文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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彗星パンスペルミア

2017-06-20 12:39:41 | 書評:学術教養(科学・工学)
彗星パンスペルミア
クリエーター情報なし
恒星社厚生閣

・(著)チャンドラ・ウィックラマシンゲ、(訳)所源亮、(監修)松井孝典

 本書は、生命の起源について考察を行うものだ。タイトルの「パンスペルミア」というのは、生命の起源を地球外に求めるという仮説、そして「彗星パンスペルミア」というのは、地球生命は彗星によってもたらされたという主張である。

 確かに、生命の起源を地球内に限るという必然性はどこにもない。広大な大宇宙のどこかで発生してそれが地球にもたらされたとしても驚くには値しないだろう。もちろんそれは、原初生命である微生物レベルでの話だ。本書の大部分はその原初生命の源が宇宙にあることを証明しようとしている。

 しかし本書を読むといくつかの疑問点が浮かんでくる。生命の起源が宇宙だとしたら、それは宇宙のどこなのか。宇宙に始まりがある以上、生命にも、それが生まれた場所があるはずだ。例え地球生命が彗星からもたらされたとしても、いったいどこに初めての生命が生まれえる環境があるというのか。

 次に本書がその存在を証明しようとしているような微生物と人間や動物のような高等生物の間には大きなギャップがある。しかし、本書では、そのギャップを埋めるのが、宇宙から飛来したウィルスや最近によってもたらされる遺伝子による突然変異だと言っている。つまり進化も宇宙からもたらされたと言っているのだ。

 しかし、高等生物はいずれも地球環境に適応した結果今のようになっているはずだ。地球環境に適するように進化する遺伝子が、そう都合よく宇宙からやってくるものだろうか。もし著者の主張するように、無限の宇宙から、あらゆる可能性のある遺伝子が供給されたというのなら、現在でもそのような徴候が見つかるはずだが、寡聞にして聞いたことがない。

 著者は、地球での大幅な進化を否定する根拠として、中間化石が見つかっていないことを挙げる。しかし、化石というのは、残っている方が奇跡に近いし、始祖鳥や羽毛恐竜などの化石はどう評価されるのだろうか。

 生物はそう簡単には進化しないというが、例えば「犬」はどうだろう。セントバーナードとチワワを昔の人が見たら同じ「犬」と思うだろうか。また江戸時代に我が国で流行したという「変わり朝顔」などはどうなのか。生物の形態というのは、地質学的な悠久の時間をかけなくとも驚くほどの変化をするのである。これが何億年という時間を経れば、外から遺伝子の供給など受けなくとも、種が分化していくということは、あり得なくはないと思う。

 最後に、この手の話は好きなはずだが、読んでいるうちに何度か寝落ちしてしまった。どういうわけか読みにくいのだ。その原因を考えてみると、不必要なほど「,」が多く、文章が終わったかと思ったらまだ続いていたというようなことが多かったことも一因のようである。「,」は息継ぎのような役割(黙読の場合が多いだろうから、精神的な意味で)があると思うのだが、これだけ多いと「過呼吸」になってしまいそうだ。

☆☆☆

※初出は、「本が好き!」です。
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