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鬼平犯科帳と池波正太郎_その5、名場面編

2012年10月02日 | Weblog

山の案内

「五巻兇賊」より

◆はじめに

 鬼平犯科帳の数ある名場面の中から、一生懸命生きている市井の庶民へたいする思いやりのある、優しい心根と、兇賊に対する、恐ろしいほどの怒りで成敗する、平蔵の二面性が見られる「兇賊」を名場面として紹介したい。

◆あらすじ

 鷺原の九平は、一人働きの盗賊で、江戸で芋酒がうまいと評判の「加賀や」を営んでいる。その九平がふるさとから江戸へ帰る途中、江戸から北陸道110里の倶利伽羅峠で平蔵暗殺を企てる二人連れの話を聞く。その二人連れこそ兇賊網切の甚五郎だったのである。

 網切の甚五郎は、向島の茶屋「大村」の主人、奉公人全てを惨殺して乗っ取り、鬼平の暗殺を企てる。そして、ある日、2000石の大身旗本、最上堅物の名をかたり、甚五郎の手下がなりすました、側用人から、もめごとの相談があると、「大村」に呼びだし出される。

 平蔵は、まんまと甚五郎の罠にはまり、危機一髪のところを、甚五郎の企てを知っている、九平の自白を聞いた、当直の与力佐嶋忠介、同心酒井裕助や7名が馬をとばし駆けつけ、網切一味の背後から飛び込み平蔵を助けたのである。九平は平蔵の命の恩人となり、このとき、甚五郎は仲間と逃げている。

◆平蔵が市井の庶民への優しい心根で思いやるシーン

鬼平は芋酒がうまいとの評判を聞き立ち寄り、芋なますが旨かったので・・・・・・・

「うめえぞ。こいつを女房のみやげにしたい。何か入れものにつめてくれ」
さむらいは金一分を九平にわたした。一分といえば現代の一万円以上になろう。
「それで足りるか」 
「とんでもござんせん。いまおつりを・・・・・」
「いらねよ」

−中略−
このさむらいが火盗改方の長官(おかしら)・長谷川平蔵の巡回中の姿とはおもいもよらない。

−中略−
「じいさん。熱くしておくれ」
と、柳原土手をまわって客の袖をひいている夜鷹のおもんが顔を見せた。

−中略−
頬かむりの手ぬぐいをとった顔は、しわかくしの白粉(おしろい)をぬりたくられ、灯りの下では、とてもまともに見られたものではない。

−中略−
「おそくまで大変だな」
平蔵がこだわりもなくおもんへ声をかけ、九平に
「おやじ。この女に酒を・・・・・・おれがおごりだ」
と、いったものだ。
「あれ・・・・」
と、九平よりおもんがびっくりして、
「すいませんね」 
気味のわるい色目を使いはじめる。

−中略−
「おれも年齢(とし)でな。そっちのほうは、もういけねえのさ」
平蔵はおもんに語りかけて、
「ま、だからよ、躰があったまるまで、ゆるりとのんで行きな」
声に情がこもっている。
「すいませんね」
おもんの眼から[商売]が消えた。

そのかわり年齢相応の苦労がにじみ出た。しんみりとした口調になって、
「旦那。うれしゅうござんすよ」
「なぜね?」   
「人なみに、あつかっておくんなさるから」
「人なみって、人ではねえか。お前もおれも、このおやじも・・・・」
見ていて聞いていて。九平は
(この浪人さんは、大(てえ)したお人だ)
いっぺんに平蔵に好感を抱いてしまった。

−中略−
おもんが先へ出て行くとき、
「はなし相手になってくれて。おもしろい時がすごせた。ありがとうよ」
平蔵はおもんへ、いつの間にしたものか紙へ包んだ金をわたしてやった。
「こんな、旦那・・・・・すっかり御馳走になった上に・・・・・・」
「いいから、とっておいておくれ、お前はそれだけのことをしてくれたのだよ」
おもんは泪をぐみ、深ぶかとあたまを下げ、土手の暗闇に消えて行った。

「いいことをしておやんなさいました」
九平がいうと平蔵はこともなげに
「当たり前のことさ。あの女は、おれの相手をしてくれたのだ」
と、いった。

◆平蔵が、恐ろしい程の怒りで兇賊を成敗するシーン

それから約半月のことである。
−中略−
倶利伽羅峠の地蔵堂前へ、石動の街からのぼりつめて来た三人の旅の男があった。
−中略−
「ここまで来りゃあ、もうこっちのものだ」
と、一人がいった。こやつ文挟の友吉である。

「それにしても、ここまで、ぬけ道をたどって逃げて来たのだから、
ずいぶん手間がかかりましたね」
こういったのは、野尻の虎三だ。
残る一人が傘の内で、
「わけもねえことさ」
と、いった。
網切の甚五郎である。

−中略−
「火つけよ。それも大がかりな。今度はこっちも。向島の大村で十五人も火盗改メの手にかかってしまったが・・・・・まだまだ網切一味の人数は五十をこえる。あのとき逃げたものも。おそらく捕まっていめえ」
「そいつは大丈夫でござんす」
「どうだ、おもしろいだろう。江戸中を火の海にして、おもうさま、あばれまわるのだ。鬼平も目をむくぜ」

