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鬼平犯科帳と池波正太郎_その3_平蔵と密偵たち編

2012年09月03日 | Weblog
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平蔵と密偵達編(文春文庫「鬼平犯科帳の世界」より)

◆長谷川平蔵宣似(はせがわへいぞうのぶため)

 若いころの名は、銕三郎(てつさぶろう)、父、宣雄(のぶお)が手をつけた、下女お園との間に生まれる。お園は平蔵を生んでまもなく死亡、平蔵は17歳の 夏までお園の実家(祖父宅)で育つ。のちに長谷川家に迎えられるが、義母、波津(はつ)は何かにつけて「妾腹の子」として平蔵をいじめぬく。そのことへの 反発もあって、入江町の屋敷を飛び出し、本所・深川界隈を根城に[入江町の銕]とか[本所の鬼銕]などと呼ばれ放蕩無頼の青春をおくる。

 そのうち父・宣雄が亡くなり、400石の旗本長谷川家を継ぐ。そして、御先手弓頭をつとめていた、天明7年(1787)9月、加役として[火付盗賊改方] の長官(おかしら)に就任、途中、その任を一時はずれることもあるが、8年の永きにわたって、[鬼平]と盗賊どもに恐れられる活躍をする。このとき平蔵 42歳、小太りの、おだやかな顔貌で、笑うと右の頬に深いえくぼが生まれたという。※平蔵は実在の人物です。

 (六巻)狐火より
   平蔵が、忠助の居酒屋でとぐろを巻いていたころ、おまさは十二か十三の少女であった。
   「そりゃあもう、あのころの長谷川さまときたら、火の玉のように威勢がよくて、土地の悪(わる)どもがちぢみあがっていたものなあ。
   博打は強いし、酒の飲みっぷりなんてもなあ惚れ惚れしたもんだ。一升かるくあけて、こう脇差を落し差しにしてよう。
   彦十ついて来い!!・・・・・・・・・なんてね。・・・・・こともあろうに盗人(ぬすっと)のくずれのおれとお前が、火盗改メのお頭になった
   銕つぁんの手伝いをすることになろうたあ、こいつはまったく、夢にもおもわねえことだったなあ」

◆密偵たち

 鬼平ではたくさんの密偵が登場します。その中でも登場回数が多く、平蔵が最も信頼している6人の密偵を紹介します。

相模の彦十(さがみのひこじゅう)

 元は本所の松井町一帯の岡場所に巣喰っていた香具師(やし)あがり無頼者。平蔵より10歳ほど年上だが、若い頃の平蔵が、「本所の鬼銕」とか、「入江町の 鉄」と呼ばれて、放蕩の限りをつくして頃の取り巻きの一人。二十数年ぶりに平蔵と偶然再会し平蔵から頼まれて密偵になった。

 (一巻)本所・桜屋敷より

   「おい、彦や」
   長谷川平蔵が笠をとって声をかけるや
   「あっ・・・・・・」

   彦十は素袷(すあわせ)一枚の尻を端折(はしょ)りという見すぼらしいやせこけた躰をがたがたふるわせ
   「て、て、銕さんじゃ、ござやせんかえ?」
   「おう。よく見おぼえてくれたな
   「ほ、ほんとうね。ほんとかね。」-中略-

   別れぎわに、平蔵は現在のわが役目のことを彦十にうちあけ、彼をおどろかせたが
   「むかしなじみにもどり、ひとつ、おいらを手助けをしてはくれめえか?」
   平蔵が、むかし彼等と交際(つきあい)してときのままの伝法な口調でたのむや、彦十め、たちまちに双眸(りょうめ)をかがやかせ
   「へい、へい、なんでもやります。なんでもへい、お申しつけ下せまし。入江町の銕さんのお んためなら、
   こんなひからびたいのちなんぞ、いつ捨てても惜しかあねえ」

小房の粂八(こぶさのくめはち)

