電脳アニメパス

アニメ及び周辺文化に関する雑感

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

劇場版『AIR』とTV版『AIR』・国崎往人編

2005年03月24日 | アニメ
 原作と劇場版で一番立場の異なっているキャラは国崎往人でしょう。原作はゲームと言う媒体の性質上、主人公はプレイヤーキャラとなります。しかしながら、RPGなどとは違ってビジュアルノベルという分野では主人公が主体的に選択できる行動の自由度はあまりありません。用意されたシナリオの想定以外のことは出来ないのです。
 このゲーム版の往人はゲームにおいてはプレイヤーに対するインタフェースとして存在していると言えます。インタフェースであるゆえに2つの主体、ゲームシナリオとプレイヤーを結びつける補助的な役割でしかありません。往人は決められたシナリオ通りにしか動けないし、プレイヤーは往人の目を通してしか作品世界を覗くことは出来ないのです。
 一方、劇場版はどうでしょうか。確かに映画という媒体において観客は物語の展開にいっさい関わることは許されず、ただそこで展開される物語を目撃することしか出来ません。そして、そのために往人というキャラは観客とは切り離された完全に別個の作品上のキャラクターでしかありません。用意されたシナリオは一種類、一直線に走り抜けること以外はできません。
 では、劇場版の往人は本当に観客からは隔絶された存在なのでしょうか? 違います。劇場版の往人は観客の代行者なのです。確かに映画という媒体では一種類のシナリオによってすべてが規定されてしまっているかのように見えますが、往人というキャラとシナリオの関わり具合がゲームと劇場版では異なっているのです。
 ゲームのシナリオは往人を(さらにそれを通じてプレイヤーを)作品に巻き込むためのシナリオであり、それは往人の主体性を奪っているシナリオです。それとは逆に劇場版のシナリオは往人の主体性を中心にしたシナリオなのです。プレイヤーとのインタフェースとしてのゲームの往人は、そのインタフェースとしての役割を果たすために主体性の無い不自由な存在でしかないのですが、劇場版の往人は作品の主人公として主体的に描かれているのです。

 ゲームにおいてプレイヤーは国崎往人というインタフェースを通じて物語を体験します。その体験がプレイヤーのものなのか、往人のものなのかは曖昧なものです。プレイヤーが往人というキャラにたいして持つ意識は、(ゲームのシステムとして強引に規定されたものであっても)自分の不完全な分身としての存在でしかありません。
 一方、劇場版における国崎往人は観客にとってはまったくの他者でしかありません。しかし、主体的に作品に関わってるい往人は、観客にとって十分に感情移入の対象となる存在なのです。

 さて、翻ってTV版はどうでしょうか。選択肢の無い1種類のシナリオのみが用意され、視聴者と分かたれた存在であることは劇場版と同じです。しかし、TV版の国崎往人に視聴者の感情移入を呼ぶだけの主体性は感じられません。おそらくゲームのインタフェースとしての主体性の無い往人がそのまま再現されているのでしょうが、TVアニメという媒体ではどうがんばったところで視聴者がこのインタフェースと結びつくことはありません。視聴者にとっての往人は観鈴や佳乃や美凪と同じく、一般の登場キャラクターの一人にすぎなく、劇場版のように観客の代行者という立場にはなりえていないのです。
 TV版をゲームのダイジェストストーリーのような感覚で見ている人には問題無いのでしょうが、まったく新規のアニメ作品として見ている人にとっては、これは致命的です。視聴者を置き去りにしてどんどん進むストーリー、与えられた役目だけを黙々とこなすキャラクター……それらを何らかの他の手段で補完出来なければ作品を楽しむことは出来ません。
 ま、最初から作品について来れないような人は単純に見るのをやめてお終いだから、そういう立場の反応なんて表に上がってこないのはこの作品に限ったことでもありません。ネットの感想見たらゲーム経験者らしき割合が多いように見受けられるというのは、逆に言えばゲームをしたことのない人の反応が相対的に少ないだろうということだし、それがなぜかと言うことを考えたら、ゲームをやっていない人には反応しにくい作品なんじゃないかという気がします。
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 週刊アニメ定点観察 Vol.433 ... | トップ | 週刊アニメ定点観察 Vol.434 ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。