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その時、突然マサオが、離れ岩に向かって駆け出した。
びっくりした海香とツキヨミが、マサオを目で追いかけると、一艘の船が光島の影から現れた。
その周りでは、数匹のサメの背びれが大きな円を描いて、何かを取り囲んでいるようだ。
「ツキヨミ、ちょっと待ってて」
海香はそう言って、マサオの立つ離れ岩に向かった。
マサオは腕を組んで、じっと様子を見ているみたいだ。
「あの船、どこかよそから来たみたいね。
魚崎の港にある船は、私全部知っているもの」
海香は、マサオに向かって言った。
マサオは、それには何も答えずに、船とサメの動きを目で追っている。
海香も、海の方へ向き直った。
パシャーン
水しぶきと共に、海面へと飛び上がったのは、ツキヨミと同じくらいの背格好の、人魚だった。
「あっ! 人魚がサメに襲われてるんだ! 」
海香はそう言って、ツキヨミの方を振り返った。
ツキヨミは、
「違う! サメだけじゃないんだ。あの人間達も同じなんだ! 」
と言って、握りこぶしを作った。
そのこぶしが、わなわなと震えている。
「そんな…。もしかしたら、人魚を助けているのかもしれないじゃない」
海香がそう言った矢先に、船から
ズドーン
と大きな音が聞こえた。
しばらくすると、円を描いていたサメが、白いお腹を出して浮かんできた。
(ほら、やっぱり。
きっと漁の途中で、人魚が襲われるのを見て、助けてくれたんだ)
海香がほっとしてツキヨミの所に戻ろうとすると、後ろからもう一度、
ズドーン
と大きな音が聞こえた。
船から網が投げられ、何人かの男たちが、声を掛け合いながら網を引いている。
その網に掛けられて、ぐったりとしていたのは、さっき跳ねた人魚だった。
その光景を見た途端に、海香の足から力が抜け、離れ岩の上にへなへなと座り込んでしまった。
「何て事をしているの…」
海香の目から、大粒の涙が、ボロボロとこぼれ落ちた。
「…―…」
マサオが目をつぶり、また何かを呟いている。
「マサオくん…」
海香が心配そうにマサオの顔を覗き込むと、マサオは顔をそらし、いきなり遊歩道へと走り出した。
「マサオくん! どこに行くの? 」
海香の声に振り向きもせず、マサオはどんどんと階段を登り、森の中へと消えてしまった。
ツキヨミが、必死に海香を呼んでいる。
「海香、早く帰って。海が怒りを爆発させてしまう!
危ないから、早く! 」
「海が怒る? 魚神様の怒りって事なの? 」
「その通りだよ。さぁ、早く森まで上がるんだ」
ツキヨミは傷口が痛むのか、胸を押さえながら海香に言った。
「でも…ツキヨミ。あなたはどうするの?
そんな傷じゃ、泳ぐ事もまともに出来ないんじゃないの? 」
「ぼくの事はいいから。さあ、早く行くんだ」
そうは言われても、すぐに行動には移せずに、海香はじっとその場に立ち尽くし、ツキヨミを見つめていた。
「早く! 」
激しくせかす強いツキヨミの言葉に押されて、やっと海香が扇松を立ち去ろうとした時、
ゴゴゴゴゴゴー
という地響きが聞こえて来た。
「何? この音? 」
海を見ると、ものすごい速さで、一気に潮が引き始めた。
いきなり水が無くなってしまったので、あちらこちらで、苦しそうに魚が跳ねている。
今まで海中で優雅にゆれていたであろう海藻も、ペタリと岩にもたれかかっている。
「あ…波が来るんだ…。大波が来る! 」
海香は、恐ろしさのあまり、もう逃げる気力を失ってしまっていた。
(お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、…ごめんね。
こんな事になる前に、ちゃんと話しておけば良かったよね。
千夏…千夏の言う通りに、小沢先生に相談してから、来れば良かった…)
光島の近くまで引いた波は、高く高く渦巻いて止まると、今度は扇松に向かって、まるで生き物の様に、這って襲い掛かってくる。
海香は目をつぶり、体を硬くして身構えた。
もう少しで、海香を飲み込むという所で、波がピタリと止まった。いや、止まったというより、固まったみたいに宙に浮いている。
海香は、なかなか波が来ないので、恐る恐る目を開けてみてびっくりした。
「え? 何で? どうしちゃったの? 」
波に触れてみると、ガラス細工のように、硬くなったまま止まっている。
「びっくり…。でも私、助かったんだ。良かった…」
海香はほっと胸を撫で下ろすと、
「そうだ、ツキヨミは? ツキヨミー」
と、探し始めた。
「こっちだよ、海香」
固まってしまったのは襲い掛かる波だけで、潮溜まりは元のままだったのが幸いだった。
ツキヨミは、尾びれで水を叩きながら手を振った。
海香は安心して笑顔を見せながら、ツキヨミの所へ駆け寄った。
「ねぇ、これ、どうしちゃったんだろう? 」
「彼だよ」
そう言ってツキヨミが指差す方を見ると、崖の上の松の木の枝に乗って、海を見据えているマサオが目に止まった。
「マサオくん、あんな所に…。
マサオくーん」
「無理だよ。もう彼に声は届かない」
海香が大声でマサオを呼ぼうとするのを遮るように、ツキヨミが静かに言った。
「届かない? 届かないって、どういう事?
ここからなら、じゅうぶん聞こえるはずだよ」
「彼はもう、強い怒りの中にいる。
波を止めたのは、せめてもの、ぼくらに対する彼の気持ちだと思う。
それに、いつまでも波を止めているのは大変な事なんだ。
今のうちに逃げなくてはいけないんだ」
「逃げるって、どこに? 」
「もちろん、海香は陸へ、ぼくは海へだよ」
「そんな事分かってるわよ。
私はともかく、ツキヨミはどうするの?
そんな体で海に逃げたって、元に戻った波に巻かれたら、一体どうなっちゃうのよ。絶対無理だってば」
「分からない…。
だけどぼくは、陸の上では長くは生きられないんだ。
どちらにしても、生き延びるのは無理なんだよ。
こんな事に人を巻き込んではいけなかったんだ。もうぼくの事は忘れた方が良いよ」
その言葉で、海香は大事な事を思い出した。
「そうだ。そうだよ。私に夢の中で助けてって言ったのは、ツキヨミ、あなたでしょ?
人の力がいるって…。
私、その言葉でここに来たんだよ。あなたの事を助けたくて…。
それで…私に何が出来るのかは分からないけど…。
でもね、おばあちゃんから人魚伝説を聞いた時からずっと、人魚と人がもっと仲良く出来たらって、私は思ってるの。
そのためなら、私…私…力になるから! 」
「…」
「ツキヨミ! 」
「…うん。…分かった。海香がそこまで言ってくれるなら、ぼくに力を貸して欲しい」
ああマサオの正体ってやっぱり…
潮が一斉に引いてしまって、大波というより津波が来るのでしょうか?
海香とツキヨミ、無事に避難できるのか
すごく心配
早くも12話がアップされてますね。
うう、コメントはまた後ほど~
マサオくんは…なんですねぇ。
いいんですよぉ。今回は、かなり長く出してますんで、ゆっくりお読みくださいませ
海香とツキヨミは、無事に避難できるのかは、気になるところむふふ。
次話をお楽しみに~