 初登場時は野槌の弥平一味で捕縛され、平蔵のすさまじい拷問を受け、一味のすべてを白状、その後、入牢していたが、かつての親分であった血頭の丹兵衛の名 を汚す凶賊の探索を志願し放免され密偵になる。「暗剣白梅香」以後、深川町石島町の船宿[鶴や]の亭主を平蔵から命ぜられ、そこを基盤に密偵活動を続けて いる。

 (一巻)血頭の丹兵衛より

    しかし、粂八は「にせもの」だといいきっている。それなら何もかばいたてすることもあるまい。
   平蔵の推考がが目まぐるしく変転しはじめたときであった。
   「長谷川さま・・・・・・」

   小房の粂八がぐいと内側から牢格子に顔をさしつけてきた、
   「血頭丹兵衛の名をかたるにせものの化けの皮をひんむいてやりてえと思います」
   押し殺したような声で、一気のいったものである。平蔵は、粂八を凝視した。
   生き残った一匹の虫のか細い声が、牢屋のどこかでしている。
   「よし」

   長谷川平蔵の決意は、ここに牢固たるものとなったようだ。
   「さぐって見てくれるか」
   「はい」
   「しかし、お前が盗賊改方の密偵なることは、盗賊仲間から見れば汚らわしい狗になることだぞ」
   「ですが、わっしには恩義のある血頭の大きな名をかたる野郎をそのままにしてはおけねえ、これも仲間内の掟でごまいますよ」

   「なるほど」
   「この御用がすみ次第、わっしは、ここへ戻ってまいります。このことだけははっきりと
   いま長谷川さまに御約束しておきますぜ」
   「よろしい」
   と、うなずいた平蔵が-中略-
   翌朝になると小房の粂八のすがたは、役宅内のどこにも見えなかった。

おまさ

 若いころの平蔵が出入りしていた、本所・四ツ目の[盗人(ぬすっと)酒屋]という居酒屋の亭主で、鶴(たずがね)の忠助という盗賊の娘。当時、おまさは十 かた十一の少女であったが、そのころより平蔵におもいを寄せていた。その後、亡父の関係から盗賊の世界に入っていたが、旧知の平蔵が長谷川平蔵が火付盗賊 改方長官に就任した知り、盗賊の足を洗い、平蔵のために密偵となった。

 (四巻)決闘より

   そのおまさに、平蔵が二十余年ぶりで、再会したのは、去年の十二月初旬の或日のことだ。おまさのほうから、
   役宅へ名のり出て来たのである。
   亡父・忠助のころからの関係でこの道へ入ってしまったおまさは、旧知の長谷川平蔵が火付盗賊改方長官に就任したと知り、
   (ここがしおどき。どうせ足を洗うなら、銕さん・・・・・・いえ、長谷川さまのためにはたらきたい)と、おもいきわめ

   (それなら、死んだお父つぁんもよろこんでくれよう)
   かねてから盗みの世界に愛想をつかしていただけに、おもさは決心すると、
   「居ても立ってもたまらくなり・・・・・」
   おもいきって、役宅をたずねて来たのだと、平蔵に語った。-中略-

   しばらくは、自分のところへ引きとり、そのうちに適当な相手を
   「見つけてやろう」
   と、平蔵はおまさにいったが
   「もう、男はこりごりでございます」
   おまさは笑って、うけつけようともしない。

大滝の五郎蔵(おおたきのごろぞう)

 若いころ、大盗・蓑火(みのび)の喜之助のもとでみっちりと修行をつみ、のちに独立して。本格派盗賊の首領となった。「敵」事件で平蔵に命を救われ、宗平 のすすめもあって密偵となる。「鯉肝のお里」事件で長期の張り込み中に肌身を許し、後に平蔵仲人でおまさと結婚。大柄な身体つきで、腕っぷしも強く、沢田 から捕縛術や棒術を仕込まれており、捕り物の時にも活躍する。密偵たちのリーダー格である。

舟形の宗平(ふながたのそうへい)

 五郎蔵と同じく元々は蓑火の喜之助配下であり、若いころの大滝の五郎蔵は何かにつけて、宗平の厄介になっていた。初鹿野の音松の盗人宿の番人をしていたと ころを捕縛され密偵になり、五郎蔵と義理の親子の盃を交わす。本所の相生町で煙草屋を構えながら火盗改の探索に協力している。五郎蔵とおまさが結婚し3人 で暮らしている。

