文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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強き者の島 (マビノギオン物語4)

2017-08-03 17:29:49 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
強き者の島 (マビノギオン物語4) (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・エヴァンジェリン・ウォルトン、 (訳)田村美佐子

 グレートブリテン島のウィールズ地方に伝わるケルト神話である「マビノギオン」。「マビノギオン」シリーズは、この神話に題材をとったファンタジーだ。本書の元になっているのは、「マビノギ四枝」と呼ばれる4つの物語のうちの最後のひとつである。

 この作品世界では、魔法は存在するのだが、多くの神話がそうであるように、神々の時代から、既に人間の時代に入っているように思える。そしてこの巻で描かれるのは、グウィネズ王マースの甥で王位継承者となるグウィディオンの物語だ。

 古き民の治めるグウィネズでは、王位は、自分の姉妹が産んだ男子に継承させる。その理由は、姉妹の子供なら確実に血統が繋がっているからだ。要するに、母親は、確実に自分の子だということが分かるが、なにしろDNA鑑定など無い時代のこと。父親は必ずしも生まれた子が自分の子だという保証はないし、そもそも古き民の間では、子供がどうやって生まれるのかということについての正しい知識もなかったようなのである(それでもやることはしっかりやっていたようだが)。

 グウィネズで面白いのは、「足持ち乙女」という役職があることだ。これはただ王の足を膝に乗せて、痒かったら掻いてやるやるというのが仕事のようだが、これがグウィネズの高貴な女性たちには大変な名誉だったらしい。もちろん、「乙女」というからには、「処女」であることが条件となる。

 ところが、グウィディオンの末弟ギルヴァエスウィがこの足持ち乙女のゴエウィンに恋をしたからさあ大変。グウィディオンは弟に思いを遂げさせるために計略を立てるのだが、その計略というのがダヴェド大公のプラデリを騙して豚を盗んでくるというもの。豚を連れて逃げる途中、グウィディオンの子分たちが、豚食わせろとブーブー言っていたが、いったいどれだけ豚が好きなんだと笑ったのは余談。

 マースが、プラデリとの戦のために足持ち乙女から離れた隙に、ギルヴァエスウィは思いを遂げるのだが、もちろんバレてしまう。マースがグウィディオンとギルヴァエスウィに与えた罰というのがすごい。魔法で、二人を3年間の間に毎年鹿、豚、狼のつがいに変えて、息子まで作らせるのだから。

 ところで、問題はここからだ。これまでのシリーズでは、美しい女性がヘンないじめられ方をするといった話が多かったのだが、この巻では、シリーズ最悪のビッチというべき女性が登場する。それが、グウィディオンの妹のアリアンドロだ。彼女を一言で表せば、「外面如菩薩内面如夜叉」。

 ゴエウィンがギルヴァエスウィによって純潔を汚されたために、別の足持ち乙女を探さないといけない。アルアリアンドロは自分がその足持ち乙女になろうとするが、実は乙女ではなかったというオチ。魔法の杖を跨がされたアリアンドロは、二人の息子を産み落としてしまうのだ。

 実は、アリアンドロはグウィディオンの最愛の妹だったので、どうしても彼女の産んだ息子が欲しかったグウィディオンが、こうなることを見越して誘導したようなところもある。しかし、面目を潰されたと怒るアリアンドロがなんともすさまじいのだ。グウィディオンが育てた息子には、次から次に呪いをかけまくるし、もう一人の息子にいたっては、計略を用いて、自分の兄に彼を殺させてしまう。そして、最後には、自分の館のある島まで海に沈めることになった。神話の時代から「悪女」というのはいたようである。

 しかしグウィディオン、そんなに自分の血を引いた後継ぎが欲しかったんなら、罰を受けて動物に変えられていた時に、自分が産んだ息子がいたじゃないかと思うのだが。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

〇関連過去記事(「風竜胆の書評」へリンク)
翼あるものたちの女王 (マビノギオン物語3)
スィールの娘 (マビノギオン物語2)
アンヌウヴンの貴公子 (マビノギオン物語1)
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