 大ばあ様困ります。そんな悲しい事を、言わないで下さい』
『いや。わしはもう長く長く生きたから、そろそろ海の泡となっても良い頃なんじゃ。
 それはそうと、ツキヨミからお前さんの見た夢について、報告を受けた。
 やれやれ、愚かな者がわしの仲間におったのでは、わしも安心して旅立つ事も出来ん。
 まぁしかし、わしも人魚王として、最後までやらねばならんという事かのぅ』
 大ばあ様は、嘆きのような深いため息をついた。
『実はさっき、この洞窟に住む全ての人魚をホールに集めるようにと、ツキヨミに言い渡したのじゃ。
 そこで、新たな人魚王へ、わしの力と知恵を譲る事になっておる。
 なにやら、悪しき人魚たちは人魚王の座を狙っておるようじゃからな。
 わしの命の終わり時を、その者たちは察しておったのかのぅ。
 事実、それが長きに渡る人魚のしきたりじゃからの、仕方あるまいが…』
『…大ばあ様…』
 海香の目に、じわりと涙が浮かぶ。
『なぁに、悲しむ事では無いのじゃ。
 この海の一部となって、わしはまた一つ神に近づくのじゃから。
 それに海香、お前さんには仕事があるのじゃぞ。
 それは、お前さんにしか出来ない、大事な仕事じゃ。
 そんな事では、成し遂げられん』
『…はい』
『…うむ。
 さっきも言ったが、ホールに全ての人魚が集まり、わしが新しい人魚王を任命した時に、必ずや悪しき者が分かるじゃろう。
 悪しき信号の出ている方向を見て、その者を見つけるのが、お前さんの仕事じゃ。
 ホールは人魚たちで、いっぱいに満たされておるからの。
 悪しき信号を受け損ねたら、すぐに分からなくなってしまうじゃろう。
 どうだ? やれるか? 』
『はい。がんばります』
『うむ。わしとしても、悪しき者に人魚王の座を渡した、なんて事になっては困るからの。
 じゃあ、海香。そばにおいで』
『はい』
 海香は立ち上がって、大ばあ様の横へと進み出た。
『お前さんに、これをやろう』
 そう言って大ばあ様は、小さな二枚貝の貝殻を海香の手に握らせた。
『それを二つに分けて、片一方を口の中に入れて、言葉を話してごらん』
 海香は大ばあ様の言う通りに、貝を二つに分けると、片一方を口の中に入れた。
「―……―」
 すると、大ばあ様の口から出る言葉のように、海香の発する言葉が消えた。
『この貝は、使わぬ時には勝手に口の中にへばり付いておる。
 使う時には、舌の上に戻せばよい。
 それで、間違えて噛み砕いてしまうような事は無い。
 これがこの貝の使い方じゃ。
 そのもう片方の貝は、ツキヨミに渡しなされ。
 あの子には、その貝を使わねばならん意味が分かっておるから』
『大ばあ様、この貝を使う意味って…? 』
『人魚は本来、言葉に執着を持たずに生きてきた。
 用があれば、心で話をする。
 その時には、お前さんも知っての通り、話したい相手に信号を送ってそれを相手が受け止めれば用は足りる。
 もしもその信号を相手以外の誰かが受け止めて、例えば話の内容を聞かれたとて、聞いた方も聞かれた方も別段何も思うことはない。
 それが、わしら人魚じゃった』
 海香は、昨日の鍛錬の時を思い出していた。
 確かに人魚たちは、互いの顔も見ずに会話を楽しんだりしていて、人間とは全く違うと思ったのは、人魚独特のものだったと言われればなんとなく納得がいく。
『しかし、伝説に残るあの大惨事のあたりから、何やらおかしくなったのじゃ』
『人魚伝説の事ですね』
『うむ。わざと自分宛ではない信号を受けて話を盗み聞いたり、信号を偽って流し受け取った者を混乱させる事を話してみたり…。
 そんな事が、度々おこるようになった。
 まあ、わしから送る信号は、人魚王だけが使う事の許された特別なものじゃから、そんな事には絶対にならない。
 もちろん今も、安心して話して良いのじゃぞ』
『あっ、はい』
『しかし、王ともなると、なんびとにも聞かれては困る話を誰かとしなくてはならない時もあるでな。
 常にわしの方から信号を送らねばならんようでは、困る時もあってなぁ。
 つまりは、緊急事態に備えて魚神様から頂戴したのが、このツキヨミ貝なのじゃ』
『え? これがツキヨミ貝なんですか?
 ツキヨミが、名前をもらったと言っていた…』
『そうじゃよ。
 ただ、貝の数は限られておるから、わしとツキヨミ以外にこの貝の存在は知らん。
 これから先、必ずこの貝が必要になるじゃろう。
 大事に使いなさい』
『はい。ありがとうございます』
 海香は、しっかりと残りの貝殻を握り締めた。
『じゃあ、そろそろ任命式を始めるでな。
 おまえさんとは、ほんの短い間だったが、久し振りに人の子に会えてわしは嬉しかった。
 では、しっかり頼んだぞ』
 そう言って大ばあ様は、海香に向かってにっこりと微笑んだ。