 (四巻)敵より

   大滝の五郎蔵は、[火盗改方]の役宅に引き立てられたが、そこになんと舟形の宗平老人が
   待っていたのには瞠目したのもだ。
   長谷川平蔵が笑って、五郎蔵にこういった。
   「お前の跡を。三国峠からつけていたのは、ここにおられる岸井左馬之助殿という剣術の名人な
   のだよ。お前のうごきは、もうすっかり、こっちにわかっていたのだ。舟形の宗平を捕まえたのも、
   このおれさ。宗平が、すっかり、おれにはなしてくれたよ。お前と五井の亀吉父子(おやこ)のいきさつを
   な。だから、かたきを討たせてやったのだ。」

   「へ、へい・・・・・・・まこにもって、おそれ入りましてござります」
   と、五郎蔵は感涙にむせんだそうな。
   「どうだ五郎蔵」
   「は、はい・・・・・・?」
   「-中略-おまえは亀吉の子の与吉を、おのが手にかけてしまった」-中略-
   「ただもう、悔やむばかりで・・・・この上は、一日も早く。お仕置きおねがい申し上げますので
   ござります」-中略-

   「与吉の供養とおもい。生まれ変わって。世のため、人のためはたらけ」
   「え・・・・・?」
   「では、密偵(いぬ)に・・・・・?」
   「盗賊仲間ではいぬとよぶそうな。なれど、この平蔵と共に、いのちがけではたらくことに変わりにはない。どうだ?」
   「へ、へい・・・・・・・」

   「すでに、舟形爺つぁんは承知してくれたぞ」
   「え・・・・・」
   宗平老人が頬笑みつつ、五郎蔵にへ何度もうずいて見せた。
   「と、爺つぁん・・・・」
   「この、長谷川さまのおために、やろうじゃあねえか、五郎蔵どん」
   「よし、きまった」
   と長谷川平蔵、にっこりして、同心酒井裕助に
   「さ、早く盃の用意をせよ。宗平と五郎蔵は、いまこのときより、義理の親子の縁(えにし)をむすぶのだ」

伊三次(いさじ)

 四ツ屋の島五郎という盗賊の下で急ぎばたらきをしていたときにお縄になり、平蔵の人柄に心服し、説得され密偵になる。役宅内の長屋暮らしで木村忠吾の相棒 的存在で、困難な探索が続けられているときも、「なあに、もう一息だ。いま少しでござんす」と明るく同心を励ます存在であった。かつて妻を寝取られ、自身 も伊三次に殺されかけた強矢の伊佐蔵の報復を受け死亡(文庫14巻の「五月闇」)。※池波は、伊三次が密偵になったいきさつを詳しく書いてない。

何故伊三次を殺したか、池波のはなし
  たとえば[鬼平]の中の一編で密偵の伊三次が殺されてしまうってのがありますが、読者のファンが多かった人物なので、なぜ殺させたんだという投書が来た。 ぼくだって死なせたくないのですよ。しかし、いま言ったように、彼が危急の状態に陥ったき、ぼくは彼の逃げ道を用意してなかったのですね。だからそんなと こまでに彼を追いこんでしまったことを悔やみながら、もう助けようがないんです。-中略-
 助かるはずもないのに無理に助けようとすれば、その小 説が嘘になってしまう。初めから作り話を書いてて、いまさら嘘だもないようなもんだけれど、やはり不自然な話になっちまうんですよ。言ってみれば、彼らが 危難にあうのも、彼らの過去とか性格とかかがぬきさしならないものとなってしまっているからではないかなあ。※過去:伊佐蔵の妻殺しのことではないかと推 察する。

