沼地のある森を抜けて (新潮文庫) | |
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新潮社 |
梨木香歩の「沼地のある森を抜けて」(新潮文庫)。本書は、以前放送大学の面接授業「微生物学の基礎と応用」を受講した際に、講師の方が発酵に関する参考文献として紹介されていたたので、興味を持ったという訳である。
確かに、発酵のことや粘菌のことなど、興味深いモチーフが織り込まれて、微生物学的な目で見れば、なかなかためになる内容だろう。しかし、小説として読んだ場合は、なかなか奇妙な話である。いわゆる「ヘンな本」に分類しても違和感はないだろう。
この物語の中心となるのは「ぬか床」だ。それもただの「ぬか床」ではない。主人公の久美の家に先祖代々伝わる「ぬか床」なのだ。久美の母親の死後、下の叔母が引きとっていたが、その叔母の死により、久美が「ぬか床」を管理する事になってしまった。
ヘンなのは、その「ぬか床」からが人間が湧いてくるということだ。いつの間にか「ぬか床」の中に、卵のようなものができて、それが人になるらしい。久美の両親も、「ぬか床」を預かっていた叔母も、どうも「ぬか床」のせいで死んだようだ。正に呪いの「ぬか床」。こんなものが実際に家にあったらいやだろうな。しかし、全体を流れる雰囲気は、恐怖感など微塵もなく、むしろコミカルでさえある。
最後は、この「ぬか床」のルーツである島に、「ぬか床」を返しに行くことになるのだが、このあたりは、生殖ということに関する哲学的な雰囲気さえ感じさせてくれる。
それにしても、作者は、「ぬか床」ひとつで、よくこんな珍妙な話を作り上げたものである。その想像力には脱帽だ。
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