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8 コメント

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大ばあ様が・・・・ (如月 恵)
2008-02-21 17:44:46
ランキング1位おめでとうございます!
これからもがんばってくださいね。

それはそうと、今回のお話・・・・・

人魚は寿命がくると泡になってしまうんですね。
何だか寂しけど、海と一体になってまた神様に近づくというのはすごく神秘的ですね。

これからはじまる人魚の大集会で一体何が起こるのか・・・・・。海香とツキヨミの活躍が気になるところです。

個人的にはマサオくんにも活躍してほしいところなんですが
今後に期待です♪
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如月さん、応援ありがと~♪ (ミナモ)
2008-02-21 18:35:21
そうなんですよ~。昨日見たら、ビックリ
1位じゃ~んって(笑)
でも、今日はもう2位ですけど…あはは。
おっと、今気付きましたが、どのランキングサイトなのかを、書くの忘れました
日本ブログ村、児童小説ランキングです。あはは。
直しておきますね

そうなんですよ~。
人魚の最後は神秘的にいきたいって思ってて、人魚姫なんかも最後には泡になっちゃいますけど、このお話では更に神様に近づく…という事にしました。

ちょうどこの頃、私の祖母が他界しまして、なんとな~くダブらせてイメージしてましたね。

この後、如月さんのご期待通り、マサオくん大活躍ですよ~~お楽しみにね

やっぱ、魚神様だよ
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待ってました~♪ (如月 恵)
2008-02-22 00:25:07
やったぁ~!とうとうマサオくんの登場ですね?!
結構マサオくんのファンです

海香に見せる表情と魚神様の時の表情が全く違うというのも彼の魅力の一つですねぇ~。

次回、楽しみにしております!!
返信する
ううっ♪うれしいっ!!! (ミナモ)
2008-02-22 07:31:57
マサオくんってさ、如月さん好みだよね。あはは。

って~事は、私好みでもあるんだよね
マサオくんの活躍、楽しみにしててね~
返信する
Unknown (松果)
2008-02-22 17:26:29
海香が人魚のように泳ぐシーンにため息きれいだろうなあ。
ちょっと前のテレビCMで、女性がイルカと泳ぐ美しい映像があったのを思い出しました。

海香の感性がどんどん鋭く研ぎ澄まされていく~
最期は海の泡に…っていうのは人間から見ると物悲しいけど、人魚のイメージぴったりですね。神に近づく=自然の一部になる、という感じかなあ。
新しい人魚王選び、どうなるんだろう~ドキドキしながら次を待ちます。
返信する
マサオくん活躍!? (らんらら)
2008-02-23 17:24:28
と。まずは。
大ばあ様…淋しいです~。そうか、そのタイミングを計っていたんですね、悪しきものたちは!おかしくなってきたきっかけがあの伝説の時から…なんだか、どきどきですよ、上手くいけば人間と人魚、元の関係に戻れるかも!!っとまずは、目の前の敵、ですよね!!

マサオくん、活躍?どきどき!ランドセル係じゃない姿~♪(笑
楽しみです~!!

おお!?
一位おめでとうございます!!
ようし、今日もポチポチしていきます!
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遅くなってごめんね、松果さん♪ (ミナモ)
2008-02-24 08:38:03
身の回りが、ほんと忙しくって、お返事遅くなりました
松果さんのブログはもちろん、みんなのブログにも行けてない~~。続きがきになるのにぃ…

海香の泳ぐシーン。
リアルに想像してくれたんですね~
ありがとうございます~~

私の中でも、かなり素敵なシーンとしてイメージされてました

そうなんです。
人魚の命は自然の一部となって、この海に存在するっていう感覚で書きました。
人魚自体が神秘的なんですもん、そ~ゆ~終りの方が逆にリアルかな~って

人魚王選び。
それは海香にとっては、試される場でもあるかも。

お楽しみに~~
返信する
らんららさんっ!マサオくん、きますよ~!! (ミナモ)
2008-02-24 10:16:27
そうなんです!
どうやら、悪しきものたちは人魚王の座をねらってるようなんですよ…

あはは。
ランドセル係りで終わっちゃ~、マサオくんファンに怒られそうです
やっぱ、魚神様なんで、キッチリカッコいいとこ見せてもらいましょ

1位ね~。
ほんの一瞬でしたけど、嬉しかったな~。
ココのところ、ずっと不動だった日本ブログ村の童話・児童小説ランキング。
新しい人の参加で、結構揺れ動いてました
ポチありがとございます~
私も、ポチしてま~す
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