◆(12巻)密偵たちの宴より 

 ここいる6人は、自らの手で掟を汚したことが一度もない。それだけに、このごろの盗賊たちが、盗(おつと)めの芸を重んじることなく、平然と殺傷をおこない金品さえ強奪すればよいという畜生ばたらきへのめりこんでしまっていることに、彼らは激しい怒りをおぼえていた。
 ※6人:彦十、おまさ、粂八、五郎蔵、宗平、伊三次。
 ※掟:盗みの三カ条、
    一、盗まれて難儀をする者へは手を出さぬこと。
    二、つとめするときは人を殺傷せぬこと。
    三、女を手ごめにせぬこと。を守ること。


  盗賊だった彼らを捕えた長谷川平蔵が
  (これなら・・・・・・・・)
  と、見きわめをつけ、密偵へ転向をすすめたとき
  「おれはな、お前たちのような盗賊ばかりなら、むりをしてまで御縄にかけようとはもわぬ」
  と、いいさらに

  「知っててのとおり、近年は、お前たちがいうところの畜生ばたらき、畜生盗(つと)めが多くなり、やたらに無辜(むこ)の人びとの血が流れる。
  おのが犯行の証拠を消すために、押し込み先の人びとを皆殺しにして逃走する盗賊が増えるばかとなった。
  これは何としても防(ふさ)がねばならぬ。おれとお前たちと、立場はこそちがえ、やつどもの残酷なる所業については、
  これを断じてゆるせぬとおもうこころは一つであろうとおもう。どうじゃ」
  誠心をこめ、諄々と説いたのである。

 密偵たちの宴で「それにしても、近ごろは、ひどい盗めばかりだ。おれたちの盗みがどんなものだったか、やつらに見せてやりたいものだ」と大滝の五郎蔵がい い出したのがきっかけになって-中略-おまさは反対するが、この6人は悪徳金貸業の医者竹村幻洞宅へ忍び込み850両の大金をせしめ、その後、この盗んだ 金を竹村幻洞へかえし、あざやかに本格な盗人技が成功する。

 竹村幻洞へ盗んだ金を返してから5日目に6人の密偵が集まり宴がはじまった。

  彦 十  大滝のお頭。まあちゃんはまだ帰らないのかね?  ※大滝のお頭:五郎蔵、まあちゃん:おまさ。
  五郎蔵 御役宅へ寄って帰るといっていたが、それにしても、おそい。 ※御役宅:長谷川平蔵の役宅。
  宗  平 なあにもおうじき帰って来るさ。それよりも、そろそろ、はじめようじゃないか。

  と、宴がはじまる、盗みの自慢ばなしで、盛り上がっているさなか、おまさが役宅から帰ってきます。

  粂 八  何があったんだ、おまささん
  おまさ  帰りぎわに、長谷川さまによばれました。
  五郎蔵 え・・・・・・・・・。
  おまさ  御居間に通されました。」
  宗 平 ふうむ・・・・・・。

   おまさ  長谷川さまは、私に、奥さま手づくりのお汁粉をごちそうしてくれたんです。
  五郎蔵  なんだな、お前。そんなことか・・・・・・・・。
  おまさ   そして、こういわれましたよ。
  五郎蔵  何をだ?

  おまさ   帰って、五郎蔵によくいうがよい、って・・・・・。」
  五郎蔵  私に?
  おまさ   もし万一のことあって、わがふところに抱きぬくめている者のお失敗(しくじり)があるときは、
        主人(あるじ)たる者が腹を切って申しわけをせぬばならぬ、と・・・・・・・・・。
  五郎蔵  げぇっ・・・・・・・・・。

  おまさ ほれごらんなさい。お前さんだって、青くなった。粂八さんも伊三さんも、
       宗平小父さんも彦十小父さんも、ほれほれみんな青くなった・・・・・・
       だから、いわないことじゃやあない。・・・・・・・・・・・・長谷川平蔵さまを、あんまり甘く見てはいけないてことが、
       今度はよくよく、わかりなすったろう。さ、彦十小父さんお酒をついで下さいよ、
       ええまあ、ぶるぶる手をふるわせて、何というざまだろうねえ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
       ええ、もうこうなったら、酔いつぶれるまでのんでやる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
       ※このとき、五郎蔵とおまさは夫婦。

以下、鬼平犯科帳と池波正太郎_その4_その他登場
 

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