−中略−
「あの晩に、どうして火盗改メが向島へ駆けつけて来やがったのか、そいつがわりませんねえ」
「そうさ。平蔵がこっちの裏をかくつもりなら、七人ばかりの人数で打ちこんで来やしねえものな。そこが、おれにもわからねえ」
実にその時であった。

地蔵堂のうしろの木立の中から、
「いま、わからせてやる」
凛然たる声がかかったのである。
これには、甚五郎たちも仰天したらしい。

ぱっと立ち上がった三人が脇差しを引き抜いて、
「だれだ」
「長谷川平蔵さ」
木立の中から身を起こした人影が五つ。
平蔵に酒井、竹内、沢田の三同心と。そのうしろから、鷺原の九平。
「それっ」
平蔵の声に、三人の同心が大刀をぬきはらって峠道へ飛び出し、甚五郎たちの退路をふさいだ。

「や、野郎・・・」
網切の甚五郎が獰猛な顔つきになり、歯をむき出して、
「は、はかりやがったな」
「これ甚五郎、きさまが江戸へ出て来るとき、ここを通ったとなあ」
「な、なんだと」
「それをな、このおやじが、あの木の陰で見ていたのだ。きさまたちのはなし声もきいたそうな」

−中略−
「このおやじのことばをたよりに、一昨日から網を張っていたのだ」
がらり。平蔵の口調が変わって、
「てめえ、死ぬのだ」
「な、なにをくそ・・・・・・」
甚五郎が、笠をはねのけて脇差しをかまえたとき、平蔵はこれに見向きもせず、右手にいた文挟の友吉めがけて走りかかり、ぬき打ちをかけた。

「あ・・・・・」
友吉の手から脇差しが落ちた。
のめりこむように倒れ伏した友吉をかえり見て
「峰打ちだ」
と、平蔵がいった。友吉の白状によって、網切一味の全貌をつかまねばならないのである。

−中略−
身をひるがえして逃げにかけた甚五郎の前へ、一刀流・免許皆伝の同心で、平蔵が
「まともに斬りあったら、おれもかなうまい」
と、折紙をつけたほどの沢田小平次が大刀をかまえて立ちふさがり
「お頭。斬ってもかまいませんか」
余裕たっぷりにいう。

「いや。待て、こやつは、おれが手にかけよう」
河内国助の大刀をひっさげ、するすると近寄る長谷川平蔵へ、
「だあっ!!」
網切の甚五郎が、必死の一刀を躰ごとに突きこんだ。

−中略−
すくいあげるように切った平蔵の一刀に、甚五郎はあごから頬を切り割られ、ぐらりとよろめくのへ
「なぶり殺しにしてくれる」
平蔵は刀をふるった。
脇差しをつかんだ甚五郎の右腕が切断された。

「うわ、わわ・・・・・」
「きさまなど、どんな死にざまをしてもいいのだ」
次に左腕が切断された。
そこで平蔵は大刀を鞘におさめた。
網切甚五郎は、峠道で、のたうちまわっている。
「お。お助け・・・・お、お助け・・・・・」
まるで別人のようにか細い声をあげ、甚五郎は土と血にまみれ、苦しみもだえている。

平蔵は、これを見つめつつ、
「てめえが手にかけた人びとのうらみをおもい知れ」
沈痛にいった。
甚五郎が息絶えるまでには、かなりの時間を要した。

−中略−
平蔵は九平をつれて、峠道を石動へ下った。
「おやじ、おどろいたかえ?」
「へ、へ・・・・・もう生きたここちもいたしませぬ」

−中略−
「江戸へ帰ったら、お前の芋酒を飲みに行くよ」
「へ・・・・・そ、それでは、わたくしを・・・・・・」
「目こぼしにしてやろう。そのかわ、二度と・・・・・・」
「け、決してもう、悪さはいたしませぬ」
「おやじ」
「へ・・・・・・?」
「御苦労だった。いや、まことに御苦労でだったなあ・・・・・・」

◆まとめ

  池波作品の真骨頂が、この「兇賊」と思う。読者がもつ、兇賊に対する、うらみを、あざやかな大刀さばきで、平蔵が晴らしてくれる。平蔵が甚五郎に浴びせる言葉に読者は共感する。市井の庶民に対する、平蔵のおもいやりあふれる、優しい言葉に胸をうたれ泪する。池波の軽妙洒脱な小説に読者は 、引き込まれ、夜が更けるのを忘れ、読み耽るのである。

 鬼平犯科帳を全巻読んで感じるたことだが、最初のころは、残虐なシーンが多かったような気がする。池波が歳をとるにつれ、人情話が多くなり、人間の機微を見事に表現している。その転換期の作品が「兇賊」と私は思っている。

 平犯科帳と池波正太郎_その6・・・・・現在検討中です。その5で終わりにするか、と、考えていますが、どうなることやら。

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鬼平犯科帳 長谷川平蔵 池波正太郎 倶利伽羅峠
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